WE-310A&506Aトランスを使ったバッファーアンプ
更新日:2022.4.1

 【序】  過去の話となってしまいますが、無線と実験誌1989年5月号で松並さんがお書きになったLCRイコライザア ンプの製作記事を当時の自分が目にして以来、心の片隅にひっかかっていた506Aトランスですが、これを使 ったバッファーアンプが既に稼働しており、10年程経過していますが、なかなかの好音質で且つ安定に動 作してますので、このHPで紹介する事にしました。
松並さんの記事をご覧になられた方は解ると思いますが、当時 LCRイコライザーアンプを製作するだけで もかなりの難易度で、そこにWE製の506Aトランスという初めて聞く型番のトランスがそこに使用されていて、 その時のパーツの流通状況を考えると部品の入手を含めかなりの高難度のアンプだった記憶しています。  しかしながら当時の自分は製作記事を眺めて妄想を膨らますだけが関の山で、506Aトランスを入手するな んて夢また夢でした。  しかし、時代が進んでネットオークションが始まり、しばらくするとこの様な貴重なトランスが当たり前 の様に出品される様になり、手頃な値段で出品されているのを見て居ても立ってもいられず入札したところ 運良く手に入った次第です。  ちなみに出品者はどうもその当時に506Aトランスを輸入販売した六本木研究所の関係者?と思われ、六本 木研究所が纏めた貴重な資料を添付して下さいました。また、オークション落札時は個人の Webサイトでも 技術情報を公開されてましたが、今はWebサイトも無くなり詳細はわかりません。
【506Aトランス】  このトランスの特異な点は、 WE-310Aをドライバーとして使う様になっている点で、インピーダンス比が 60KΩ:600Ωというちょっと信じられない仕様になっています。  実は506Aトランスを使ってみたくなった理由がそこにあって、 WE-310Aのような高rpの球をドライバーと して使い、そのためにわざわざトランスまで用意した技術者の設計に興味があったからです。 資料画像 ダイオードを使ったゲート回路。参考文献 パルス回路 トランスを譲って頂いた方が506Aトランスを搭載していた装置の回路図と実測データを資料として添付し て下さったおかげでこのトランスの素性がなんとなく見えてきました。その資料によれば、506Aトランスは 元々WESTERN ELECTRIC社の復調器に使われていた様で、復調後の音声信号を WE-310Aで受けて音声帯域を取 り出すフィルターとアウトプットのインピーダンス整合を兼ねたトランスとして作られた様です。
 外観は画像でわかる通り、板金折り曲げで作ったケースで、WESTERN ELECTRICの金ロゴどころか、社名表 示もなく、KSナンバーもなくただ506A書かれていてWE社と関連付ける表記は見当たらず愛想がありません。 WEロゴに拘る方には絶対にお勧め出来ない代物です。  ただ、それなりの来歴が有る事から、流れを汲むトランスで有る?という事は言えそうで、純オーディオ 用ではないものの準オーディオ用トランスといったところで、オーディオに転用しても支障はなさそうです。  注)ここでオーディオに「転用」という表現を使ったのはトランスの本来の用途とは異なる使い方をする 上で、「WESTERN ELECTRIC」と書いてあれば何でも「音が良い」としてオーディオに転用する風潮に慎重な 姿勢を示したつもりです。オークションで落札した時の506Aトランスはそれでも結構高額で、金額に見合っ た好みの音が得られるかどうかの保証は全くありません。トランスの使用に関しては慎重にならざるを得ま せんし、まして簡単に人に奨める様な物ではないと考えていますのでその点を考慮の上、ひとつの参考例と して見て頂ければ幸いです。  さて肝心のスペックですが、一次側インピーダンスが 60KΩで10mAまで直流重畳可能、二次側インピーダ ンスが 600Ω、極めて効率が悪く、増幅した分ステップダウンされてしまいます。しかも、一次側にイン ピーダンス補正の抵抗が必要でここでもゲインを落とす要因となっています。  周波数帯域はシングルアウトのトランスにしては低域側に寄っており、逆に高域の減衰は2次側を600Ωで 終端した場合は高域が落ち、10KHz がせいぜい関の山といった状態になります。  一方で高インピーダンスを得るために一次側インダクタンスは高い様で、それによる影響が低域側のレス ポンスに現れていると思われます。通常、シングルエンド用に直流重畳可能なトランスは低域側のレスポン スは悪いのですが、他のシングルエンド用のトランスと比較して見てもかなり低域寄りで、入手した実測値 でも20Hzまで伸びています。 SPEC比較 (WE)506A 60Kohm:600ohm、DC重畳は10mA、20〜10,000 Hz UTC A25 15Kohm:500,333,250,125ohm、DC重畳は8mA 40〜20,000 Hz タムラ A-875 17Kohm:600ohm、DC重畳は10mA 50〜15,000Hz?   【回路】  添付された資料には WE-310Aと組み合わせた3結と5結の特性があり、高域の特性が良い3結を選びました。 5結の場合は600Ωで終端すると高域の特性が10KHzを大きく割り込むようで、さすがにこれでは使い物にな りません。また、3結にしたとしても、その時のゲインはもう1を切っている状態で非常に弱々しいアンプ にしかならず、フィルターの付いたインピーダンス変換回路といった感じで不安がよぎります。
 ちなみに、松並さんはこれを使って LCRイコライザアンプをお作りになられたようですが、さすがにゲイ ンが低すぎるのでないかと思うので、自分はバッファーアンプに留め汎用的に使う事にしました。  LCRイコライザについては「低コストで作れるLCR型RIAAイコライザアンプの試作」に纏めてあるので、そ ちらを御参照下さい。 【シャーシの製作】  市販のシャーシでサイズのあった物を探しましたが、WE-310A のシールドケースの高さに合う適当な物が 見当たらず止む無く自作する事にしました。弁当箱シャーシをベースに、べニア板の余材を使ってコの字型 に組み、上側部を木のカバーとしました。前面はヘアライン加工のアルミパネル、後面と底面は市販のアル ミ板を加工して配しました。  シャーシの外観を画像に示します。雰囲気は '70年代頃のステレオコンポのデザインを真似ていて、レベ ルメータとバックライトも取り付ける事にしました。 トップの画像を見ていただければ解ると思いますが、昔どこかで見たようなデザインになっています。
【レベルメーター】  レベルメータは秋葉原で見つけたものでTEACのロゴが入っています。TEACの製品でも何でも無いのにメー カーのロゴが入れてしまうのはどうかとも思いましたが、ジャンク品を使う上での制約が逆に面白みでもあ り、デザイン的にあまり違和感がないのでそのまま使用しましました。 こういったレベルメータは時々見かけるので、入手は容易だと思います。  レベルメータはそのままだと針の振れが小さいのでオペアンプで適度に振れる様に増幅しています。見た 目重視で正確ではありません。
【電球】  バックライトは6.3V50mAの電球で裏から光を透過させています。今時、こういう電球がどの程度生産供給 されているのか判りませんが、根気良く探せばまだ見つかると思います。また、最近は電球色の LEDがある ので代用は可能です。その場合、白色、電球色、RGB色を混ぜて使えますので雰囲気作りにはむしろLEDの方 が最適かもしれません。
【電源トランス】  電源トランスはネットオークションで見つけた東立通信工業のジャンクトランスを利用しています。 タップ電圧が330Vと高すぎるので117Vタップに100Vを繋ぎ出力電圧を下げて使用しています。  従ってヒーター巻線の電圧も下がってしまうのですが、 6.3Vタップが2つあるので、直列にして3端子レ ギュレータでDC点火するのに充分な電圧が得られます。 【WE-310Aとロシア製310A】  この WE-310Aは、「いつかはWE91型アンプを。。。」と購入しておいたものです。当時の値段が一本5000 円。一方、10Ж12Сはロシア製 WE-310Aで、昔、秋葉原のショップで安売りされていた物を何本か買い置き していた物です。当時は価格が安かったので廉価版のイメージが拭い切れないのですが、現物を見る限りで はグレードはかなり高いと思われます。  ちなみに、WE-310Aはセラミック製カソードスリーブになっていてヒートアップ時間が非常に長いです。 最近では、10Ж12СにWEロゴを印刷しただけの偽物が出回っているので注意が必要です。もっとも特性が 同じなので、価格が低ければ10Ж12Сとして買うのも良しですが。  見分け方として、10Ж12Сはセラミック製カソードスリーブ(ヒーターの部分に見える白い部分)が無い のと、ガラスがややブルーで内側に湾曲した形状になっています。
【ソケット・シールド】  ソケットは国産品で、よく見かけるタイトソケットです。安物ではありますが、ぐらつきが少ないので良 く使用しています。シールドはWE-310用で秋葉原のクラシック・コンポーネンツさんで購入したものです。 お高いのですが、非常によく出来たものなので気に入って愛用しています。 ラジオ用のシールドでも代用できますがソケットを沈めないと高さが足りませんので御注意を。 【音の感想】  試聴はスピーカーがクラングフィルム+FOSTEX T90A、アンプがF2a/F2a11プッシュプルです。昔、某ショ ップで聴かせて頂いた「記憶にあるウエスタンサウンドの音」をイメージしていたのですが、ウエスタンサ ウンドのような豪放さはないというイメージです。どちらかというとヨーロッパ的できめの細かい上質な感 じの音で、低域は良く伸びていると思います。  WE-310A でこんな音が出せるのかという新たな発見に驚きながら、一方で506Aトランスがハズレではなか ったという安堵の気持ちで胸をなでおろした次第です。  程良くフィルタリングされているのかクラングフィルムのスピーカーに良く合うようで、帯域の狭さはあ まり感じられません。もっとも、私の耳は13KHzあたりで落ちているので、それ以上は必要ない訳ですが。。。    さて、このバッファーアンプですが、現在リビングのあるメインシステムのコントロールアンプとして 仮設置し試作機扱いだったのですが、結局そのまま使い続けています。私の家はTVが無いので専ら、FM 放送かCDを聴いておりますが、トラブルもなく稼働しています。  ゲインが殆ど無いのでボリュームは半分くらいまで上げないと通常聴くレベルになりませんが、出力レベ ルが高い機器が殆どの為、ゲイン不足は感じません。  元々オーディオ用ではないトランスが、このようにオーディオに上手く転用された例はあまり見ない 気がしますが、WE-310Aも506Aトランスも特殊で高価なデバイスであるため、なかなか接する機会が少なく、 手が出しにくいのも現状です。でも、運良く手に入れられた方は是非アンプを組んで見て下さい、ちょっと 違ったサウンドが楽しめると思います。                                 完 【参考文献】 ・無線と実験 1989年5月号 誠文堂新光社 WE-310A LCREQアンプの製作 松並 希活 著  

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