そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.82 9月の詩 

 
 
  赤とんぼ


飛んでいたから見えなかったなんて
あんなに大きな目玉で
見えないはずはないのに
見えなかったなんて
知らなかったなんて

体が鋭く尖って浮いていた
なぜ群れて
同じ方向に向かって飛んでいるのだろう
浮き上がるように
ああ そこには同じ思いがあった
負われて見たのは
追われて見たのは
なんだったのか
見えなかったなんて 分からなかったなんて
 
ふと留まる
留まって考える
首をかしげて
この冷たい空気の中に何があるの
分かったような顔をしたって
みんなに知られているのだから
飛んでいたから見えなかったのだろう
飛んでいたから分からなかったのだろう
なんて     

複眼ならいくつも見えただろうに
何も見えないだなんて
目に映る山も赤く燃えていた
眼下の景色だって
同じ思いが燃えていた
そしてこれから どこへ 行こうというのか