【改訂】Edシングルエンドアンプ製作よもやま話
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   更新日:2018.9.30
【序】
    クラングフィルムのスピーカが稼動する様になり、オーディオシステムとしてはほぼ自分の理想とする
   状態に近い状況になりました。こうなってくると開店休業状態のEdアンプを再稼動させて、その音質を再
   確認したいという気持ちが湧いてきました。実は、Edアンプは組み合わせるスピーカが無かったため、製
   作後殆ど使用せず「もったいない」という理由だけで開店休業状態のまま18年が過ぎてしまいました。
   埃を被らないよう球を抜いて保管していましたが、電源を入れる前にメンテナンスしようといろいろと弄
   っているうちに思い出した事がたくさん出てきましたので、防備録としてこのホームページを書き改める
   事にしました。

    実は入手困難な希少古典球についていろいろ書いたとてしても単に見せびらかしとしかならず、見る側    にとってあまりメリットはないと考えていたのですが、Edに限らず古典球をという文化遺産を預かる者と    してして、入手した経緯や取り扱いに対する自分の経験を書くのも見る側にとって少なからず得る物はあ    ると考え筆を取り直した次第です。     尚、Edアンプ自体の製作方法については参考文献の「MY HANDY CRAFT」誌に掲載された伊藤喜多男さん    (故人)の記事をご参照ください。本HPでお見せするEdシングルアンプはあくまでも製作記事のデッドコ    ピーに過ぎず、デザインももろパクリです。はっきり言って記事の内容を超える物を作れなかったのです。     従って、今回はアンプ製作についての話ではなく、希少球や部品の入手についての個人的よもやま話を    メインに書き纏める事にしました。話が長くなりますがよろしくお付き合い下さい。
【見えない行列】     Edを購入した時のエピソードを少し詳しく書く事にします。「MY HANDY CRAFT」誌にEdのシングルアン    プが掲載され、それを見た自分は直ぐ感化されEdの入手を試みました。当時、インターネットは普及して    おらず、ネットオークションもありませんから、真空管ショップの店頭や雑誌に掲載された広告だけが頼    りでしたが、店頭に並ぶ以前に買い手が付いている代物なので広告に載る事はまずありませんでした。     10何年分の無線実験の古いバックナンバーを調べて見ましたが、掲載があったのは一つだけでした。    いろいろ調べた結果、秋葉原の老舗「太平洋」で扱った実績があるというのを知り、直接お店に行って入    手可能か尋ねる事にしました。すると、店主の方が、「Edですか。。。現在入荷待ちの方がたくさんいら    っしゃいます。。」とおっしゃり、たくさんの連絡先を書いた紙の束を取り出して見せてくれました。そ    こには「見えない長い行列」があったのです。    「何年かかるか解りませんが、順番が回ってきたらご連絡差し上げますよ?」    流石、秋葉原の老舗です。一見さんである私に対してもとても親切で丁寧な応対をして頂きました。    紙に連絡先を書いて店主に渡し、「見えない行列」に並ぶ事にしました。しかし、並ぶのが遅すぎたので    す。その後、何かの手違いはあったかも知れませんが連絡が来る事はなく「太平洋」さんも閉店してしま    いそれっきりになってしまいました。 【SIEMENS Edの入手と古典球購入のリスク】】     私が入手した2本のEdは '98年頃に茨城にある開業したての某ショップへ行った時に、偶然見つけた売    れ残り物でした。 その時はスピーカ KL42006の購入を検討していた時で、品物を直接見たかったので、    電話で確認して行ったところ店では無く自宅を仮の店舗としていました。     友達の家で茶飲み話をする様な雰囲気の中、真空管の話になり、店主に「Edって未だかつて現物を見た    ことが無い」と打ち明けると、あっさり「有るよ、見たい?」との返事。完品は直ぐに売れてしまい難有    り品で売れ残ったEdがあるとの事で、それを見せて下さいました。実物を見せて頂きながら売れ残った理    由を聞いてみると、未開封のEdを10本輸入し、中身を確認する為開封したところ、内4本のEdに問題が    あったそうです。そのうち2本はベースにヒビが入っていて、もう2本はエミ減で残ったそうです。     その時のEdの価格は1本10万円程だった事から、40万円分を完品の6本の価格に上乗せするしかなく、    販売価格を15万円程にしたそうです。この話でわかる通り、未開封の真空管は安くても少量で買うとこ    ういったリスクを伴うと言う事でハズレをひく可能性が十分にあります。
    例えばEdの様なイエローリボンの球は封止の紙が貼られた箱に入れられ開封されたかどうかが判る様に    なっています。これがメーカーの保証期間での未開封であれば開封後に問題があっても店に行って交換し    てもらえるのですが、骨董品の場合は保管、或いは輸送中に箱の中で破損しても解りませんから、未開封    品は逆に危険です。少量で購入した場合、破損品に当たるリスクがある事を常に考えなければなりません。     つまり、箱を開けた者がリスクを負うわけです。     まっとうなショップに真空管測定器があり、価格上乗せがされているのも動作保証をする上で必要な事    です。これはショップの善意であって、動作保証の為の保険と捉えた方が良く、決して不当な価格上乗せ    ではありません。一方、安売りの白箱入りの真空管の場合、未選別と思った方が良く、不良品に当たる可    能性がある事を覚悟せねばなりません。従って覚悟出来ないならば、信頼できないところからの購入は控    え方がよいでしょう。
    話はそれましたが、売れ残ったEdは完品のEdの半額で良いとの事。しかし、大金をはたいてスピーカー    を買った直後という事もあって、一旦は見送るものの、難有り品をあえて購入するかどうかで3日間悩み    ました。しかし、この機会を逃す手はないと考え、直ぐに電話し取り置きをしてもらい週末に再び店に行    って購入した次第です。     ちなみに、難有り品のEdはエミ減の物にしました。エミ減と言ってもくたくたの中古品という意味では    なく、新品を長く寝かし続けたせいで動作が鈍ってしまっただけの事。使っているうちにエミッションは    回復するだろうとの話でした。     もう一方のベースのセラミックが割れた物もありましたが、さすがにベース破損は嫌なのでエミ減の難    あり品を購入した次第です。 【規格比較】
規格
Tube Plate
Voltage
Grid
Bias
Plate
Current
μ gm Plate
Resistance
Load
Resistance
Output
Power
Filament
Voltage
Filament
Current
2A3 250V -45V 60mA 4.2 5250μ 800ohm 2.5Kohm 3.5W 2.5V 2.5A
Ed 250V -45V 65mA 3.9 6000μ 650ohm 2Kohm 2W 4V 1A
AD1 250V -45V 60mA 4 6000μ 670ohm 2.3Kohm 4.2W 4V 0.95A
300B 250V -48V 60mA 4 6000μ 670ohm 2Kohm 4.7W 4V 0.95A
【古典球購入後の疑心暗鬼】     希少な球を入手して悦に浸っていたのも束の間、疑心暗鬼に陥り、アンプ作りが次第に重荷に変わって    いきました。Edを使い大金を投入してアンプを作ったとしてもそれがまっとうに動作するかどうかは最後    まで解らないわけですが、もしこのEdが不良だった場合、全ての努力が無駄になります。     貴重な文化遺産を預かる責任感を感じ、早くアンプを作らなければという焦りが入り混じって、気が気    でない精神状態が続きました。。アンプ製作を楽しむ余裕があまり無かった記憶があります。     深夜、人が寝静まった頃、箱から希少な真空管を取り出してフィラメントだけを点灯させて光る様を眺    めて悦に浸る。。。といった話をよく耳にする事があるのですが、そんな火遊びならぬ「灯遊び」をして、    万が一誤って断線させてしまっては元も子もありません。    (昔、実際に直熱管で灯遊びして、電圧を間違え一瞬で終わらせた経験があります。。)
    ちなみに、 SIEMENSのEdのフィラメントは「ダルエミッター」と呼ばれ、点灯させても殆ど赤熱せず、    部屋の灯りを消してようやく幽かに赤熱しているのが見てとれるほどですので見ても面白くありませんし、    いつまでたっても赤くならないので切れてるんじゃないかと不安を覚える事この上ないです。(笑)    そんな事なので、なるべく箱から出さない様にしてしまっておきましたが、それでもアンプの製作意欲を    高めるために時々箱から取り出して眺めたりしていました。。。
【デッドコピーのつまらなさ】     さて、他人が考えたアンプをコピーして製作するのも良いですが、少しでもオリジナリティが出せない    かといろいろ検討を始めてはみたものの、結局この最低限の1ペアでは伊藤喜多男さんが考えたアンプを    デッドコピーする意外にあまり道は無いという結論に至りました。     アンプ製作の経験は有るものの、希少球をいきなり自分のオリジナルでもって料理すると言うのはリス    クが高過ぎますし、制約に対し使える部品が少なすぎました。プッシュプルのアンプであればもう少し選    択肢は増えたかもしれませんが、所詮は貧乏人が作る最低限のシングルアンプ、余計な改良を加えて逆に    美観を損ねる方が怖かったのです。     とは言え、伊藤喜多男さんが考えたアンプをコピーするのは容易ではなく、シャーシの特注、 E80CCの    入手、トランスの入手、ソケットの入手等々、単純コピーするだけなのに前準備にえらく時間と労力を要    しました。その労力の割に、オリジナリティの無いデッドコピーを作るというのもこれまたつまらなく、    苦痛でしかないものでした。     ようやく完成して音が出た時は無難にアンプが出来上がって安心した気持ちでホッと胸を撫で下ろし、    試聴しながら「さすがEdだな」と思える音質に仕上がった事に対してもう一度胸を撫で下ろしました。
【鈴蘭堂の思い出と特注シャーシ】     画像を良く見るとお分かりになるかと思いますが、このアンプのシャーシは特注品。1999年に鈴蘭堂に    依頼して作って頂いた物です。     このシャーシ特注するにあたり、「MY HANDY CRAFT」誌の図面を元に自分で図面を手書きで引き直した    ものを鈴蘭堂のお店に持参し、前金を入れて金額見積りをしていただきましたが、後日提示された見積り    額の値段があまりにも高額だったので即答できず、2、3日後に覚悟を決めて返答しました。     寸法が中途半端なため材料の余りがたくさん出てしまい材料費が掛るのと難易度の高い加工を要求する    ため、専門の担当者を割り当てなければならず人件費が馬鹿にならないとの事。
    店主の方も「何に使うんですか?」と心配した程で、「伊藤喜多男さんのアンプを真似したい」と答え    て納得して貰いました。    鈴蘭堂が市販しているSLシリーズのシャーシのサイズで特注すれば安く出来ますよと言われましたが、プ    ロポーションが崩れるのを恐れて是が非でも同じ寸法で作りたかったのです。     伊藤喜多男さんも鈴蘭堂さんによくシャーシを特注していた様で、「クレジットカードをうちに預けて    ねぇ、いくら掛かっても良いからと電話一本で注文してくる。。。」と店主の方が懐かしそうにお話して    下さいました。それ以外にもSLシリーズのシャーシを伊藤喜多男さんご自身が改良して使用していた様で    す。     特注して出来上がってきたシャーシはあまりにも美しい出来映えであった為、しばらくの間アンプを組    む気になれず、シャーシを眺めて過ごしましました。組上げる際にはシャーシに傷が付かないよう細心の    注意を払いながらじっくりと、時間に余裕を持たせながら組立てを楽しませて貰いました。     出来上がったアンプは写真に撮って鈴蘭堂の店主に見せに行きました。そのまま写真は謝辞の意味を込    めて差し上げましたところ鈴蘭堂が廃業するまでの間、店のSLシリーズの棚に貼って飾っていて下さいま    した。
    ちなみに、特注するときにネジ穴のサイズぴったりに指定した為、組み立ての時に幾つかの穴を修正し    なければ部品が装着できない羽目に陥りました。例えば、3mmのネジ穴であれば3.5mmで指定しないと遊び    がないので入りません。自前で加工する場合は精度が悪いので、問題なくネジが収まるのですが、業者さ    んに加工して貰うときは遊びを考慮してサイズを指定する必要があります。 【鈴蘭堂のシャーシ SLシリーズについて】     秋葉原の老舗であった鈴蘭堂(2007年に惜しまれつつ廃業)はSLシリーズという管球アンプに最適な    シャーシを販売していました。このSLシリーズは初心者の頃、2A3を使った直熱管アンプを作った時に    初めて使いましたが、それ以来、使い勝手が気に入ってずっと愛用し続けています。     最初の頃は RCA端子と大型の海式(海軍)ターミナルをつけてアンプを作っていましたが、SLシリーズの    シャーシとはつり合いがとれず、あまりの見栄えの悪さにどうにかならないかと思っていたところ、伊藤    喜多男さんのアンプにキャノンコネクタとターミナルブロックが使われているのを見て「これだっ!」と    思い採用する様になりました。手持ちのバックナンバーに記事が載っていたのに15年近くもそれに気付    かなかったわけですが。。(笑)  
    さて、鈴蘭堂が廃業するにあたり、SLシリーズも生産終了かと思われましたが、その後タカチがSLシリ    ーズの製造販売引き継いでおり、型番にSuzuRanDouの文字を取って SRDシリーズとしてリニューアルされ    今現在も供給が保証されています。     鈴蘭堂の自作マニアに対する配慮とその意思を受け継ぐかの様に SRDというシリーズ名を付けるタカチ    の心意気を嬉しく思い、ますますこのシャーシが好きになりました。     余談ですが、廃業前の鈴蘭堂にはSLシリーズのシャーシの注文が殺到したらしく、かくいう自分もこれ    が最後とばかりに SL-8Gを1個だけ確保して買い置きしていましたが、とり越し苦労に終わりました。     現在、タカチで販売されている SRDシリーズのシャーシは大別するとシャンペンゴールドとシルバーグ    レーの2種ですが、鈴蘭堂で販売されていた頃はベージュ色の塗装でSL-8,SL-10,SL-20の3種のみだった    記憶しています。
   後に、SL-9なども販売される様になり、そこにアルマイト加工されたシャンペンゴールド色が加わりまし    た。さらに、タカチでリニューアルする際にシルバーグレー色も加えられ今に至ってます。
    ところで、無線と実験誌1989年2月号で発表された伊藤喜多男さんの7027Aプッシュプルアンプの写真を    見ると当時は販売されていなかったはずのシャンペンゴールド風の光沢がある天版のSL-8型シャーシが使    われています。     残念ながらモノクロ写真なので詳細が判らないのですが、後に発売されたシャンペンゴールドよりも色    が濃く明かにメタリックのヘアーラインめっきした天板が使われています。     その事について、鈴蘭堂の店主の方に無線と実験のバックナンバーを見せて尋ねたところ、    「これはうちじゃあないな。。。たぶん天板だけ別の店に作らせたんでしょう」との話。    確かに使用パーツ一覧にはSL-8と書いてありますが、さすがにベージュ色の塗装は嫌だったと見えて天板    だけ特注したのでしょう。伊藤喜多男さんにしろ浅野勇さんにしろ、製作記事の内容を良く見てみると簡    単に真似出来そうで実は簡単に出来ない。。。こういった読者に対する謎かけを随所に仕込んでいるよう    な気がします。
    さて自分も鈴蘭堂の店主に天板だけ販売していないか確認してみたところ、販売はしていないけど市販    のヘアライン加工済みのアルミパネルをSLシリーズに合わせたサイズにカット出来るとの事。     幅、奥行きで側板のサイズより2mmずつ小さくした方が良いとのアドバイスを受け、さっそくSL-8,    SL-10,SL-20各種のサイズに合せてその通りに注文しました。    現在でもタカチでパネルカットのサービスはありますので、張替えは容易です。
    ちなみに、フレーム前面の外装パーツは、キャノンコネクタ、ランプ、サトーパーツのターミナル、電    源スイッチUSA製ST-200、 LITTEL社製ヒューズフォルダー、 HRS製コネクタです。この組合せは私自身の    お気に入りのスタイルなので、SLシリーズを使い続ける限り、これからもこの組合せとデザインは変わら    ないと思います。 【Z2c、E80CC】    先ず、Edの次に入手困難なのがZ2cとE80CCです。 Z2cの値段は1998年当時1本1万円程度が相場でしたが、    現在の価格は2万円を超えており、WE-274同様にプレミアムがついて高騰しています。     加えて、整流管は出力管より消耗が激しいので今後ますます入手困難になる事と思います。     それから、 Z2cはヒーターが4V4Aと電源トランスが限定される上にソケットが特殊なのでさらにお    金が掛かります。    ヒーター電流が4Aなのでとても電力を喰う様に思われがちですが、実際には 5U4GBの5V3Aと比べて    1W多いだけです。     ちなみに、PC-3004では4V3Aタップに接続しており、実測3.8Vで動作させてます。
    次に、E80CCは「SIEMENS」のロゴは入っているものの電極の造られ方が製作記事の写真と違い、製造工    場は異なる様です。 「SIEMENS」ロゴが正当な物かどうかの真贋は不明で自分の知るところではありませ    ん。しかし、 E80CCである事は間違いないようで、細工もまっとうである様です。購入当時のお値段が    7000円ですから、如何にE80CCが高額であるかよく解るかと思います。     一方で、TANGSRUMブランドのE80CCも入手したのですが、こちらの中身は製作記事の写真と同じです。    それから、もう一つ廉価版のE80CCも入手しました。こちらは12BH7を思わせるような構造です。
【出力トランス F2003】     タムラトランスについては、自作を始めた当初余り馴染みが無く、タンゴトランスを使っていたのです    が当時のタンゴトランスは毎年の様に価格改定があって手ごろ感がなくなって行きました。そんな折、ノ    グチトランスの広告でタムラトランスの価格が掲載されるようになり、高価だと思っていた F2000シリー    ズが実は一個2万円弱と手頃な値段である事に気付いた次第です。その当時から、「無線と実験」誌の佐    久間駿さんのアンプの製作記事を読んでかなり感化されていた事もあって、タムラトランスが馴染み深い    ものになっていきました。     このF2003は1次側インピーダンスが2KΩという F2000シリーズの中で最も低い仕様の出力トラン    スです。数があまり出ないのか、後に金属材料高騰で価格改定された時に真っ先に値上げされてしまい、    製造中止も早かった様です。      F2000シリーズで私が使った経験があるのは F2007、 F2020とこの F2003の3種だけですが、いずれも    良く出来たトランスです。背の高いトランスなので、真空管がトランスより高く突き出る事がなく、保護    の意味も兼ねられます。ただ、ひとつの重量が 5Kgも有るので、重量バランスを考える必要があります。    3つ並べるとアンプ一台の重量が20kg近くになりますから、アンプを移動させる時は怪我にも要注意です。    【電源トランスPC-3004】     ヒーター用の4Vタップが3つある製品が無く、電源トランスを特注しようとしましたが、特注は最低    10個からと言われ断念しました。ヨーロッパ管を使ったアンプを目論んでいる人を10人集めるか、残    り9個を売り捌くかしなければ無理なので、諦めて市販品のPC-3004を使用しました。 【各パーツ達】     ターミナルブロック、ヒューズフォルダ、電源スイッチ、いずれも絶滅種の古典的遺物とも言える代物    ですが全て愛着が有る物ばかりです。 特にターミナルブロックは国産の物で、秋葉原の高架下にあった    お店(この店も無くなりました)で長年埃を被っていた物ですが、すでに絶滅種となっており入手困難で    す。        抵抗はA&Bを使いましたが、コンデンサは何となく欧州をイメージして EROや PHILIPSブランドの物    を使っています。電源のブロック電解コンデンサは秘蔵のエルナ製Celafineで、これも現在は絶滅種です。
【Edのソケット】     特殊な7ピンソケットは、タイトソケットを何個かバラして端子を取り外し、自作しました。作り方は    浅野勇著書の「魅惑の真空管アンプ」に掲載されています。基板と同じ材質のガラスエポキシ板を自分で    切って使用しています。     少々お高いのですが、画像の様なソケットも売られていますので、わざわざ自作するまでもないでしょ    う。但し、嵌合が悪いと熱による膨張でソケットや真空管のベースが割れてしまう危険が出てくるので、    応力が掛らない様、真空管をソケットに挿した状態で、ピンのネジ留めをやり直す必要があります。
【部品調達】     使用パーツについては自分の拘りと妥協の範囲での如何に選択するかどうかなのですが、Edアンプに使    用したパーツはそれほど入手困難な物はなく殆どが手持ち品で妥協できたのですが、問題は「拘り」の部    分でして、これに関しては普段からかなりの労力を割いてきました。     真空管だけではアンプが成立しない。。当たり前の事ですが、だからこそ真空管に見合ったパーツが何    かを考え、そこに拘ってきました。拘る部分はいくつかあります。音質への影響、耐久性、見た目、サイ    ズ、価格、等々、その他パーツとの統一性も重視しています。
    '90年代後半に起こった真空管アンプブームですが、ブーム到来の折、新規参入のショップには良く掘り    出し物のパーツが売られていましたので「無線と実験」が発刊されるたびに掲載された広告を見て、真空    管やパーツの種類や値段のチェックは欠かさなかった記憶があります。前述のとおり、当時はインターネ    ットが普及しておらず、ネットでの検索はできませんでしたので、雑誌だけが頼りでした。当然、記事で    何の真空管が取り上げられたかも重要で、無名で安い真空管でも一度記事に取り上げられたら、ショップ    の店頭から消えて無くなる可能性があったので品薄になる前の安いうちに買うのは鉄則でした。真空管シ    ョップ以外のパーツ屋のチェックも重要で、稀に絶滅種のパーツを発見した場合はこっそり買い占めた事    もあります。珍しい真空管を買うのも重要ですが、アンプを作る上で重要な部品は密かに絶滅する恐れが    あったので使う可能性のある部品は片っ端から買いました。     そんな事で月3回以上秋葉原に通い、秋葉原中を丸一日かけて回りました。「鵜の目鷹の目」で売られ    ている物を確認して回っていました。パトロールするだけではありません。掘り出し物に対応するため、    常に大金を所持していました。買わずに後悔するなら買って後悔しようと本気で考えていました。その後    ネットでの通販が普及し始めたら同様にチェックを欠かさず、地方にあるショップでも構わず注文してい    ました。今現在、秋葉原にあった大半の店は無くなり、自宅にあるパーツだけが思い出と共にその名残り    を残しています。 【後記】      '90年代中頃から末期にかけて、真空管ブームの流れに乗って、秋葉原に通い真空管やパーツをたくさ    ん買い込み、夢中になってアンプを作り音楽を聴きました。その集大成と言えるのがこのEdアンプでした    が、それ以降、少し落ち着きを取り戻し、アンプ作りに対して客観的な見方が出来る様になりました。     その頃のアンプは完璧に作ったつもりでしたが、シャーシを開けてみると意外に粗が目立ちます。    そしてそれらは今、手直しを含めてメンテが必要な時期にきていますが、余りにも時間がありません。    アンプをたくさん作るとそれだけで維持管理が大変になる事を今更ながら痛感しています。自分が作った    物であるのに、一旦壊れると、どこが壊れたかを解析するのが意外に難しかったりします。         さて、ドイツの真空管でドイツのスピーカーを鳴らす。。こんな妄想の為に多くの時間とお金を費やし    ましたが、それなりに完結したシステムに成った様に思います。しかし、妄想は尽きることなく新たに湧    いてきます。。。一体いつになったらまともに音楽を聴けるのか?と、妄想で購入した真空管やトランス、    パーツを横目に自問自答の毎日です。     しかし、希少球やパーツを買い占めてアンプを粗製乱造する事は控えてきたつもりです。 SIEMENSのEd    に惚れ込んだのなら死ぬまでこれ一本で通すべきなのでしょう。。。ゲッターが薄くなって寿命が尽きる    まで大事に使う。。そんな美談を妄想しながら他のアンプを作っているのが現状です。    「自作したアンプを使い続け、使い込んで自分だけのビンテージにする。。」実はそれが一番難しかった    りします。                                     完  
【参考文献】 ・「MY HANDY CRAFT」別冊ステレオサウンド           伊藤流 アンプ指南 解脱篇 Edシングル・ステレオパワーアンプ  伊藤喜多男著 ・無線と実験 1977.3月号 誠文堂新光社 原典版 AD1シングル5W増幅器       浅野 勇著 ・無線と実験 1980.1月号 誠文堂新光社 シーメンスEdシングル・アンプの設計と製作 渡辺直樹著 ・無線と実験 1981. 月号 誠文堂新光社 Edプッシュプルパワーアンプ(トランス結合) 伊藤喜多男著 ・無線と実験 1984.3月号 誠文堂新光社 Ed P.P.モノーラルパワーアンプの設計と製作 伊藤喜多男著 ・無線と実験 1986.5月号 誠文堂新光社 Ed P.P.パワーアンプの設計と製作      伊藤 学著  

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