そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.95 読書(10月) 

 
 ひと月ほど前,早朝のラジオ(NHK第1「心の時代」)を聞いていたらある紀行文についての話をしていた。世界の文明,自然とそこに住む人々の生き方などの話であった。なかなかいい話だと思って,そのあと少しまどろんだら,なんという本だったか,作者は「森本」だったかなということくらいで,はっきりしたことは誰だったか忘れてしまっていた。
 それからしばらくして,本屋で文明・歴史に関するコーナーを見ていたら,森本哲郎氏の本を見つけた。でも,内容が違っている。中をぺらぺらとめくって彼の著書について調べてみると,『そして文明は歩む』(新潮社)があった。県立図書館から取り寄せる。
 
 これは「六つの文明の物語」である。 
 オリュンポスの神々がつくりだしたギリシアの「多」の文明,砂漠に生まれたユダヤ教,イスラム教,キリスト教という一神教が形成した「一」の文明,そのキリスト教をギリシア文明と和解させつつヨーロッパが築きあげた「三」の文明,インドの底知れぬ魂が育てた「ゼロ」の文明,中国の陰と陽の「ニ」の文明,森羅万象をひとしなみにつつみ込んでいる日本の「万」の文明。

 おもしろくて,一気に読んでしまったが,この本はラジオで聞いていた本ではないような気がする。「文明の分類」ではなく,「文明紀行」だったと思うのだ。巻末の著者の既刊本から『文明の旅』(新潮社)を見つけた。「歴史の光と影」という副題のこの本は昭和42年(1967)初版で,今と旅行事情など大きく違うのだろうが,彼の旅行観はしっかりしている。
〜〜現代の旅は,われわれの馴れ切った世界,月火水木金土……と果てしなく繰返される日常の世界を,そのまま旅客機に積み込み,観光バスに乗せ,ホテルに持ちこんでしまう。日常生活の世界から別の世界へ入ってゆくことこそ,本当の「旅」の意味なのに。(『文明の旅』より)
 私たちがこれまで行ってきた旅行も「別の世界」へ入っていくことはできていない。日常の生活を別の舞台で見ているだけなのかもしれない。

『水の時計』(初野晴著 角川書店)は,第22回横溝正史ミステリ大賞受賞作だった。さまざまな受賞作(一部しか読んでいないが)がすべて面白いということでもないが,これはなかなかのミステリーだった。
 人の命という大きなテーマに,臓器移植という現代的な問題から迫ろうとしているのだろうか。場面設定がおもしろかった。

『海辺のカフカ』(上・下 村上春樹著 新潮社)は,今話題の作品である。町公民館から借りて,これから読むところだ。(2002.10.18)