[EL34 シングルエンドアンプ]
 EF86-EL34-U808-5AR4 
更新日:2008.11.14
  【序】       その昔「初歩のラジオ」という電子工作関連のホビー誌がありました。 '92年に   廃刊となるまでに無線機やラジオ、オーディオ、ゲーム等の電子工作に関連する知   識やアイデアを幅広く提供し続けてきた総合的な雑誌で、専門性に欠けるものの製   作記事自体のレベルは高く大人が作っても楽しめる様な内容でした。    '79年〜'83年頃の4年間程「初歩のラジオ」を購読していましたが、 '83年あた   りからだんだんと製作記事が減って製品紹介ばかりが目立つようになって面白くな   くなったので購読を中止してしまったですが、それと同時にホビー志向から脱して   「無線と実験」や「RAM」、「トランジスタ技術」といった技術志向の専門誌の購   読に移行しました。その後、「初歩のラジオ」が廃刊となるまで一度も購読しなか   った訳ですが、それ以降初歩のラジオを凌ぐ面白い雑誌にはついに巡り合いません   でした。
   さて今現在、「初歩のラジオ」のバックナンバーのの無線機や石アンプの記事に   関して言えば半導体関連のパーツが入手困難な状況にあるので、残念ながら多くの   製作記事は再現困難な状況にありますが、球アンプの記事はに於いては例外でパー   ツは容易に入手出来、製作記事の再現は可能です。    そこで、「初歩のラジオ」を購読していた時代を懐かしんで、最も簡単に作れそ   うなEL-34 シングルエンドアンプを「初歩のラジオ」の記事の中からピックアップ   してみました。   【回路】    手持ちの「初歩のラジオ」のバックナンバーからEL34シングルエンドアンプが掲   載された号を探してみると3つ出てきました。    この中で、初段はEF86の5結、終段はEL-34のUL接続とした初ラ82年7月号の回路   を原典として、次のようなとてもシンプルな無帰還の回路で試作機を作り改造を加   えていく事にしました。
   今更ながらこの初心者向けとも言えるEL34のシングルアンプを作ろうと思ったの   はクラングフィルムのKl-V204aアンプの回路図を入手したのが理由です。    初段に EF12Kの3結、終段はKL73551(≒F2a11)の5結、全段固定バイアスで、    KL73551に局部帰還が掛けられてるだけの恐ろしく簡単な回路で構成されています。   こういった回路を眺めていると初心者向けの様なアンプを作る動機付けにはなった   様で、製作意欲が沸いてきた次第です。    ここまでシンプルになると音質は部品の構成だけに頼る事になり、当然、Kl-V204a   アンプの純正パーツを集めて再現するとなるとお金がいくらあっても足りません。   また、Kl-V204aアンプの音を聴いた事がある訳ではないので、回路図はあくまでも   参考だけに留め、「門前の小僧習わぬ経を読む」の精神(?)でつまみ食いだけして   みたつもりです。EF12KとKL73551にとって代わる球と呼ぶにはかなり無理がありま   すが、いずれもオーディオ用途に最適な球と言う事で無難にEF86とEL34を選びまし   た。   (クラングフィルムに関する資料はここのサイトにあります。)   【部品】    試作アンプですので部品のインベントリを兼ねて手持ちの部品からの選択となり   ました。その結果、疾うに生産中止となった部品ばかり目立つ様になってしまいま   したが、代替品は入手可能です。    先ず、出力トランスはタンゴのU-808で、F2aシングルエンドアンプのページにも   書いた通り、ホビーユースにぴったりと言える多極管のシングル動作に合わせて、   ULタップ付きでインダクタンスが高く採られた設計になっています。EL34の様な高   gm、高rpの真空管に適合する様に作られたトランスなので、代替品を選定する時は   要注意です。現在ではISOがタンゴブランドを引き継いでいるので入手は出来ます。    電源トランスはジャンクで入手したタムラのPC121を塗装し直して使いました。   カットコアを採用した優れ物で F2aシングルエンドアンプでも使用しましたが、こ   のジャンク品は製造年が古く旧JISネジになっています。    この旧JIS ネジが結構クセ者で、せっかく良い物を入手してもこのネジが欠損し   ていると取り付け出来なくなりますが、意外にもホームセンターや東急ハンズで売   っている事を知り胸を撫で下ろした次第です。    また、かなりの骨董品なので劣化していないかどうかの動作確認が必要で、テス   トも兼ねての使用です。代替品としてノグチトランスのPMC150Mがあげられます。       チョークトランスは10H0.16A以上の規格であれば何でも使えます。本機では東立   通信工業製の廃物を利用しています。   タムラのA396であればデザインが揃うのですが、最近の材料費値上がりに伴う価格   改定で新品購入は躊躇せざるを得なくなりました。    シャーシはノグチトランスで販売している 2mm厚の弁当箱シャーシです。サイズ   は200×350×55mmでSL-8シャーシより少し小さめです。これに裏蓋を取り付けて使   用します。裏蓋の放熱孔は自分でばか穴を開けて、そこにパンチングメタルのアル   ミ板をあてがって作りました。
   外装パーツはキャノンコネクタ、パイロットランプ、ターミナル、ヒューズフォ   ルダ、電源スイッチ、ACコネクタです。ターミナルはサトーパーツの国産品で現在   は生産中止のようで秋葉原でも見かけなくなりました。それから国産現行品のヒュ   ーズフォルダは20年くらい前に取り付けのナットがプラスチックに置き換えられて   しまい、とても使用に耐えうる物ではなくなったので、ジャンク屋で金属製の物を   探すか、輸入品を探すようにしています。    ちなみに本機に採用したのは秋葉原のジャンク屋で見つけた BUSSMANのソケット   です。    それから、本機に採用したパイロットランプはジャンク屋で見つけた6.3V50mAの   電球内蔵型の物です。    真空管のソケットも輸入品ですが高い値段の物ではありません。USソケットと   MT9ソケットの国産品は挿した真空管がぐらつくのが嫌で使用を中止しました。    入力のVRはジャンク屋で見つけた NOBLEブランドの特価品です。シャフトが長   く、割りが入っていないので、ノブを取り付ける必要があります。    その他の部品については特筆すべき事はなく、過剰に買い込んだ部品を只管使っ   ていくだけです。
【シャーシ加工・組立て】    2mm厚の弁当箱シャーシといっても素のアルミなので、加工は容易な方です。   これで表面処理が施してあれば強度は十分なのですが、弁当箱シャーシでは望めま   せん。ただ、街の鍍金屋さんに頼めば引き受けてくれる処もあるそうで、アルマイ   ト処理すれば確実に強度が上がります。処理する前にヘアライン加工すれば塗装無   しでも美しく仕上がります。    組立てや配線は作図をしてから着手しますが、試聴しながら変更を加えるので無   駄が多く見た目は悪くなっています。
  【音出し】    試聴は諸事情によりビンテージのフルレンジスピーカが鳴らせないので、昔使っ   ていたシステムで行いました。    コーラルFLAT-10Uを300リッターのバスレフに入れた物で、FOSTEX T90を 10KHz   でクロスさせてフルレンジ+ツイータとしたスピーカシステムです。    視聴しながら調整した回路は最終的に次の様な物になりました。
部品表
EF86
EL34
5AR4
シャーシ 200×350×55mm ノグチトランス
出力トランス Zp=5KΩ U-808 タンゴ
電源トランス PC-121 タムラ
チョークコイル 10H0.16A 東立通信工業
US8ソケット
MT管用9Pソケット
スイッチ両切り A-H&H USA
パイロットランプ 青 6.3V 50mA 電球
ヒューズフォルダ BUSSMAN USA
ヒューズ 3A
ACメタルコネクタ ヒロセ
ターミナル ヒロセ
キャノンコネクタ XLR 31F
B1 バッテリー ニッケル水素 単4型 700mA GP
2
2
1
1
2
1
1
3
1
2
1
1
1
1
1
2
2
R1 620Ω 1/2W A&B
R2 1MΩ 1/2W A&B
R3 100KΩ 2W A&B
R4 470KΩ 1/2W A&B
R5 1KΩ 1/2W A&B
R6 300Ω 15W セメント
R7 18KΩ 3W 酸化金被
VR 50KΩA NOBLE
C1 10uF400V 電解コン ニッケミ
C2 0.22uF400V オイルコン マルコン
C3 1000uF25V 電解コン ニッケミ
C4 22uF450V 電解コン 
C5,6 100uF+100uF500V 電解コン JJ
ビニール線 少々
ラグ板 少々
錫メッキ線 少々
麦球 6.3V 30mA
2
2
2
2
2
2
2
2
1
2
2
2
2
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-
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2
   スピーカとの相性もあるのですが、無帰還の場合だと低音部がふかふかとなって   しまいました。EL34のカソードバイアスの容量が1000uFと大きすぎるのも原因の様   です。    そこで、ふかふかの低音を解消する為、常套手段ながらEL34にカソード帰還を掛   ける事にしました。こうするとEL34のプレート、第2グリッド、カソードがトラン   スに接続される事になり、あたかも一個のデバイスの様に連動するはずです。   これは LUXのトランスもそうで、ターゲットとする真空管に合わせ総合特性を考慮   して設計されているので、適合真空管を使った場合、何も考えなくとも最適な特性   が得られる様になっています。    UL接続もカソード帰還も簡単に掛けられる割りに特性や音質に対する効果が大き   いので試す価値はあると思います。ちなみにカソード帰還の掛け方は U-808の取扱   説明書に載っていますのでそちらを参照されると良いでしょう。    この結果、カソードバイアスの容量が大きいのも効いている様で低音部が伸びつ   つ締りのある音になりました。 【電池によるバイアス】    次に回路図にあるバッテリー記号ですが、これは電池による固定バイアスでノイ   マンのプリアンプの回路をパクりました。これは以前から電池によるバイアスが気   になっていたので、今回試行して様子を見てみる事にしました。珍しい回路に対す   る自分の好奇心からの採用です。原典回路は下記参考文献にあります。    原典の回路は初段のEF804Sのカソードにニッケル・カドミウム電池が繋いであり、   電池の公称電圧は1.2V、充電直後は1.4V程度に達するので、プレート電流によって   常に充電しながら動作させる様になっています。    一見すると自己バイアスにも似ていますが、電源を使っていてプレート電流に依   存しないので固定バイアスの一種となります。    かなり危ういやり方の様にも思えますが、この時 EF804Sには0.4mA程度しか流れ   ていないので、電池にはそれ程負担は掛からず電池が発熱による危険は無いと言う   事のようです。    これをEF86に適用した場合、動作条件はVg1が-1.2〜-1.4V、プレート電流を 2mA   としておけば、電力ロスは2.4mW程度と発熱の心配はなさそうです。    仮に自己放電で電圧が下がってしまった場合は、プレート電流によって再び充電   されるのでバイアスが一定の電圧に保たれる訳です。    さてここで問題になるのが、電池の劣化です。電池はコンデンサ程寿命はありま   せんし、本来の充放電の繰り返しの使用状態とは異なる過充電の状態のまま使用す   る事になるのであまり良い条件と言えませんが、流す電流が少ないのでしばらく様   子を見る事にしました。一定時間アンプを使ったらバッテリーを交換するといった   具合にアンプを充電器に見立てて使用する事も可能です。    いずれにせよバッテリーバイアスは初心者向けではないので真似をする場合は自   己責任においての実験となります。 【ニッケル水素電池適用の安全性について】   ここで、ニッケル水素電池に関して調べた内容を書いておきます。    市販されているニッケル水素電池は熱暴走による電池の破裂の危険があるとの理   由で高容量タイプの販売が自粛されています。本機に使用したニッケル水素電池は   容量が小さ目で比較的安全なのですが、それでも安全性を考慮する必要があります。    先ず、過充電に関してですが、使用したバッテリーはGP社の 70AAAHC型で、同社   の資料(こちら)によれば70mAで一年間過充電しても目立った劣化は無しとなってい   て、過充電に対してかなり許容できる様です。また、ニッケル水素電池の自己放電   率は10〜20%/月で、充電した状態で長期保管せずトリクル充電する事が推奨されて   います。つまり、自己放電が大きい為少ない電流で少しずつ充電しながら使用する   のが望ましいと言う事で、回路に組み込んだままで 2mA程度での充電電流であるな   らトリクル充電の範囲内にあり、充電し放っしでも問題はなさそうです。    それから電池の使用環境ですが、充電時の周囲温度は 0〜45℃となっていて、電   池の発熱を加味して厳しくなっています。本機でも充電電流が少ないので電池が発   熱する心配は少ないものの、真空管の熱から逃げる為出力トランスの下に配置して   あります。出来ればシャーシ外に電池ボックスを取り付けて使用した方がメンテナ   ンスも楽になるので良いかもしれません。 【NFBについて】    そして、もうひとつ問題となってくるのは NFBの掛け方です。ごく一般的なトラ   ンスの2次側や終段のプレートから初段のカソードに戻すオーバーオールの帰還は   掛けれません。電池による固定バイアスなのでカソード電位はDC的に1.2Vですが、   AC的にはGNDレベルと等価となっているからです。    また、電池の内部抵抗もありますが、せいぜい数十〜数百mΩオーダーなので帰   還抵抗の代用とはなりません。    しかし結果的に、オーバーオールの帰還は必要ないと判断しましたのでこの問題   は棚上げとしました。    結局、試作回路のカソードの抵抗とコンデンサを外し、そのまま単4型のニッケ   ル水素電池に置き換えましたところ、1.3Vとなったのでプレート抵抗を調整して最   終回路の動作条件となりました。    主観的感想ながらバイパスコンデンサを使った音とは違い、音質も幾分かクリア   になった様に感じられましたので採用となりました。  【あとがき】    画像を見て解るかと思いますが、本機のEF86はトリタンです。。。と言うのは冗   談で、麦球を使ってライトアップするというおバカな事をやっています。
   それから、タムラのロゴプレートが無くちょっと間抜けな感じがするので、ネッ   トオークションで入手できないかと探していましたが、どうしても金額が吊り上が   ってしまい手に入りません。高額を出せば入手出来る様ですが、そこまでロゴ信仰   するつもりはないので、多少フェイクなやり方ですが手持ちのプレートをスキャナ   で取り込みプリンタで写真用の用紙に印刷してみました。    あまりに面白いので、PANNAMロゴも印刷してみましたが、さすがにアンプには似   合わないので元に戻しました。。。^^);;;;
  いろいろ、実験的な事をやっているので現時点では途中経過しか書く事ができない   のですが、音質的にまずまずの状況ですので一先ずは此処でアンプは完成と言う事   にしました。    また、アンプ内の配線は未整理のままですが、実験・評価が終わって回路が完全   フィックスした時点で整理するつもりですので、醜い点はご容赦ください。    それから、EL34も固定バイアスにしたかったのですが、トランスにタップがない   のとカソード帰還の問題でそれができません。    通常、EL34にカソードバイアス抵抗は270Ωか400Ωが一般的ですが、 270Ωで使   用したところプレート電圧が高いためかプレート電流が90mA程度流れました。   そこでやむなく手持ちの 300Ωに変更して80mA程度に抑えています。本来は70mA程   度が妥当なのですが、電源トランスのタップに適当な電圧が無いので今回はこれを   放置して10mAオーバーさせたままにしていますが、いずれ、抵抗を代える予定です。    さすがに片チャンネルに90mAも流すと電源トランスが少し熱くなっていましたが、   このサイズで 200mA近く電流を取出せたのは凄い事で、カットコアの性能を目の当   りにしました。また、危惧していた中古トランスの劣化も見られず、さすがタムラ   のトランスのことだけはあると思いました。    EL34にしてもオーディオ向けの真空管だけにあってちょっと工夫すればいとも簡   単にアンプが出来てしまいますから、使い勝手のよさを改めて実感しました。
【参考文献】   ・初歩のラジオ 1979年 4月号 EL34シングル・メイン・アンプの製作     奥村正己著   ・初歩のラジオ 1981年 4月号 EL34(6CA7)シングル・パワー・アンプの製作  高崎達郎著   ・初歩のラジオ 1982年 7月号 EL34(UL接続)シングル・パワー・アンプの製作 木元正文著   ・無線と実験  1986年 8月号 EL-34シングルアンプ2種の製作        田村耕一著   ・無線と実験  1995年 9月号 ドイツプロフェッショナル機の魅力 3    「 東根著   ・Kl-V204a リザーブ・アンプの回路図

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