そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.72 案山子 

  稲よりも案山子の出来の見事さよ  谷野予志
 いやいやそんなことを言っちゃあ失礼だよ。稲も見事な出来ですよ。

 学校の総合的な学習に農業体験をとり入れているところが多いが,米作りなどはかなり以前から行っていたところも多い。私が前に勤めていた学校もそうだった。田植え,稲刈り,稲こきなどの仕方を教わり,実際に行って,収穫後はみんなで餅や飯で会食をしておしまい。手作業で行った昔の農業などを教えてもらう。
 そんな中に案山子作りもあった。稲穂が下がるようになるとグループで案山子を作り田んぼに立てる。グループで顔立ち,衣装,スタイル等さまざまな工夫をして作ったものだった。

 さて,その案山子であるが,「かかし」とも「かがし」とも言う。『日本国語大辞典』(小学館)で調べてみる。
@(臭(かが)し)田畑が鳥獣に荒されるのを防ぐため,それらの嫌う匂いを出して近づけないようにしたもの。獣の肉を焼いて串に刺したり,毛髪,ぼろ布などを焼いたものを竹に下げたりして田畑に置く。おどし。A(@から転じて)竹やわらで作った等身大,または,それより少し小さい人形。…略…。B見かけばかりで,地位に相当した働きをしない人。…以下略…。

 どうも「かがし」説が有力らしい。今でも節分には鰯の頭とヒイラギの葉を竹串に刺して,戸口に立てておく習慣が因幡地方には残っているが,臭いで害するものを追い払おうとすることは各地で昔から行われていたようだ。また,案山子には「神への願い」のような気持ちもこめられていたのではないか,という感じもある。
 しかし,なぜ「案山子」という漢字が使われているのかについては分からなかった。

 では,今の田んぼに実際に案山子はあるのだろうか。もう稲刈りが始まろうとしている8月25日,気高町の会下から鹿野町の小別所までを車を走らせてみた。案山子は2ヵ所だけしか見当たらなかった。
 おもしろい習慣であり秋の田の風物詩とも言えるのだが,害獣・害鳥を追い払う効果という点では,今一つ確かなものがないということなのだろう。日本の田んぼからもう消えかかっている風景なのかもしれない。
           (2002.8.29)