そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.75 虫のこえ 

 
  ♪ あれ松虫が鳴いている ちんちろちんちろちんちろりん
    あれ鈴虫も鳴き出した りんりんりんりんりいんりん
    あきの夜長を鳴き通す ああおもしろい虫のこえ

              「虫のこえ」(文部省唱歌)

 我が家のまわりは畑や野原になっているので,この季節になると虫の声が夜を占領する。
 ところで,「虫のこえ」という歌は現行の指導要領では2年生の共通教材となっている。したがって,すべての2年生の教科書に載っていて,すべての2年生が歌うことになる。
 もう少し調べてみると,小学校各学年の共通教材は4曲ずつ示され,そのうち1年生から4年生までは3曲,5・6年生については2曲を指導することになっている。その共通教材24曲の内訳は,「文部省唱歌」17曲,「日本古謡」4曲,「わらべうた」1曲,その他2曲となっている。 

 では,「文部省唱歌」なるものはいつ生まれたのか。
文部省が最初に編集した唱歌教材集は,『小学唱歌集 初編』(明治14年11月24日刊)【写真は『小学唱歌集 初編』復刻版より ほるぷ出版】,『同 第二編』(明治16年3月18日刊),『同 第三編』(明治17年3月29日刊)の3冊であった。この中には欧米の学校で行われている教材(民謡などの中から選んだもの)に,日本語の歌詞をつけたものである。今でもよく知られ,歌われている「蝶々」「蛍の光」などはこれに載っているものである。

 しかし,文部省唱歌が登場するのはそれよりずっと後になる。明治43年7月14日文部省編集『尋常小学読本』の中の韻文教材に作曲するという形で『尋常小学読本唱歌』が発行された。これが最初の「文部省唱歌」である。これに掲載された27曲のうち26曲(1曲はわらべ歌)は日本人の作曲によるものであり,わが国の音楽教育がそこまで育ってきたことを示すものでもあった。
「春がきた」(高野辰之作詞 岡野貞一作曲),「虫のこえ」(作詞・作曲者不明),「われは海の子」(作詞・作曲者不明)の3曲は現在まで教科書に掲載され,以来百年近くも日本の子どもたちに歌い続けられているものなのである。 (2002.9.5)

参考文献『小学唱歌集初編』復刻版(ほるぷ出版)  『日本唱歌集』(堀内敬三 井上武士編
    岩波書店) 『子どもの歌を語る―唱歌と童謡―』(山住正己 岩波新書) 『小学
    校指導要領解説音楽編』(文部省)