そらのやま「通信」     Yukito Shimizu


No.97 話・語り 

 
 国民文化祭の多くの催しの中に,行ってみたいいくつかのものがあった。佐治村で行われた「五しの里・笑いばなしin佐治」もその一つである。
 佐治谷話は,鳥取県の人ならそのいくつかは知っているであろう。以前には,「佐治谷のだらず話」として話されていたものだ。
 山陰の山奥の佐治の村人が,世間のことを知らないためさまざまなしくじりをする,そんな話が伝承されているものだった。

 午前11時ごろ車で我が家を出て,佐治村加瀬木に着いたのが12時近く。1時間ばかりで走ったことになる。昔はもちろん交通事情が違っていたわけだが,佐治の人たちが用瀬まで徒歩で数時間,鳥取の町まで行こうとすれば,朝家を出ても夕方でなければ着かない。正に「陸の孤島」だったのだろう。
 そんなところから,用瀬や鳥取の人たちからは「だらず話」として,佐治の人たちからは「教訓話」あるいは「滑稽話」として作られ,伝わり広まったのではないかと思われる。

 今回の国民文化祭で,佐治村は「五しの里フェスティバル」と名づけてふるさと祭りを計画していた。「五し」とは,
ほし……さじアストロパークの天文台を有していて,美しい星の見られる村である
わし……県内で昔からの和紙の山地は青谷町と佐治村だけである
なし……多くの農家が川沿いの傾斜地を利用して二十世紀梨の栽培をしている
いし……佐治川沿いに産する鑑賞石は古くから「佐治石」として知られている
はなし…佐治谷話
というのだ。

 それぞれについてイベントを持っていたが,「民話語り」を鑑賞することにした。
 近くの小さな食堂でニジマス定食を食べて会場にはいると,350ばかりある席はもう大方埋まっていた。「民話語り」は,佐治谷話のほかに,秋田県,山形県,福島県,群馬県,大阪府,岡山県,島根県,高知県,大分県,長野県,そして鳥取県の民話をそれぞれの民話の会の人が語り,それを鑑賞するものだった。
 それぞれの地方にそれぞれの民話がある。方言で語られるので意味がすぐには理解できないこともあるが,そこに流れるおかしさ・おもしろさは,時代を越えて,また,地域を越えて共通のものであると思った。笑いの中に人の生き方・考え方が潜んでいる。
 佐治村は,なかなかいいい企画をしたものだと感心した一日であった。(2002.10.22)