【序】
最近、「真空管ハーモナイザー」という耳慣れない名前を聞くようになりました。
ネットで調べてみるとあの LUXがバッファー式のプリアンプを「真空管ハーモナイザー」と
いう呼び方で販売し始めた様で、真空管の音を少しでも楽しんで貰おうという事なのでしょ
う。最初は懐疑的な目で「真空管ハーモナイザー」なる物を見ていたのですが、ふと自分に
も身に覚えがある事に気づきました。今でこそ、真空管アンプを自由に作って悦に浸ってる
自分ですが、就職上京したての頃は金が無かったので 12AU7でSRPP回路を組み、バッファー
アンプを作って真空管の音を楽しんでた事があるのです。
実を言うとこのWE-141型ラインアンプはその頃作ったSRPP回路のバッファーアンプに使っ
ていたLEADのシャーシの使いまわしで、その頃の名残りがあります。
【WE-141型回路】
Western Electoric社の業務アンプの中にWE-141型と呼ばれるプリアンプがあります。
このプリアンプはWE-142型アンプの様なパワーアンプに内蔵されていて、着脱可能となって
います。ただ、WE-141型アンプに付いているWE-618型のトランスはMC昇圧トランスに使える
という事でマニア垂涎の品。本体から取り外されて高額で取引されているようです。
で、一方の本体はというと非常に良くできたアンプにもかかわらず、必要性がないため殆
どそのまま使う人がない様で、WE-618型トランスを失った残骸がたくさん打ち捨てられた状
態で残っているという話がラジオ技術誌に書かれています。
WE-141の原回路はこちらで入手する事が出来ます。尚、参考文献に上げ
たラジオ技術誌では 6J7は6SJ7に変更されています。自分の手持ちの真空管も6SJ7ですので、
記事にある通り、そのままコピーしています。
最終回路は以下の通り。
6SJ7と6SN7の片側ユニットの2段増幅でゲインを稼ぎ、6SN7のもう一方でカソードフォロ
ワ回路を作り、 600Ωの出力インピーダンスを確保する回路構成となっています。
カソードフォロワの電流を6SJ7のカソードに戻し電流帰還が掛かるようになっています。
この電流帰還量によってゲインを可変する事が出来、実機にはセレクタースイッチがつい
ています。
オリジナルのWE-141型アンプの回路にはゲイン調整用の 300,68,15Ωかららなるラダー抵
抗回路があり、これを状況に応じて切り替えられるようにセレクタが付いています。
これらの抵抗値を基にゲインをざっくり計算すると
20log((8200+910)/910) =20.0[dB]
910//(300+68+15)=269.55[ohm] 20log((8200+269.55)/269.55)=29.9[dB]
910//(68+15) = 76.06[ohm] 20log((8200+76.06)/76.06) =40.7[dB]
910//15 = 14.76[ohm] 20log((8200+14.76)/14.76) =54.9[dB]
※ 「//」は並列接続の意味。和分の積で計算。
となります。
ちなみに原器は入力トランスがあるので+20dB高くなっています。
入力トランスのインピーダンス比からゲインを計算してみると、
20log(√(25kohm/600ohm))=16.2[dB]
20log(√(25kohm/250ohm))=20[dB]
20log(√(25kohm/30ohm)) =29[dB]
となります。
【コンセプト】(落とし処というか。。。)
コンセプトと言う程の事ではないのですが、懲りすぎると後々大変で収拾が着かなくなりま
す。この際、一時的な思いつきで買った部品を整理する事にし、持っている部品の範囲内で仕
上げる事にしました。
・WE回路をデッドコピー。
・在庫部品の整理。シャーシは使い廻し。あり合わせの部品。
・出力トランスを使わない600Ω出力回路。
・ユニット形式のアンプ。
・イコライザ回路なし。
・入力トランスはなし。(但し、掘り出し物を見つけたら後付けする。)
【ターミナルボードの製作】
あり合わせの部品を使うと宣言しておきながら、いきなりの特殊部品です。もともと、一
時的な製作意欲に掻き立てられ pinと基板を購入してボードだけ組み立ててあったのですが、
その後、長い間放置されていました。やっとの事で日の目を見るわけです。(^^;;;
ターミナルボードの製作方法は至って簡単。参考文献のとおり実体図に位置に従い基板に
穴を開け、pinを取り付けるだけです。
ここで、注意すべき点としては、オリジナルのボードをそのまま真似ると無駄 pinが出来
たり、部品が取り付けにくくなりますので、出来れば自分で都合の良い部品配置を考えた方
が良いでしょう。自分は組み立てている最中それに気付き、不要 pinを外し、部品の配置も
変更しました。
また、ターミナルボードに拘らなくともラグ板など使用しても良いでしょう。
【ユニットのアルミ板】
オリジナルのWE-141アンプはバーサタイル・ユニット型、つまりアンプ部分が着脱可能で
容易に交換できる様になっています。
本体のシャーシはLEADのハンマートーンのカバーが付いた物で、元々は12AU7のSRPPバッファ
ーアンプを組んで使用していた物で写真の通り穴だらけになっています。捨てるには勿体無
いので取って置いたのですが、使い道がなく放置していました。
使い廻しのシャーシの為、穴だらけの土台のアルミを張り替える必要があるのですが、手
抜きしたいため大穴を開け、そこにバーサタイル・ユニット型に組んだ物を埋め込んでお茶
を濁そうというわけでして。。。(^^;;;
バーサタイル・ユニットのアルミ板は糸鋸を使い自分で切断、加工しました。
シャーシに取りつける時はゴムブッシュで絶縁し、シャーシアースと分離してあります。
【使用パーツ】
手持ちの部品の都合で、メーカーも種類もばらばらです。
コンデンサーは手持ちの部品を使用したので、定数は以下の通りになっています。尚、複
合タイプの電解コンデンサは一個1000円の掘り出し物で、ベーク板が無くしかも基板に取り
付けるタイプなので爪の部分をねじって固定する事が出来ません。そこで写真のような基板
を自作し、半田で固定しました。
【ゲイン切り替えスイッチ】
ゲインの切り替えは不要なのでロータリースイッチは使わないつもりでしたが、ラグ板代
わりにパーツを取り付け出来るのでる場所が無くなってしまうので、オリジナル同様ロータ
リースイッチを付けました。
【配線】
配線材は一束 100円のJUNK品ですが、一般に売られている物と違い折り曲げるとその形状
を保つタイプなので、ワイヤリングには最適です。
ヒーターは直流点火するつもりでしたが、電圧が足らず交流点火に戻しました。幸いハム
ノイズは出ませんでしたが、ゲイン最大で使用する場合、ノイズ対策をもう少し万全にする
必要がある様です。シャーシの都合により真空管が電源トランスに近くになってしまいまし
たが、心配していた誘導ノイズは無い様です。
【調整と所感】
試聴は 6V6SingleとFOSTEXスピーカで行いました。音源はCDです。ゲイン設定は最小なの
ですが、それでもかなり高いようで、ボリュームを少しひねるとかなり大きな音になります。
最初、ヒーター配線の片側をアースしていなかったせいでハムノイズが酷かったのですが、
アースを取るとピタリと止みました。ヒーターバイアスの必要はなさそうです。
但し、ゲインをあげた場合のSN比は悪い様で、本格的なアンプにするなら更なる調整が必
要のようです。
さて、長年このアンプを使い続け、何回か改良を繰り返した結果、ゲインが高い、つまり
帰還量が少ない方がやはり音が良い様に感じたので、回路図に示す通り30dBのゲイン設定で
-20dBのアッテネータを使い、10dB程度に抑えています。
この辺りは実際に作ってみて確認される事をお勧めします。
【参考文献】
・ラジオ技術 1999.12 アイエー出版 WE-141型ライン・アンプの製作 新 忠篤著