5-3 繰上保全差押
[1]要件
(1)次のすべての要件に該当するときは税務署長は、その国税の法定申告期限前に、繰上保全差押金額を決定することができる。
この場合においては、徴収職員は、その金額を限度として、その者の財産を直ちに差し押えることができる。
なお、繰上保全差押金額とは、その確定すると見込まれる国税の金額のうちその徴収を確保するため、あらかじめ、滞納処分を執行することを要すると認める金額をいう。
@繰上請求の事実に該当すること
A納税義務の成立した国税等でその確定後においてはその国税の徴収を確保することができないと認められるものがあること
(2)繰上請求の事実とは、次の事実をいう。
@納税者の財産につき強制換価手続が開始されたとき(仮登記担保権の実行通知がされたときを含む。)
A納税者が死亡した場合において、その相続人が限定承認をしたとき
B法人である納税者が解散したとき
Cその納める義務が信託財産責任負担債務である国税に係る信託が終了したとき
D納税者が納税管理人を定めないで国内に住所及び居所を有しないこととなるとき
E納税者が偽りその他不正の行為により国税を免れ、若しくは免れようとし、若しくは国税の還付を受け、若しくは受けようとしたと認められるとき、又は納税者が国税の滞納処分の執行を免れ、若しくは免れようとしたと認められるとき
[2]手続
(1)国税局長の承認
税務署長は、繰上保全差押金額を決定しようとするときは、あらかじめ、その所属する国税局長の承認を受けなければならない。
(2)繰上保全差押金額の通知
税務署長は、繰上保全差押金額を決定するときは、その金額を納税者に書面で通知しなければならない。
(3)繰上保全差押に代わる交付要求
[1]の場合において、差し押えるべき財産に不足があると認められるときは、税務署長は、差押に代えて交付要求をすることができる。
この場合においては、その交付要求であることを明らかにしなければならない。
[3]効力
(1)税額確定後の効力
繰上保全差押又は担保の提供に係る国税につき納付すべき額の確定があったときは、その差押又は担保の提供は、その国税を徴収するためにされたものとみなす。
(2)換価の制限
繰上保全差押をした財産は、その差押に係る国税につき納付すべき額の確定があった後でなければ、換価することができない。
(3)差押金銭の供託
税務署長が繰上保全差押をした金銭がある場合において、その差押に係る国税につき納付すべき額の確定がされていないときは、これを供託しなければならない。
[4]担保の提供及び差押の解除等
(1)差押の制限
繰上保全差押金額の通知をした場合において、その納税者がその金額に相当する担保を提供してその差押をしないことを求めたときは、徴収職員は、その差押をすることができない。
(2)差押の解除、担保の解除
@徴収職員は、繰上保全差押を受けた者が適当な担保を提供して、その差押の解除を請求したときは、その差押を解除しなければならない。
A徴収職員は、繰上保全差押金額の通知をした日から10月を経過した日までに、その国税につき納付すべき額の確定がないときは、その差押又は担保を解除しなければならない。
B徴収職員は、繰上保全差押を受けた者又は担保を提供した者につき、その資力その他の事情の変化により、その差押又は担保の徴取の必要がなくなったと認められることとなったときは、その差押又は担保を解除することができる。
[5]無過失賠償責任
繰上保全差押に係る国税の納付すべき額として確定をした金額が繰上保全差押金額に満たない場合において、その差押を受けた者がその差押により損害を受けたときは、国は、その損害を賠償する責に任ずる。
この場合において、その額は、その差押により通常生ずべき損失の額とする。