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『「J-デビット」は、このままでは視覚障害者の大きなバリアになる』
− 郵政省の「郵便貯金ICカードサービス」実験に学んで下さい −[1/2]
1999年2月4日
長谷川 貞夫 |
▲1.はじめに
デビットカードのシステムは、本来、健常者の生活を便利にするばかりでなく、障
害者のバリアフリー社会をも実現する生活基盤のはずである。
しかし、1999年1月4日から、一部の金融機関と会社で、とりあえず運用を開
始した「J-デビット」の実情を見るかぎり、このままでは、将来において、「J-デ
ビット」が、バリアフリーどころか、逆に、視覚障害者の生活における、「大きなバ
リア」になると警告せざるを得ない。
▲2.「J-デビット」とは
銀行などによる金融機関のキャッシュカードを、店舗にあるカード端末で買物の支
払いに使えば、それがデビットカードとなる。「デビット」とは会計用語の「即時決
済」と聞く。
「J-デビット」は、1998年6月に発足した、日本デビットカード推進協議会
が、実際にデビットカードのシステムを、実施するための名称と考える。
1998年12月現在、この組織に加入している金融機関は、915である。また
コンビニエンスストアなど、多数の店舗を有する会社が124社加入している。
この金融機関と会社の数の多さは、将来、全国の消費者に多大な影響を与えるであ
ろう。 そして、この「J-デビット」は、本年10月には各種の準備が整い、本格
運用を開始する。利用可能カード数は、約3億枚である。
その本格運用を前に、1月4日から、とりあえず一部で運用を開始したのは、8金
融機関、8会社である。
「大きなバリア」になることについて、以下、その具体的事例と、その改善策につ
いて述べる。
▲3. 8社の店頭におけるデビットカード端末の実際
視覚障害者対策として、ディスプレイ表示の弱視者対策や、音声案内なども必要で
ある。しかし、現状では、10月の本格運用までに、それらの改善が間に合わないか
もしれない。
それなら、準備が整わないため、ディスプレイの内容を人に読んでもらうとして
も、最低限、暗証番号だけは、視覚障害者が自分で入力できるようにしておかなけれ
ばならない。
そのため、ここでは、特に重要な、「視覚障害者が自分で、暗証番号入力ができる
か」について重点を置いて述べる。
会社は、A社からH社までの8社である。
●A 社(西武百貨店、全国の23店)
キーパッドは、NCR製で、電話式キー配列である。
このキーパッドは、横9センチ、奥行19センチで、後方が5センチ高い傾斜型で
ある。
数字の「5」に凸点がある。また、「0」の左、「訂正」キーの下に、点字で「テ
イセイ」、同じく右、「確定」キーの下に「カクテイ」と表示がある。この点字は、
キーパッド製作時に付けられたと考えられる。視覚障害者利用を配慮したキーパッド
である。
これは、電話式キーという前提があれば、視覚障害者は、現在、電話が自由に掛け
られるのだから、迷わず充分に使えるキーである。しかし、DからFまでの3社が計
算機式であり、これらが各社の店頭に混在する限り、せっかく、A社のキーに触って
も、それが電話式であることがわからないから、何式のキーかを人に教えてもらわな
いかぎり、これでも暗証番号を入力することができない。
以上のように、キーの区別ができないのは、全くA社からF社の責任ではない。そ
れは、CD・ATMなど、電話機でも、計算機でもない端末機械の不統一を、放任し
てきた担当機関の責任である。
なお、このキーパッドには、手の動きで、暗証番号を盗み見されないように、キー
パッドの左右の面に、手前から奥に向かい、段々と高くなり、最高部が5センチの壁
がある。また、奥の面も壁になっている。これは、暗証番号の秘密保護上望ましいこ
とである。
●B 社(ビックカメラ グループ)
キーパッドの製造会社はA社と同じである。違いは、「訂正」キー、「確定」キー
にあった点字表示がないことである。
このような端末機に、点字など障害者配慮を行なうかどうかは、機械の製造会社の
意向より、端末機を注文する側の会社における姿勢によると思われる。
● C 社(ローソン、約6800店のうち、東京の港区・品川区、埼玉、岐阜の
25店)
キーパッドは、NEC製である。大きさは、A、B社のものと、ほぼ同じである
が、傾斜はない。
キー配列は、電話式である。また、数字キーの「5」に凸点がある。
A、B社に共通にあった、手の動きを隠すための壁がない。これでは、キー操作時
における暗証番号の秘密が守られない。また、A社のような点字表示はない。
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●D 社(コスモ石油、約6500店のうちの約2000店)
ガソリンスタンドなので、自動車の運転者が、給油のため、「J-デビット」で支
払った話による。
キーは、キーパッドでなく、ガソリンスタンドの屋外のレジスターにある数字キー
である。 キー配列は、計算機式である。であるから、A、B、C社と異なる。
ここでは、デビットカードによる支払いのため、自動車を一旦下りて、屋外のレジ
スターまで行き、暗証番号入力を行なうことになる。
車椅子使用者や、松葉杖などの歩行障害を伴う障害者が、単独で自動車を運転する
場合がある。この際、車を下りないと「J-デビット」が使えないのはバリアであ
る。
キーパッドを設け、そのケーブルを長くするとか、リモコン式のようにするなど、
自動車の中で、暗証番号を入力できる方法を取るべきである。健常者にとっても、そ
の方が便利ではないだろうか。
●E 社(近畿日本ツーリスト)
キーパッドは、富士通製である。
キー配列が計算機式であり、その上、数字「5」に凸点がない。点字表示もない。
このままでは、視覚障害者に使えないキーである。
計算機式キーとしては珍しく、「0」が最下段の中央にある。その左が「訂正」
キーで、右には「確定」キーがない。
計算機式キーの中でも、「0」の位置が異なるものがあるかぎり、「計算機式で
す」と言われても、「0」の位置がまちまちだから、正しく暗証番号を入力できな
い。
「確定」キーがないということは、暗証番号の4桁を、キーで4回押すと、それで
確定することになる。キーを押す回数が少ない方がよいが、A〜Dのように、「確
定」キーを含めて、5回押すものと混在すると、視覚障害者にはバリアになる。
形は、横が約6センチ、縦が11センチ、厚さ約1センチと手のひらに入るほどの
大きさである。 机の上に置かなくても、片手で持って、人に見られぬように暗証番
号入力ができるから、秘密保持にはよいかもしれない。
E社では、顧客としてキーパッドを使ったわけではないから、これは、キーパッド
を外観した上の意見である。
●F 社(きょうと情報カードシステム、630店)
キー端末は、オムロン製である。京都なので、直接に行ってまでキーの確認はして
ない。電話で問い合わせたところ、キー配列は、計算機式である。A社のように、点
字表示があるかは不明である。
●G 社(日本交通公社)
とりあえずは、会社の窓口でなく、ローソンなどにある、マルチメディア端末で、
宿泊、乗車券、航空券などの取り引きができる。
最悪なことに、画面表示はタッチパネル式である。そのため、パネルに描かれた、
数字キーの配列は、視覚障害者には全く使えない。しかし、念のため記しておくと、
A〜F社までの6社とも異なり、「1,2‥‥9,0」までの横1列の配列である。
もし、旅行などに必要な手続き操作を、誰か別の人に代って行なってもらうとして
も、どうしても、最後の暗証番号入力は、視覚障害者が自分で行なわなければならな
い。
以上の理由で、このようなタッチパネル式端末機の場合は、必ずボタン式キーを横
に設ける必要がある。
●H 社(大和証券、約120店のうちの3店)
会社の中に、約2平方メートルほどの個室があり、タッチパネル端末が備えられて
ある。その前が机の面になっていて、書類などが広げられる。
この証券会社に取り引きのある人なら、このタッチパネル端末を用い、社員と顔を
合わせることなく、証券などの商品の取り引きができる。
この端末機を使うには、H社と事前の手続きが必要である。私は、その手続きをし
てないので、タッチパネルの画面を暗証番号入力まで開くことはできなかった。
タッチパネル画面のため、G社と共通に、視覚障害者の利用は全くできない。最低
限、暗証番号入力ができるよう、G社の場合と同じに、ボタン式キーを設けるべきで
ある。
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▲4.「郵便貯金ICカードサービス」が改善の参考
「J-デビット」の改善策については、1998年2月から、埼玉県大宮地区で実
験が行なわれている、郵政省の「郵便貯金ICカードサービス」に学ぶことができ
る。
これは、「J-デビット」と同じ大きさのカードにICが埋め込まれているだけ
で、店舗において暗証番号をキーパッドで入力するなど、利用法については、「J-
デビット」とほぼ同じものである。
この場合、郵政省の実験開始に伴い、視覚障害者の側から、積極的にこの実験に参
加した。
そして、大宮地区の店舗で、実際に暗証番号入力のキーパッドなどを操作し、それ
に基づく意見を郵政省に申し入れた。
郵政省は、よくこれらの意見を聞き、視覚障害者団体の代表、この問題に関心を抱
く視覚障害者や関係者などを、郵政省に集めた。そして、試作キーパッドまで用意
し、具体的に意見を求めた。
ここでは、その詳しい内容を省略するが、大宮地区の店舗では、暫定的な処置では
あるが、既に、視覚障害者が、キーパッドによる暗証番号入力ができるようになっ
ている。
[▲9.(2)、(3)、(4)参照]
そして、1999年度の予算により、後に述べる「電話式キー配列」による、本格
的に改良されたキーパッドを、配置する予定である。[▲9.(1)参照]
「J-デビット」は、10月の本格運用を前に、真剣にこの例を見習っていただき
たい。一旦設置されてしまった端末機などは、老朽化するまで、そのまま使用されて
しまうのが普通である。
「J-デビット」は、視覚障害者を招くなどして、設置前の機械を評価させていた
だきたい。その上で設置すれば、間違いを起こさないのではないだろうか。
▲ 5.バリア問題における原因の本質
バリア問題の原因の本質は、郵政省の郵便局を除く、金融機関の、長年にわたる視
覚障害者サービスの不足にある。
銀行などにおける、CD・ATMの視覚障害者の状況が、今度は、全国における店
舗のカード端末の前において、展開されるのである。それが予想されるのに、このま
ま放置することが許されるであろうか。
▲6.銀行などのCD・ATMの前における視覚障害者の状況
視覚障害者は、障害があるので銀行などへ行くのも困難である。しかし 生活のた
めには行かざるを得ない。
銀行などでは、現金の引き下ろしなどは、すべて機械で行なうのが現状である。視
覚障害者はATMなどが使えないので、行員に手伝ってもらう。「手伝ってもらう」
とは、相手が行員とは言え、「カードを預け、暗証番号を教え、キー操作を代行して
もらう」ということである。
銀行の行員であり、また監視カメラなどもあるから、今日まで、何となくこれで過
ごしてきたが、視覚障害者には大きな不満であった。
本来は、郵便局のように、これまでにどこの銀行などでも、視覚障害者が自分で操
作できるようにしておくべきだったのである。
郵便局は、1984年10月より、局内の自動機械化のバリアフリーについて、視
覚障害者に意見を聞くなどして進めて来た。
銀行などにおいて、合成音声や、点字ディスプレイ装置のついたCD・ATMを備
えたところがないとは言わない。しかし、全体のATMなどの数から見て、それは、
非常にわずかであり、利用する立場から見れば、ほとんどないに等しいと言わざるを
得ない。
ところがである。このCD・ATMの前の状況が、全国の店舗の「J-デビット」
における端末の前で繰り広げられるのである。
銀行などの行員だけが善人だとは言わないが、監視カメラもなく、また店員の交替
も激しい店舗などにおいて、暗証番号を、店員に教えることはできないし、危険を感
じる。
皮肉なことに、これでは「J-デビット」が普及すれば普及するほど、視覚障害者
は買物ができなくなるのである。
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▲7.視覚障害者は現金で買物をすればよいのか
それなら、「視覚障害者は、現金で買物をすればよい」というかもしれない。周知
の通り、社会はキャッシュレスの方向に向かっている。
鉄道の駅に自動券売機が置かれ、いつの間にか駅員のいる切符の窓口がなくなった
ように、「J-デビット」による無人化の店舗が増加するのではなかろうか。
また、すでに、「J-デビット」の中で、「キャッシュバック」という「J-デビッ
ト」のカードを使った場合、現金を口座に、一定の率で払い戻している例がある。
このようなサービスが普及した場合、現金だけで購入する視覚障害者は、そのサー
ビスを受けられないことになる。
▲8.視覚障害者におけるバリアフリーのカード端末
「J-デビット」は、今後、その技術を改善しながら、発展して行くものと考え
る。
視覚障害者における理想的バリアフリーとは、「J-デビット」の機能を、健常者
と同じに使えるようにするということである。
現在、郵便局の最新のCD・ATMなど、それに近いシステムを設置しているとこ
ろがある。真に「J-デビット」が、「バリアフリーの必要性」を認めるなら、銀行
などのCD・ATMについて、郵便局の最新のCD・ATMが持つ、画面読み上げ
と、押しボタン式キーの装備を実現すべきである。
理想的端末とは、一言で言えば、いかにディスプレイなど視覚を必要とするもの
を、弱視者対応の画面や、音声や点字で表示するかということである。また、暗証番
号入力などを、視覚を必要とせずに入力できるようにすることである。
それらの望ましい事項について説明する必要もあるが、以下のことは10月の本格
運用までに、必ず実施していただきたい最低限度のことである。
▲9. 10月までに、視覚障害者が自分で暗証番号入力ができるようにする
「J-デビット」では、店舗において暗証番号を正しく入力しないかぎり決済が行
なわれない。「決済が行なわれない」ということは、買物ができないということであ
る。
買物ができないどころか、誤って、3回程度暗証番号入力を繰り返すと、そのカー
ドは無効となり、再発効まで使えない。その、カードを無効にする誤り入力の回数
は、カード発行の金融機関で異なる。カードがないと、現金さえ下ろせなくなる。そ
れでは生活ができない。それが恐ろしくてカードが使えないことにもなる。
現在、「J-デビット」を視覚障害者が利用する場合、以上のような深刻な問題が
ある。視覚障害者にとって、これは、生活をおびやかす、新たなバリアの誕生であ
る。
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