そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.77 秋の山 

 
 「ムカゴ採りに行こうか。」(むかご ヤマノイモの葉のつけ根腋に生じる珠芽『広辞苑』)と妻が言うので,山を歩いてみることにした。春の山はワラビ採りなどでよく歩くが,なぜか秋はあまり出かけない。
 ワラビを採りに行っているあたりを探してみよう。

 二十世紀梨の収穫もほとんど終わっている。それでも違う品種の梨だろうか,果樹園で作業している人の話し声が,かけっ放しのラジオの声とともに流れている。
 山のようすは春とはずいぶん違っている。道が狭い。草木が生え繁って,道路まで覆っているからだ。果樹園を過ぎた所で車を止めて,雑木に這いあがっている蔓を調べる。

「何かありそうだけど。」「うーん,アケビならあるけどなあ。」(アケビ 本州,四国,九州の日当たりのよい山地に自生する落葉蔓木『四季の山野草』(緒方出版)より)まだ熟れてはいないが,実がたくさんぶら下がっている。
 実は甘くておいしいのにどうしてこんなに種があるのか。食べられて種を運んでもらうことを目的としているのなら,食べる側のことも考えてほしかった。「種無しアケビ」など改良品種を考えれば,結構売れるかもしれない。

 それにしてもクズ(葛)がものすごくはびこって,道を狭くしている。秋の七草の一つで,花だけ見ればなかなか派手で美しい。しかし,葉と蔓の勢いが強すぎる。
 吉野地方では根から澱粉をとり吉野葛として著名である(前述『四季の山野草』より)。「クズ切り」「クズ湯」「ゴマ豆腐」等の食用になり,葛根湯その他の漢方薬にもなる。

 妻は花の材料になるからとセンニンソウ(仙人草)を摘んでいた。キンポウゲ科蔓性のこの植物は,有毒植物の一つだというが,一方で関節リューマチ,肩こり,五十肩などに薬効があるという。どうも最近肩がこる(五十肩か)から,これで試してみるか。 
 同じ斜面の草原にツリガネニンジン(写真)が群生していた。「山でうまいのはトトキ(ツリガネニンジンの若芽)にオケラ,嫁にやるのがおしうござる」と言うくらいおいしいのだそうだが(前述『四季の山野草』より),私は食べたことがない。
 
 残念ながら目的のムカゴの収穫はなかった。少し時期が早いのかもしれない。アケビもクリももうすぐ熟れるだろう。秋の山もおもしろそうなので,また来てみることにしよう。
      (2002.9.10)