[EL34 PushPullアンプ改]
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更新日:2008.1.19
  【序】    「伊藤式アンプ」を初めて真似た EL-34PPアンプは入手したヴィンテージスピー   カに間に合わせるよう突貫工事で完成させたため、外見こそ立派に見えるのですが、   内部の状態は極めて稚拙でなさけない状態でした。しかし、一旦使い始めると稼働   率が高く手入れし直す間もなく10年が過ぎてしまいました。    まぁ、この状態で10年使えた訳ですから、半田付けに問題は無かったのでしょ   うが、この「恥」を少しでも挽回すべくアンプを組直す事にしました。    しかし、ただ組み直すだけでは面白くないので、入手したジャンクトランスを活   用したり、死蔵パーツのテスト等も兼ねてみたいと思います。   【トランスの入手】    ここ最近、金属高騰のあおりを喰らってトランスが異常な程値上がりしており、   手が付けられない状況になって来ました。球アンプ作りにとっては避けて通れない   重要な部品であり、費用にも音質にも影響してくるので始末におえません。    そこで、止む無くネットオークションで中古品を漁りいろいろ物色したところ、   秋葉原でも滅多にお目にかかれない希少なトランスが数多く出品されています。    写真でしか見たことのない古き良き時代の国産トランス。。かつての憧れのトラ   ンスが並んでおり、少々プレミアが付いてもショップの儲け分が無いので比較的安   く手に入るようです。そこで、さらにお手頃な値段の無名ジャンク狙いで低額落札   し、幾つか状態の良いトランスを入手できました。
   このジャンクトランスは東立通信工業製で、タムラのPC3000シリーズと同じくら   いの大きさの協会色グレー密閉型トランスです。もちろん、産業機器向けの特注ト   ランスであるわけですから一般販売された物ではありません。半田付けの跡が無い   事から製造後、未使用なままストック品として放置されていた様です。その為、塗   装は剥げ、キズやへこみがあり、とても無残な状態になっていました。ちなみに、   東立通信工業は '06年に倒産した産業向け電源機器を製造していたメーカーで、一   般向けには販売していませんが電源トランスも製造していました。最近になって廃   棄された設備から取り外されたジャンク品が多数流出し、アマチュアが手にする機   会も増えてきている様です。    しかし、基本的にジャンク品であるから、実際に使えるかどうかの確認が必要な   ので、 EL-34PPアンプを作り直すにあたり、先にジャンクトランスのランニングテ   ストを行い使える事を確認しました。   このジャンクトランスの仕様を以下にあげておきます。 東立通信工業 YC200 1次:0-95-100-105V 2次:300V-0.3A、6.3V-11.5A、6.3V-7A、6.3V-1A    ちなみに、 6.3V-1Aの端子のみ碍子の大きさが異なっているので高圧回路のヒー   ター用、つまりは絶縁耐圧を高く採っているようです。    B電圧は低めの300Vで、ダイオードブリッジを使い、コンデンサインプットの電   源とした場合、1.4倍の420V程度取れそうです。  問題は整流管を使用した場合、   400Vを切るのは必至で、どの程度電圧が下るかはテストしてみなければわかりませ   ん。また、5Vのヒーター巻線がありませんのでドロッパーを使うか、6.3Vの整流管   が必要です。 【トランスの塗装】    全面再塗装を施しても良いのですが、貴重な国産トランスに無闇矢鱈に手を加え   るのも考え物なので(WEトランスを再塗装してロゴを塗りつぶす人はいないのと同   じです。)、錆び、傷の部分だけ刷毛でペンキをちょい塗りして目立たないよう修   復しました。また、端子付近には番号や電圧・電流値が印刷されており、これも下   手に塗り潰してしまうと判らなくなってしまいトランスの価値(風格)を損なってし   まいます。    それからのネームプレートにはトランスのスペックが仔細に記載されているので   剥がすのは避けた方がよいでしょう。伊藤喜多男さんの製作記事によればネームプ   レートは「剥がす」のが流儀との事ですが、それはタムラトランスの様に「単なる   ロゴ」でしかないネームプレートの話で、カタログ等の資料が存在しないジャンク   トランスはこのネームプレートだけが頼りですので剥がすべきではないでしょう。    最近の市販の球アンプは派手なメッキや塗装が施されていますが、浅野アンプを   見て育った自分は協会色や軍艦色といった、黒、灰、こげ茶のような地味な配色が   大好きで、このようなジャンクトランスのジャンクな風合いは出来るだけ残すよう   にしました。    それともうひとつ、古いトランスは旧JISネジが使われており、下手に潰してしま   ったり紛失すると入手困難な為、えらい往生する羽目になります。 【ジャンクトランスの動作確認】    この手のジャンクトランスは使用前の動作確認は必須で、表記されているスペッ   クだけを信用していきなりアンプのシャーシに乗せるのは止めるべきです。    以前、手持ちのジャンクトランスをアンプに使ったところ、見かけはとても状態   の良い密閉型のトランスだったのですが、「鳴き」が酷く使い物にならなかった経   験があります。電源投入時は何ともないのですが、時間が経ってトランスが温まっ   てくるとブザー並の鳴きが発生するのですからたまりません。経年変化により中に   含浸してある樹脂か何かが劣化したのだと思われますが、密閉型なので手の施しよ   うがありませんでした。    今回使用するジャンクトランスも既存のアンプに実装してランニングテストをし   た結果、表記スペック内の使用条件にも拘らず、トランスがかなり過熱するので若   干電圧、電流を抑えて使う事にしました。 【全波整流方式】    ところで、このトランスはB電圧用巻線にセンタータップが無いのでブリッジを   用いた全波整流回路が必要です。センタータップが無いのは効率重視の産業機器向   け特注トランスでは当たり前の話で、センタータップ方式に比べて半分の巻線で済   みコンパクトになります。全波整流回路を構成するにあたり、整流管を用いるのは   無謀な行為で、極めて効率が悪く、コストもかかります。    無線と実験の製作記事の中にはダイオードブリッジで整流した後、ダンパー管を   直列に繋いで管内の電位降下を利用するやり方が紹介されています。しかし、それ   ではダンパー管がドロッパーの役割しか果たしていないので、少しやり方を変え、   次に示す回路で整流する事にしました。
   何の事ははない、−側 (GND側)にダイオードを用いたブリッジ回路です。よくあ   るダイオードブリッジ+ダンパー管と何が違うんだ?という話になりそうですが、   この回路の場合は整流管がちゃんと整流動作を担っています。それでもって、ダイ   オードの電位降下は0.7V、整流管の電位降下は数10Vなので整流管の特性が支配的   となり、ダイオードは整流管の補助的役割に徹しています。    最初、アンバランスな方式なのでダメかとも思ったのですが、よくよく考えてみ   ると、ダイオードと整流管が直列に繋がるだけで何の問題もなさそうです。    なにやら、ダイオードが仮想のセンタータップ?を作ってくれて両波整流をした   様な動作にも見えます。    注)ここでは、ダイオードブリッジを全波整流、2個のダイオードによる整流を     両波整流と記します。    さて、この整流方式もランニングテストをしてみましたところ、一晩中点けっ放   ししても問題なく動作し続けましたので採用する事としました。ちなみに、次の画   像で示す通りGTソケット用のプラグを用いて整流管をダイオードに置きかえれる   様にしておけばダイオードによるブリッジ整流に切替え可能で整流管が無い時のエ   マージェンシーユースとして対応できます。
  【6BY5について】    この整流管は5Y3GTより一回り大きい規格を持つ6.3V-1.6A傍熱の双2極ダンパー   管です。センタータップが無いトランスはダイオードブリッジによる整流が一般的   なので5V巻線はまず付いていません。従ってヒーター回路にドロッパーを入れるか、    6.3Vの整流管を使う事になります。 ヒーターが6.3Vの整流管をネットで探し、偶   々見つけたのが6BY5でして、これ一本で5V巻線の無い他の手持ちのジャンクトラン   スも使い易くなります。   ちなみに一本あたり175mAまで流せますからこのEL-34PPアンプにはうってつけです。   【組立・配線】    ビフォアー・アフターを画像で示します。「何だ?全然変わらんじゃないか?」   という声が聞こえてきそうですが。。。
   改善した点を挙げると、改善前は部品がソケットの上を覆いつくしていて部品交   換も出来ない状況だったのを、配置を工夫して各部分毎に整理しました。    また、改善前は配線と部品がごちゃ混ぜとなっていて、部品を交換する為に配線   も外さなくてはならなかったのを、ラグ板の下部に配線、上部に部品と分別するこ   とで後々の部品交換を容易にしています。    それから、線材はごく普通のビニール線を使用しました。元々、ベルデン製のワ   イヤーを使用していましたが、あまりにも被覆が熱に弱いので使用を断念しました。    追加した部品はパイロットランプとダイオードです。パイロットランプは新たに   穴を開け、とりつけています。今ではちょっと入手困難な電球タイプで、取付けの   スペースを確認して前面に配置しました。    ダイオードの方は整流管のソケットの空ピンを利用して取付けており、半導体使   用を気にするのであれば被覆を被せて配線の間に紛れ込ませて隠す事も可能です。
          ちなみに、配線と部品を分けているので、配線を先に済ませて蝋引き糸で結束し   た後部品を取付けていきます。ターミナルボードを使う時は逆の手順です。    それから、出力トランスのリード線は切り詰めるのが嫌なのでシャーシ内を無駄   に這わせています。合わせカバーのトランスの泣き所といったとこでしょうか。。   【調整・動作確認】    一度解体した物を再組立てしたものですから、調整はありません。各部分の電圧   が規定値になっている事を確認して終わりです。ちなみに電源トランスは300Vタッ   プを使用していますが、PC3004を抵抗でドロップさせて使用する場合と同じで、ほ   ぼ規定値通りの値となっており、電源回路の効率の良さが伺えます。また、当初懸   念されていた経年劣化はなさそうで、長時間点けっ放しでも問題なく動作していま   す。
   ちなみにこのクラスの電源トランスが4000円ちょっとで入手出来たのは幸いで、   古き良き時代のトランスをお持ちの方は無闇に廃棄したり手を加えたりしない方が   得策といえます。オーディオの文化財とも言えるこの部品を末永く使っていきたい   ところです。    それから、6BY5とダイオードを用いた整流方式も目論見通り問題なく動作してい   ます。ブリッジ整流型の電源トランスは敬遠されがちなのか価格も低めですが、   そこが狙い目で、効率も良く、サイズもコンパクトになるこの手のトランスはお買   い得と言えます。
【参考文献】   ・「MY HANDY CRAFT」別冊ステレオサウンド

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