そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.83 彼岸花 

 
 

 旅の日のいつまで暑き曼珠沙華 臼田亜浪

 今年も彼岸花の季節になった。田んぼの畦に見事に咲き続いている。この花については,一昨年の9月に逢坂小学校のホームページに私の書いた文章がある。ここにもう一度掲載させてもらおう。(以下逢坂小学校ホームページ平成12年度【校長室から9月No.5】より)

 彼岸花が田の畦に咲き始めた。葉がないので,花だけが鮮やかだ。その名の通り,ぴたりと合わせるように秋の彼岸の頃に花を開く。今年のように猛暑の夏を過ごしても狂うことはない。彼岸花,曼珠沙華はよく使われる呼び名のようだが,死人花(しびとばな)も広辞苑には出ている。墓地によく見られるところかららしい。

「有毒植物ノ一ナリ、然レドモ其鱗莖ヲ晒シ食用ニ供スルコトアリ。諸州ノ俗名甚ダ多ク五十餘ノ方言アリ。和名彼岸花ハ秋ノ彼岸頃ニ花サクニ基キ,曼珠沙華ハ赤花ヲ表スル梵語ニ基ク。」(北隆館「牧野・日本植物圖鑑」より)

 畦や墓地に多いのは,人が植えたものだからであろうという。有毒植物であることを利用して,作物や死体を他の動物の食害から守った昔の人の知恵に感心する。

 国語4年の教科書(光村)に載っている「ごんぎつね」(新美南吉作)の兵十のおっかあの葬式の場面には彼岸花が登場する。
「墓地には,ひがん花が赤いきれのようにさきつづいていました。」実に印象的である。さらに,鳥取県児童詩文集「あじさい16集」(1971)の特別賞に選ばれた「ひがんばなは太ようのひかり」もよかった。これは,果樹園にそって咲く彼岸花を詩に表した1年生の作品である。
「歩きつづける 彼岸花咲きつづける」放浪の俳人種田山頭火の句にも見事に詠み込まれている。

 なお,彼岸花科の学名リコリス(Lycoris)は,ギリシア神話の海の女神の名だそうだ。

 今年も稲刈りの進む田に,彼岸花が燃える。

            【写真は14年9月20日撮影】