「新札発行後のバリアフリーは2千円札の流通凍結で」

− なぜユーロ紙幣のバリアフリーを参考にしなかったのか −

               長谷川 貞夫


 11月1日発行の3種類のお札の視覚障害者のバリアフリーにおける問題とそれに関係する対策を、ユニバーサルデザインに優れたユーロ紙幣と比較して述べさせていただきます。



■現状の問題を打開する方法は、「2千円札の流通を凍結すること」。

<問題の焦点>

 新しく発行されたお札を、その触覚による識別マークで、私は店のレジのおつりなどにおいて素速く区別できる自信がありません。

 識別マークで識別するには、まず、お札の表と裏、それに上下をそろえてお札の位置を正しくして持たなければなりません。

 お店などで、立ったままの姿勢で、何枚ものお札を持って、これを速く行なうのは困難です。

 また、識別マークは、お札を平らな机の上に置けばどうにか分かることもありますが、下に何の台もない場所ではそれは難しいです。

 ですから、私は、個人的には、お店で識別マークを用いてのお札の区別を行なったことはありません。

 私は、日常的には、お札の形の比較など、長さでその区別をしています。


・問題は、識別マークだけでなく、新札が発行された現在において、いかに視覚障害者がお札を正確に区別できるようにするかということです。


 今回の日本銀行券発行において、千円札と1万円札は、大きさで区別するかぎり、問題は少ないでしょう。

 それは、お札の横のサイズが旧紙幣と全く同じだからです。

 千円札は、新旧共に横が150ミリですが、その上の2千円札までには4ミリの差があります。

 また、1万円札も新旧共に、160ミリですが、その下の新5千円札までにやはり4ミリの差があります。

 この4ミリの差は、基本となる紙幣と比べるなどして、どうにかお札を長さで確認できる差です。

 本当は、2千円札が発行される以前の、3種類の長さが5ミリであった方がよかったのですが。


・今回、5千円札を旧5千円札よりわざわざ1ミリだけ長くしたことは、2千円札の154ミリより、2ミリ長くすることにより、2千円札の長さによるバリアをなくそうとし、そして、2千円札発行を続ける意図が汲み取られます。

 ところが、新5千円札と2千円札の2ミリの差では区別は無理です。

 その上、更に、旧5千円札との1ミリ違いでの3種類の混在があるのです。


*ですから、やはり2千円札の発行を凍結して流通を亡くすことが重要なのです。


ここで付け加えますが、現在発行されている日本のお札は、7種類となり、縦の長さ、つまり短い辺は76ミリに統一されています。


 問題は、次のことです。

・これからも残る横154ミリの2千円札、それより1ミリ長い155ミリの旧5千円札、更に1ミリ長い156ミリの新5千円札が混在することです。

 おおよそ2年間で旧発行のお札と新発行のお札とは入れ替わるとのことです。

 しかし、旧発行のお札が2年後において無効になる訳ではありませんから、旧発行のお札は長年にわたって全くなくなる訳ではありません。

 この金額が異なる1ミリ違いの3種類のお札の長さのものを指の触覚で区別するのは困難です。

 私には新札でも識別マークだけでは正確には区別できません。

 ましてや、識別マークは少し古くなれば読み取りも不可能になります。

 そして、この3枚が同じ金額のお札ならよいのですが、2千円札と5千円札なのです。

 これでは金額を間違えてしまいます。

 ここが困るところなのです。

  新札が発行されて、この7種類のお札を識別マークだけで判断するとなると、これも新たなバリアとなります。

 新旧の1万円札と千円札はサイズが同じなのに、新しい5千円札とともに識別マークだけが全く異なるからです。
 

・そこで、「2千円札を2000年九州・沖縄サミットの記念紙幣として事実上発行を凍結してもらう」。

これが今後の視覚障害者からの運動などによる、実質的な解決方法だと思います。

 なぜ、「発行を凍結して流通をなくすか」の理由については後に述べます。

 言うまでもなく、お金を間違えなく数えられることは、日常生活、職業などの経済活動において最も基本的で重要なことです。

 数種類のお札やコインのうち、1種類でも識別に不確実なものがあると、それだけで、数えたはずのお金の金額の全体が不確実なものになります。

 社会では、1円でも不確実な金額の受け渡しは許されません。

 ですから、1種類にせよ、お札でも、コインでも、識別できないお金の存在は、視覚障害者の社会生活において非常に大きなバリアになるのです。


 少なくとも、2000年のサミットを記念しての2千円札発行までは、日本のお金は、お札、コインともに、視覚障害者にとってバリアフリーのものでした。(上の右の写真)

1999年10月の第二次小渕内閣発足とともに、小渕首相は2000年の九州・沖縄サミットを記念しての、2千円札発行構想を発表しました。

 そして翌2000年にサミットを前にして、横が155ミリの5千円札よりも、わずかに1ミリだけ短い、横が154ミリの2千円札が発行されました。


・この2千円札の発行が問題の発端なのです。

 この1ミリの長さの違いでは、5千円札と2千円札の2種類のお札を手の触覚で区別することは困難です。


・政府は、高齢者や障害者のバリアフリーを唱えます。

 しかし、視覚障害者が長さで区別して自由にお札を数えられるという、それまでバリアフリーであったものを、わざわざ破壊するような失敗をしてしまったのです。

 しかし、この失敗を今後改善するような方向に計画を変更することは可能であると考えられます。


 視覚障害者に関係する各所のmlにおいて、新しいお札に対して、触覚による識別マークが話題になっています。

 その多くは、あの識別マークでは、分からない、あるいは、分かりにくいというものです。

 まだ、新しいお札でもそうなのですが、それが流通して古くなったら一層分からなくなるでしょう。


 今回の新札発行を前に、識別マークのサンプルを見たことがあります。

 そのサンプルと、発行された識別マークとでは、実際の感触は大違いでした。

 私は、お札を印刷の方法による指での識別は元来無理なことと考えます。

 それは、指での識別には、点字のように、ある一定の高さが必要だからです。

 ところが、お札は、何十枚、何百枚と重ねることがあります。

 点字は、最低でも0.2ミリ程度の高さがないと読めないと聞きます。

 ですから、点字に準じたような識別マークの付いたお札が100枚重なれば、識別マークのそこだけが、センチも高くなってしまいます。

 会社の業務や銀行のATMなどで、同じお札を1000枚程度重ねることがあると想像できます。そうなれば、そこだけ20センチも高くなり、実際上はお札を1000枚程度重ねるのは無理なことになります。

 いや、300枚程度でも無理に思えます。

 ですから、お札の一部分を高くするような方法で指で非常によく分かるような識別マークを付けるのは元々無理なことなのです。


お札を100枚重ねると、おおよそ1センチです。

 ですから、お札の1枚の厚さは、おおよそ0.1ミリです。

 そこに識別マークだけを0.2ミリ盛り上げることはできません。

 これを1000枚重ねれば、そこだけが20センチも高くなり傾いてしまいます。

 さりとて、紙の厚さと合わせて全体が平均して0.3ミリになるようにすれば、これをATMなどに入れられる枚数が3分の1になってしまいます。

 安全や能率から想像して、ATMへの現金の輸送量は、銀行業務での大きな問題と考えます。

ですから、印刷のインクの高さなどによるお札の識別方法には限界があります。

 このような理由で、触覚だけで充分に区別できるお札の識別マークの印刷は無理なのです。


・今、私は机の上で、新旧の3種類のお札と2千円札の7枚を重ねて幾度も試しています。

 それは、表と裏、上下をバラバラにして、それをそろえながらのことです。

 やはり、新旧ともに、識別マークではお札の識別は無理と感じました。

 しかし、これを、10ミリの長さで区別すれば、新旧ともに、千円と1万円は充分に分かります。

ところが、1ミリの長さでは、2千円札と、新旧の5千円札の区別は無理です。(上の左の写真)



■2千円札発行凍結の理由

 私は、新しいお札の発行の11月1日の夕刻に、全種類のお札を比べるために、池袋の某デパートの地下食品売場で2千円札を、つり銭として入手しようとしました。

 そこで、つり銭のもらえるレジを何カ所も回りながら探しました。

 しかし、この大規模なデパートの地下食品売場においてさえ、レジの中にはつり銭としての2千札は用意していないのでほとんどなかったようです。

  また、お客も2千円札を使わなかったのかもしれません。

 地下食品売場の責任者の方が必死で探して1枚だけやっと見付けてくれました。

 つまり、現状において、2千円札の流通は、かなり少ないということを再確認できました。


 2000年のサミットを記念しての 2千円札発行から4年以上になります。

 この間、評判の悪い2千円札を流通させようと日本銀行などは必死になりました。

 それで、ある銀行関係の職員は、月給のうち、一定の金額を2千円札だけで渡されるとも聞いた覚えがあります。

 以上のことなどで、2千円札が、これまでに流通できなくて発行者が困っていたことをうかがうことができます。

 ほかの3種類の金額のお札なら、レジでこのように探してもなかなか見付からないようなことはありません。

 つまり、2千円札の流通は、このようにほとんど停滞しているということです。

  ところが、その2千円札が全国にいる多くの視覚障害者の生活において深刻なバリアになるのなら、その発行を停止することを要求するのは正当なことです。

 社会全体は、2千円札の流通を求めていないのです。

 目の見える人から、2千円札と他のお札を間違えるので使いたくない、ということを聞いたことがあります。

 それならば、一層、2千円札は2000年九州・沖縄サミットの記念紙幣として、今後は発行を凍結してほしいということです。


・視覚障害者の個人、及び団体は、国及び日本銀行に対して、この要求をするべきであると考えます。




■2千円札発行の経緯

 前にも述べましたが、1999年10月に第二次小渕内閣が発足しました。

 その冒頭の首相のあいさつで、2000年の九州・沖縄サミットを記念しての2000円札発行の構想を発表しました。


 私は、その時に直感しました。

 これは困ったことになる。

 「2千円札を、それより金額の低い千円札より短かくすることはないであろう」。

 「また逆に5千円札より長くすることはないであろう」。

 「そうすると千円と5千円の長さの中間に入って来る」。

 こうなったら、どうにか5ミリの長さで区別していた千円札と5千円札が必ず区別しにくくなるはずです。

 そこで、私は、朝日新聞の投書欄の「声」に、これまでの紙幣は同じ縦の長さですが、新しく発行されるであろう2千円札については、これまでの1万円札、5千円札、千円札よりも、縦の長さで区別できるように数ミリ短かくする、つまり細長くすることを提案しました。

 この投書は、小渕首相の2千円札発行構想の数日後に、朝日新聞投書欄の「声」に掲載されました。

 また、日本で有数の視覚障害者団体に、今こそ視覚障害者組織として政府に新札のバリアフリーのために、2千円札の縦を短かくするように、具体的に提案するように連絡しました。

 組織は動いてくれたようです。

 10月10日過ぎの主な新聞紙上で、小渕首相から、「2千円札は、目の不自由な人のことも配慮しなければな」のような記事が載りました。

 これは、私が連絡した組織が政府に対して動いてくれた結果と思っています。

 小渕首相はサミット前に亡くなりました。

 そして、サミットを前に5千円より1ミリだけ短い154ミリの2千円札が発行されました。

 これが今日までの混乱の始まりでした。

  そして、これからも続くのです。






■ユーロ紙幣のバリアフリーに学ぶこと


 ところが、これと対照的に、ヨーロッパを中心とするユーロ紙幣が2002年1月1日に発行されました。

 このユーロにおけるバリアフリーは徹底しています。

  その時、私は、5ユーロから100ユーロまでの5種類を入手して比較しました。(左の写真)

 色は弱視などの人にも分かるように鮮やかに区別されているそうです。

 また金額を表わす数字も大きく書かれています。

 その数字も指で分かるように少し浮き出ています。

 残念ながら、この通常の文字の数字は大きくザラザラしていますが、私にはほとんど分かりにくいものです。

 最も優れているのは、この5種類のユーロは縦と横がそれぞれ数ミリずつ金額が大きくなるほど縦も横も長さが大きくなっているのです。

 私は、ばらばらに束ねられたこの5種類を、手の触覚ですぐに区別して金額の順に並べられました。


 日本のお札の特徴は、横の長さは金額により少しずつ違いますが、前にも触れたように縦は76ミリと一定なことです。

 7種類のユーロ紙幣では、これが額面の低いユーロからの5種類については、各金額により縦の長さも横の長さも違うのです。

 それ以上の高額のユーロは横だけが長くなっています。

 私はそれで、日本では縦の長さだけについては一定にするのが、ATMでお札を扱えるようにするからと想像しました。

 そこで、ユーロを用いているユーロ諸国の事情を確認しました。

 国内では、確かなことを伝えてもらえなかったのでフランスとドイツに国際電話も掛けました。

 そうしたら、この横と縦の長さの違うユーロをATMで扱っているとのことです。


 ATMの製造は日本が優れているはずです。

 そして輸出もしていると聞きます。

 また自動販売機もお金を区別しますが、日本は最も多く使われているとも聞きます。

 ですから、お札にせよコインにせよお金を機械で区別する技術は日本が優れていることは間違いありません。



・ そこで言いたいことは、なぜユーロのように、日本銀行券は2千円札を含む新たなお札の縦を、ほんの数ミリ短かくしなかったかということです。

 そうすれば、新旧のお札の区別、それに継続する2千円札の区別もできたのです。

 国と日本銀行は、2000年の2千円札の発行と、今回の新札の発行において、バリアフリーについて2度の失敗を繰り返しているのです。


・私は1999年10月の2千円札発行構想が発表された時、お札のバリアフリーのために、縦を短くした細長い2千円札の発行を朝日新聞の「声」欄で提案しました。

 また、同じことを日本で最大の視覚障害者組織にも政府に申し入れるように連絡しました。

 これは、視覚障害者の個人としてできるぎりぎりの行動でした。

 しかし、それは、2000年の2千円札発行には取り入れられませんでした。

 ところが、2002年に発行されたユーロ紙幣においては、私の意見を取り入れたとは思いませんが、期せずして同じ考えの紙幣になっています。

 元々、お札は、金額が大きくなるほど、横も縦も大きくなっていたものなのです。

 日本では、おそらく、ATMの採用で幅を同じ幅にしたと考えます。

 ユーロ紙幣は、横も縦の長さも違うのにATMで取り扱っています。

 政府と日本銀行は、識別マークのほかに、お札のサイズについて、このユーロ紙幣を参考にすべきだったのです。

 つまり、私の提案と、既に実施されていて参考にできるユーロ紙幣をバリアフリーに採用しなかったのです。


*お札の裁断は、設計された寸法で行ないます。

 どのような大きさのお札の寸法でも費用は同じです。

 これで、視覚障害者のバリアフリーが保たれるなら、こんなにたやすいことはありません。

 2千円札の縦を短かくして、少し細長いお札にしてくれていたら、日本のお札のバリアフリーは保たれていたのです。

 ここで、再び2千円札の発行で、わざわざバリアフリーを破壊されてしまったと言わざるを得ません。

■新紙幣発行方針の統一性

 もし、10年〜20年で新紙幣の発行が繰り返されるのでしたら、縦については長い体系、短い体系を繰り返すのがよいと考えます。

 額面については、時代によりお金の値打ちが異なると思いますので、その新紙幣において、横の長さで区別できるようにするのがよいと考えます。



■おわりに

 今は情報革命の時代です。
 情報の対象でもあるお札やコインは、情報機器であるATM、各種の自動販売機などで扱われています。

 また、手で数えられる貨幣としてでなく、プリペードカード、電子マネー、キャッシュカードなどで、データとしても扱われています。

 このような時代において、視覚障害者は、お札やコインなどの手で数えられる貨幣のバリアフリーも大切ですが、各種のプリペードカード、入金可能な電子マネーカード、及び一部で実際に行なわれている携帯電話の電子マネー機能、インターネット上の各種の支払いなどのバリアフリーも、これからは一層重要なものになると確信いたします。

 個人、及び団体は、これらの情報システムにおいても、視覚障害者のバリアフリーを継続して真剣に見守る必要があります。

 また、ユビキタス社会として、ユーロにICチップをお札に刷り込むという情報もあります。

 これも、バリアフリーの立場から、よい方向を示すものと期待しています。


2004年11月7日


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