テレサポート報告:040509

− 録音されたICタグとテレサポートを合わせた駅のユビキタス社会実験 −


      長谷川 貞夫


 以下の記述は、これまで報告してきたテレサポートと、ユビキタス社会の関係のごく一部のあり方を探るものです。

 これからの時代は、ICタグなどが周辺に多く存在する、いわゆるユビキタス コンピュータ社会になると言われています。

 ユビキタス社会における情報の要素となるICタグを簡単に説明すると、1ミリ以下のICチップを搭載したプラスチックなどの情報のタグ(荷札)ということになります。

 このICタグには、多量の情報が記録され、繰り返し書き換えることができます。

 また、ICタグはバッテリーはなく、リーダと呼ばれる読み取り装置から発する電波を受信して電流を発します。ですから電源となるバッテリーが不要ですから利用できる期間が長いです。

 また、バッテリーが不要ですから、アンテナを含め、タグを薬の錠剤ぐらいに小型にしたり、切手を厚くしたような小さなものにすることができます。

 ですから、目的に応じ、いろいろな品物や場所に取り付けるなどの応用が可能です。

 ICタグは、以上のようなものですから、これを視覚障害者の歩行などの移動の場面なら、どのように便利にするための応用が可能かを考え、ごく初歩的な実験を試みました。


 その実験は、これまで報告してきたテレサポートと、実際に発売されている「ものしりトーク」というICタグとそのリーダとのセットを合わせて行なったものです。

  今回実験に使用した「ものしりトーク」(松下産業機器製)は、3種類のICタグとその録音・読取り装置であるリーダをセットにしたもので、これは、日本点字図書館用具部などの指定の施設で、視覚障害者の生活を便利にするものとして現在販売されています。

  「ものしりトーク」のセットにおけるICを封入したICタグは、コインぐらいの大きさの黒いプラスチックの円盤や、ワイシャツのボタン位の大きさのもので、これを利用する場合は、輪ゴムでとめたり、袋に入れて縫い付けたりして使います。

 タグを読み取るときは、リーダと呼ばれるテレビのリモコンのような装置をタグにかざしてボタンを押すと、あらかじめ録音しておいた音声で、その取付けた品物の名前や使い方などを伝えます。




■駅のエスカレーターに取付けたICタグをテレサポートで見付けて音声案内を聞く実験


 駅におけるエスカレーターを選んだのは、私の知るかぎり、なぜか駅のエスカレーターには、視覚障害者をそこへ案内する誘導ブロックも音声案内もないからです。

 視覚障害者の駅ホームや構内におけるエスカレーターの最も不便なことの一つは、このエスカレーターに危険を知らせる点ブロックはあるのに、そこまで誘導する線ブロックがないことです。

 また、階段の手すりには点字で何番ホームに行くかや乗り換えの表示があります。

 そして、エレベーターには、点字と音声でその案内があります。

 しかし、エスカレーターには、何番線のホームへ行くかなどの点字の案内表示もなく、また、それに代わる音声案内もほとんど聞いたことがありません。

 今回、録音されたICタグで視覚障害者を案内する実験の一例として、都営地下鉄大江戸線新宿駅のエスカレーターを選びました。

 それは、ホームから各方面の乗り換え路線に行くために3基並ぶエスカレーターがあるのに、それぞれを案内する点字や音声による何の案内もなく、視覚障害者が途方にくれ、エスカレーターに最も不自由さを感じるところだからです。

 ここは、エスカレーターに並行する階段もなく、エスカレーターを利用する以外に移動の方法がないところなのです。

 この3基並ぶエスカレーターは、朝夕の利用者の数に合わせ、時間帯により、2台が上り、1台が下り、あるいはその逆になるものです。

 このような移動方向の時間帯による変更も、視覚障害者の利用を一層困難にしています。

 このような訳で、視覚障害者の場合、このエスカレーターに誘導の線ブロックがない訳ですが、人の流れなどを頼りに何とかこの場所まで到達したとしても、どのエスカレーターが直進方向のものであり、どれが乗ることが危険である逆方向のものであるかが分かりません。

 もし、そこが直進方向のエスカレーターであったとしても、エスカレーターの行き先がどこか全く分かりません。

 もし間違って乗ってしまえば、それこそ、どこに到達したか分からなくなり迷ってしまいます。

 このようなところだからこそ、ICタグによる音声案内が最も適当と考えました。

 将来的には、音声案内の内容をエスカレーターの移動方向の変更に連動させることも可能かとも考えます。

  
 今回の実験の具体的な方法は次のようです。

 まずそのエスカレーターの周囲に通常の文字で案内表示されている内容をICタグに録音しました。

 通常の文字で案内されていることを視覚障害者にも伝えることが重要なのです。

 「ものしりトーク」のタグは3種類ありますが、標準型の直径30ミリ、厚さ2.2ミリのものを使用しました。

 この標準型は500円のコインくらいの大きさの黒い円盤状で、中央にヒモや輪ゴムなどを通せる小さな孔があります。

 このタグだけでは、テレサポートでは見付けにくいので、クリップに輪ゴムでタグを取り付け、そのクリップを約15センチ四方の赤い色紙にはさみました。

 この目立つマークを3基並んだエスカレーターの手前に高さ約70センチ、長さ約100センチ、幅約20センチの箱のような仕切りがありましたので、その平な場所に取り付けました。

 この準備の後に実験に入りました。

 エスカレーターから離れた位置で、私がまずサポーターにFOMA N900iでテレビ電話をかけました。

 サポーターはFOMA P900iでその電話を受け、私はテレサポートでエスカレーターのある方向へ案内してもらいました。

 それで3基並ぶエスカレーターの乗り降りの場所まで到達しました。

 その場所で改めてICタグの付いている赤い色紙で目立つマークを見付けました。

 そこから、サポーターの誘導で、なお、その赤い色紙のマークに手が触れる所まで接近しました。

 ここでは、右手にはN900iのテレビ携帯電話を持ち、カメラ部をマークに向けています。

 また、左手は「ものしりトーク」のリーダを握っています。

 両耳には、N900iのイヤホンマイクとリーダのイヤホンを付けている訳です。

 テレビのリモコンほどの大きさのタグのリーダの握り方は、親指が読取りボタンの位置で、中指がタグを読み取る先端部になるようにしました。

 テレサポートで誘導されて、中指の先がタグに触れたので親指のボタンを押しました。

 すると、ピッという音がして、録音の声が左のイヤホンから聞こえました。

 その内容は次のようです。


『右のエスカレーターは下りで乗れません。左の上りエスカレーターは京王新線口出口です。乗り換えは京王線、JR線、小田急線、丸の内線です。』


 これが2回連続して音声で聞こえてきました。

 まず、乗れない危険な方の案内があり注意を促します。

 続いて2回案内を繰り返すことで、内容がよりはっきりと確認できました。

 これで、右のエスカレーターは逆方向であり、知らないで乗ろうとすると、エスカレータに乗って下ってきた人と衝突することになり、危険であることが分かりました。

 そして左の上りエスカレーターに乗れば、京王線の出口で、JR線などの乗り換えができることが分かりました。


■以上で分かったこと

・視覚障害者の立場としては、テレビカメラ付き携帯電話とICタグリーダの2台を両手に持つことは困難です。

 これらを1台に合わせた端末を開発していただきたいと思います。

 また、誘導ブロックに埋め込まれたICタグの情報を読むために、白い杖にICタグリーダを取り付けた実験システムも作られています。

 これらを一体化し、一つの端末ですべてが対応できるようなシステムにしていただきたいと思います。

・テレビカメラ付き携帯電話については、現在の「らくらくホンV」(ムーバF672i)のように、キー操作などが音声で確認できるなどのものにしていただくことを強く希望いたします。

・今回は、テレサポートのN900iからのイヤホンと、ICタグを読取る
「ものしりトーク」の本体からのイヤホンを左右の耳に入れました。

 視覚障害者にとって、耳からの周囲の音は環境を知るための重要な情報です。

 ですから、耳を全くふさがないでテレサポートとICタグの音声を聞けるようにしたいものです。

 そこで、これからは骨伝導イヤホンマイクなどを用い両耳をふさがないようにして、テレサポートを受け、またユビキタスICタグの情報が聞けるようになればよいと思いました。



■終わりに

 今から約20年余り前にパソコンを用いた視覚障害者用ワープロが開発されました。

 それが契機となりパソコンが視覚障害者の間に普及しました。

 そして、今はテレサポートで、テレビ携帯電話が利用され、またユビキタス社会でICタグが利用されはじめた時代です。

 以上の実験により、かつてのパソコンによる視覚障害者用ワープロのように、テレサポートに合わせ、今後のユビキタス社会の発展において、視覚障害者の情報環境の改善に何らかの寄与ができれば幸いです。

 このユビキタス社会の実験は、これまで行なってきたテレサポートの技術の蓄積と、たまたま購入できるようになった録音可能なICタグを用いたものです。

 一方、これが専門の技術者により、一般の人、高齢者・障害者を対象としたユビキタス社会のシステムとして開発されつつあります。

 それにより、近い将来において、ユニバーサル デザインのユビキタス社会が実現するものと期待いたします。


(2004年5月9日)


テレサポートNETホーム


【写真説明】

(上)
・音声ICタグレコーダ「ものしりトーク」の左が本体「リーダ部」、右は3種類のタグ。

(中の上)
・「ものしりトーク」のリーダを標準型ICタグにかざす。

(中の下)
・大江戸線新宿駅のエスカレーター手前に置いたICタグをテレサポートで誘導され、リーダで読み取る長谷川代表。

(下)
・右手にN900i、左手にICタグリーダ、右耳にN900iのイヤホンマイク、左耳にリーダのイヤホンつけてテレサポートでICタグの音声を聞く長谷川貞夫テレサポートNET代表。

 

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