10Ж12С(WE-310A)フォノイコライザアンプの製作   更新日:2017.12.30


 【序】  開店休業中のイコライザアンプを今一度音質改善できるかどうか弄ってみようと繋いで音出し、久しぶりにレコード鑑賞を 始めました。音質は今一だった印象があり、悪さ加減を再検証するつもりだったのですが、改めて試聴してみると意外に悪く ない音質です。。悪ければバラすつもりだったので、残す事とし、せっかくなので防備録として記録を残そうと纏め直してい たところ、作りっ放しが災いして、各部の電圧配分がおかしな事になっているのに気付きました。いろいろと放置していた部 分を是正しながら検証する事にしました。  このWE-310Aを使ったフォノイコライザアンプは無線と実験のバックナンバーで見つけた製作記事で、WE-310Aはあまり入手 しやすい真空管では無いのですが、 91B型アンプではフォトセルの音声出力を直結する為の高ゲイン増幅用に採用されている などフォノイコライザにはうってつけの球です。   WE-310Aと10Ж12Сの素性を知るには丁度良い機会であるし、アナログ盤を中心とした音作りの基準点を設けるという意味 でも独立したフォノイコライザアンプは重宝するのではないかと思います。また、プリアンプとしてしまうと音質の面でハズ レをひいてしまった場合の金銭的リスクが大きくなるので、あくまでも音質を確認できるレベルで試作機を上手く纏めて使い 勝手を良くした物を目指しました。
【回路】 原典回路は無線と実験誌バックナンバー1978年10月号に掲載された、WE-310A と5692を使ったNF型フォノイコライザーの製作 記事です。なんとほぼ40年前の記事ですが、WE-310Aは入手しやすい真空管ではなためかWE-310Aを利用した製作記事そのもの が少なかった様に思います。  その製作記事では電源部とアンプ部で分離して別シャーシになっており、これでは使い勝手が悪いと思われましたので、1つ のシャーシにコンパクトに纏め直しています。また、ヒーターは10V管と6.3V管の混在するため、電源ランスの都合により6SN7 (5692)を12SN7に変更して、安定化回路を簡便に済ませるため3端子レギュレータの7810と7812を使っています。 これにより、ヒーター電流容量が定格内となり、電源トランスのヒーター巻線のやりくりが上手く行きました。また、5692は 6SN7の高信頼管、12SN7は6SN7の12Vヒーター版ですので回路定数はそのまま使えます。  それから、WE-310Aは同等管の10Ж12Сに変更していますが、これは手持ちのWE-310Aが1ペアしかなく、既に別のアンプで使 用しているためです。ちなみに、この同等管も最近では入手困難になりつつあるようです。
【10Ж12С】  10Ж12Сは '90年代終わり頃から秋葉原に林立し始めた真空管ショップで入手したロシア製の WE-310A同等管です。当時、倉 庫放出の無選別の真空管がいろいろと安価で売られていました。そんな中、10Ж12Сもショップに出回る様になり、比較的安く 手に入れた経緯があります。当時は WE-310Aの廉価版の様に思っていましたが、決していい加減な物ではなく、きっちりと製造 管理されて造られた様子が外観からも見て取れ、かなりグレードは高いと思われます。 【電源トランス】  ネットオークションで入手した詳細不明のジャンクトランスを使用しています。恐らく、東立通信工業か池上通信工業製だと 思われますが、前所有者がプレートを外し、表示を塗りつぶしてしまったためスペック不明となっています。同サイズで似た様 なタップを持つトランスを別に持っていてそれから電流値等を推測して使用しています。
【シャーシ】 奥沢の型番O-21、サイズ300mm×150mm×40mm(1mm厚アルミ)です。
【ソケット、シールド】  ソケットは国産のタイト製のUZ6タイプとCHINCHのマイカ製のUS8ソケットです。シールドケースは WE-310A用の物が売 られていますが、高額でサイズも大きいので、丁度良いサイズのラジオ用のシールドケースが手元にあったのでそれを使いまし た。但し、シールドケースの高さが少し足りないので、ソケットを少しシャーシ内に落とし込んで高さを合わせています。
【その他パーツ】  抵抗は三栄無線で売られていた理研のソリッド抵抗、コンデンサは国産のオイルコン、イコライザのNF回路にはマイカコン デンサを使用しています。電源回路のブロックケミコンは骨董品ですが、これがないとシャーシをコンパクトに纏めるのは難し くなりますが、リード型のパーツを使い基板にコンパクトに纏めるのも良いかと思います。
【試聴】  本機フォノイコライザアンプをWE-141型のバッファーアンプに繋ぎ、EL-34パワーアンプとWE-755Aスピーカーという組合せで 試聴をしました。カートリッジはオーディオテクニカのMM型の AT-150E、元々このフォノイコライザアンプはかなり硬質なサウ ンドで、MM型のカートリッジと組み合わせると高域が強くちょっと耳障りな印象があったのですが、後段のアンプとスピーカー の組合せでバランスがとれた様で、こうも印象が変わる物なのかとびっくりしています。  次に昇圧トランスを挟んでGRANTZのMC型カートリッジを繋げました。やはり、MC型だと中低域に厚みが出て全体のバランスが とれます。今回はMC型カートリッジに軍配が上がってしまいました。
【今後】  アナログレコードを所有している人が少なくなる中、レコードプレーヤーとカートリッジを買って、フォノイコライザアンプ を真空管で自作して音楽を聴くという事自体稀な存在になってきました。大昔はそれが当たり前だったわけですが、今の真空管 アンプの在り方においてフォノイコライザアンプは完全に置き去りにされています。プリアンプの存在意義が無くなり、レコー ドプレーヤーにフォノイコライザアンプがおまけに付いている以上無理からぬ話なのですが、パワーアンプだけが真空管式とい うのに違和感を覚える自分としては、過去に埋もれた真空管式フォノイコライザアンプの製作記事にも今一度日の目を見させた いと思います。
【参考文献】 ・ 無線と実験 1978年.10月号 誠文堂新光社 310A-5692 ステレオイコライザー・アンプ  箕田 亮平著  

戻る