【序】
「魅惑の真空管アンプ」に掲載された WE-205Dアンプは、1997年にコピー試作し、今で
も稼働可能な状態で保存しています。このアンプ、スピーカー WE-755Aとの相性も抜群な
ためで、ウエスタンサウンドの「切れ端」としてリファレンスとして今尚その香りを漂わ
せています。
その後、音質の良いアンプを幾つか製作しましたが、このセットでしか成しえない音質
を他の真空管で置き換える事はできませんでした。ただ、残念な事に WE-205Dは一本しか
ないのですが、ステレオ化に踏み切る勇気がなく、長年の命題としてずっと残っていまし
た。
そのやり残しを始末すべく、2本目のWE-205Dを探していたところ何故か WE-205Fのペア
を入手してしまいました。元々、ST管のWE-101Dのシングルアンプは作った事があるので、
同じST管であるWE-205Fの音質に懐疑的で、それ程期待していなかったのですが、WE-205D
モノラルアンプを入手したWE-205Fに挿し替えて確認したところ、WE-205Dで得られてた音
と同じ音が出て来ましたのでステレオ化に踏み切った次第です。
【エルタス WE-205Fとの出会い】
すっかり忘れていたのですが、 WE-205Fとの出会いは、その昔就活で上京した際に当時
秋葉原にあったエルタスさんにお邪魔した時でした。その時のエルタスさんの店舗は駅か
ら少し外れたところにあって、無線と実験誌の広告の地図を頼りにお邪魔した記憶が有り
ます。
その時は巨大な米松で作られたスピーカーシステムを、WE-205F のパラプッシュのアン
プでドライブしてたと思います。
兎に角、今までに体験した事のない音でした。しかも、店主の方は一見さんの貧乏学生
にコーヒーまで出して音を聞かせてくれたのです。
元々ヴィンテージの世界に興味はあったものの知識や経験が全くなく、今考えれば敷居
の高い世界でしたが、当時は上京していろんな真空管やらオーディオを目の当たりにして
完全に舞い上がっていて、そんな事はお構いなしにいろんなところにお邪魔したました。
就職しても普通のオーディオ装置すら買えなかった貧乏人なのに、既に普通のオーディオ
は眼中にない状態で、今考えるとめちゃくちゃ偏向した思考を持っていた様に思います。
その後、秋葉原へ月一程度通ってた様に思いましたが、現実に戻って自分の貧乏さに打
ちのめされ、次第にヴィンテージショップから足が遠のき、気づいた時はもう移転してし
まった後で、それっきりになってしまいました。
【P&C WE-205Dを入手】
WE-205Dを入手したのはP&Cというお店。そう、あの真空管を自作して販売したお店
です。無線と実験誌の広告だけが頼りだったので、その中で最安値で販売してたのがP&
Cさんでした。 WE-205Dを買おうと思った動機はとてもいい加減で、魅惑の真空管アンプ
・上巻を見てただ単に「珍しい形をした丸球が欲しかった」と。。。その当時は WE-205D
を骨董品くらいにしか思ってなかったので、パワー管としては見ていませんでした。
ただ、プレミアムがこれ以上付かないうちに早目に買おうという軽い気持ちで購入しまし
た。
その時店に居た人の一言を今でも覚えています。「へぇ〜、今時の若い人は205Dを使う
んだ〜。。。」でも当時はその意味を全く理解してなかったのです。
なので、 WE-205Dの本当の価値を知ったのは10年ほど経ってから。 WE-755Aを購入して
手持ちのアンプの音の悪さに気づき今の様なスタイルでアンプを作り始めた頃でした。
いろいろ知識が増えるに従い、 WE-205Dの真の価値を知るようになり、慌てて魅惑の真空
管アンプ・上巻に掲載された回路を元にWE-205Dアンプを製作しました。
それで得られた音は完全に別次元の音でした。
その後、WE-101Dシングルアンプを作る時にパートリッジブランドのOEMトランスを買いに
行ったのもP&Cさんで、輸入トランスをいろいろ安く販売されていた頃でした。
【リサイクルショップの真空管、そしてWE-205Fを入手】
最近、ネットオークションを見ると、古典真空管を出品してる業者が街のリサイクルシ
ョップだったりします。当然、古典真空管の扱い方を知らない業者が多く、フィラメント
やヒーターの導通すらチェックせず、酷い場合にはゲッターが白くなっている真空管を正
常品と同じ価格で、ジャンク品という逃げ口上を使って出品しているようです。
この WE-205Fも実はそういったお店から入手した物で、送られて来たものをよく見てみ
るとゲッターがほぼ消失しているB級品でした。幸いにも動作に異常はありませんでした
が、こういった業者に希少な真空管が流れて雑に扱われているのは正直見るに堪えません。
まぁ、他人の行いを憂いてる暇があったら先ず自分の手持ちの真空管を先ず大事にし、
いち早くアンプにする事が先決ではないかと思いますので、一刻も早く WE-205Fのシング
ルエンド・ステレオアンプを作ってウエスタンサウンドを最低限の機器で楽しもうと言う
事で、手持ちの部品もここぞとばかり解放した次第です。
【WE-205D、WE-205F、WE-104D、WE-101Dデータシート比較】
各種WE管のデータを比較してみましょう。
動作条件比較 |
Tube |
Plate Voltage |
Grid Bias |
Plate Current |
μ |
gm |
Plate Resistance |
Load Resistance |
Output Power |
Filament Voltage |
Filament Current |
WE-205D |
350V |
-22.5V |
29mA |
7.3 |
1940μ |
3800ohm |
7.6Kohm |
0.8W |
4.5V |
1.6A |
WE-205F |
350V |
-22.5V |
35mA |
7.2 |
1950μ |
3700ohm |
8Kohm |
0.76W |
4.5V |
1.6A |
WE-104D |
190V |
-45V |
24.5mA |
2.4 |
810μ |
2800ohm |
2.8Kohm |
0.735W |
4.5V |
1A |
WE-101D |
190V |
-18V |
8.35mA |
5.95 |
- |
5600ohm |
11.2Kohm |
0.23W |
4.5V |
1.0A |
WE-101F |
190V |
-16V |
7.5mA |
6.5 |
6000μ |
5400ohm |
10.8Kohm |
0.24W |
4.1V |
0.5A |
WE-101D と WE-101Fはフィラメント電流が1.0Aと0.5Aという事で全く異なるのですが、
WE-205Dと WE-205Fはフィラメント規格は4.5V、1.6Aと両方共同じです。プレートの最大
定格が WE-205Dが400V、WE-205Fが360Vとあり、実は丸球のWE-205Dの方が一回り大きめの
定格となっています。
また、フィラメントの消費電力に着目してみると、WE-205F/Dは 7.2[W]、2A3が6.25[W]、
300Bが6[W]ですから、如何にこの WE-205F/Dの「火力」が凄くて見た目のスケール感と違
うものであるかが良く解ります。(アホな表現ですが。。)
実際、リボン型のフィラメントの幅は太く、WE-101D、WE-101F等と聴き比べてみると解
りますが、フィラメントの幅の太さに比例するかのように音の輪郭が「太く」なる感じが
します。
与太話はさておき、WE-101D のシングルアンプは過去に安斎勝太郎さんが製作し、無線
と実験誌に掲載記事があります。
これによるとカソード抵抗 880Ω、負荷7kΩという条件でプレート電圧220Vプレート電
流20mA程度で1.5W出力とあります。
この条件で製作したWE-101DアンプはWE-755Aを鳴らす為でしたが、これもウエスタンサ
ウンドの片鱗を体現出来るので、WE-205Fは資金面でちょっとと言う方にもお勧めです。
【回路】
原典回路は相も変わらず「魅惑の真空管アンプ・上巻」からの引用で、巻頭の記事の中
で回路図とモノクロ写真だけという扱いで紹介されていますが、WE-205Dの前段に56で2段
増幅し、出力トランスは見慣れないシングルで1次が8kΩという代物です。
出力が1Wそこそこのアンプにしてはなかなかの大仕掛けですが、定数の取り方が絶妙
で、WE-205D シングルアンプを作ってみてなかなかの回路だと感じたので、作り直すつも
りで同じ回路を採用しました。
ただ、ヒーター周りの電圧の都合により、56ではなくヒーター電圧違いの76を採用、片
ch2個ずつ並べるので、少々大きめのシャーシが必要となりました。また、市販品のシン
グルの出力トランスに1次が8kΩというのは市販品ではなかなか無いので、タンゴの1
次インピーダンスが7kΩの FW20-7Sを代替しています。このトランスも現在は入手困難
ですが、代替品はいろいろ出ていますので製作は可能です。また、56の代わりに27を使用
すればゲインは上がります。
それから、注意したいのは原典回路のWE-205Dは350Vまで電圧を掛けていますが、WE-
205Fを想定して、電源電圧を300V程度まで下げています。また、WE-205D を使うにしても
出力を欲張らず減電圧で使った方が良く、そういった事で300Vの規格の内輪での条件にし
ておけばWE-205F,205Dのどちらでも差し替え可能で使えます。
ちなみに、 WE-205Fのカソードバイパスのコンデンサは22uFとかなり絞った値にしてま
す。当然、此処の値を大きくとれば低域特性は伸びるのですが、小出力のアンプの場合、
メリットはあまりなく、電源オン時の充電電流を気にして整流管と出力管を労わる意味で
小さくしています。
それから、2段目のカップリング容量がオイルコンの0.13uFなので、1段目のカップリ
ング容量グリッド抵抗との時定数を調整をしています。
【ソケットの自作】
ソケットは自作ですが、端子の部分を入手するためにタイト製のバネのついたソケット
をバラしています。以前は日本製のタイト製のソケットが売られていましたが、今は製造
中止になっており入手困難です。一応類似の中国製のソケットを探してバラしてみました
が、まずまずと言ったところで、どうにか使えるようです。ちなみに元のソケットがこれ。
US8の方がピン数が多いので、一個で2個分作れます。
端子のリベットの部分をドリルで削って外しますが、中国製の物はリベットが銅製なので
結構硬く、ドリルの刃がダメになる可能性があるので要注意です。
ベーク板を2枚加工し2.5mmの皿ネジで止め、もう一枚を被せ絶縁します。組立てたら勘
合を確認します。
【WESTERN ELECTRICのパーツ】
長年ストックしてきたWESTERN ELECTRICのパーツを使いました。一つはカップリング用
のオイルコンデンサで0.13uF600Vの物です。これが結構くせ者で、音質に影響するかと思
って満を持しての投入でしたが、経年劣化もある様ですので、球の安全を考えるなら普通
のオイルコンでも十分ではないかと思います。
もう一つは、一時期大量に出回った板抵抗です。自分が所有しているのはWestern Sound
Inc.さんから板抵抗10枚10,000円で買いませんかとお誘いのハガキが届いた時に買ってお
いた物です。一番使うと思われた1kΩと880Ωがあったので1kΩを8枚、880Ωを2枚でお願
いしました。
880Ωは300B用ではなく、WE-101Dシングルアンプ用です。また、一枚の定格が5Wなので、
4枚使って20Wにできます。今回、205Fの場合は5Wで足りるので1枚づつ使用しています。
但し、シャーシ内部に収めると邪魔なのであえて外に取り付けました。球を囲えるので
丁度良いかもしれません。
電源に使用したオイルコンは 10uF,600Vのものです。リップルフィルタで20uFというの
はいろいろ勇気がいる(笑)話ですが、トータルで70mA程度しか必要とせず、あまり電流
が流れないので十分これで足ります。モノラルの WE-205Dのアンプでも電解コンデンサは
20uFくらいしか入れてません。
【ALTECの409BとWE-755Aについて】
ヴィンテージスピーカの入門機として初めて使ったのが ALTECの409Bで、ラジオ技術の
編集部が誌上頒布を始めて購入したのがきっかけです。その後、ラジオ技術誌1997年5月号
で新さんが WE-101Dシングルアンプと共WE-755Aの紹介し、更にのめり込むきっかけとなり
ました。
WE-755Aの購入は Western Sound Inc.さんで、755Aユニットが多数入荷してペア品を40
万で販売し始めてしばらくしての時でした。確か、STEREO誌で試聴レポートの記事が掲載
されて、試聴可能だって事で最初は軽い気持ちでお店にお伺いしたのを覚えています。
試聴後はもうどうしても欲しくなり、店の人に勧められるがままに購入した覚えがあり
ます。ただ後で「しまった!」と思ったのは、Western Sound Inc.に置いてあるアンプの
レベルが高かったという事です。
さて、家に WE-755Aを持って帰って自前のアンプを繋ぎ、さっそく鳴らしてみるわけで
すが、当然のごとく碌な音がしません。
手持ちの自信作のアンプであっただけにショックは大きく、自分のアンプ製作をやり方を
根本から見直すきっかけとなりました。
その後、買い置きしていた WE-205Dを使ってモノラルアンプを製作したところ、難なく
WE-755A本来の音が鳴り始めたのを覚えています。
【所感】
出来上がったアンプの所感を簡単に述べておきます。
先ず、今は存在しない WE-101Dシングルアンプの記憶にある音を基準に考えてみるとWE
-205FやWE-205Dの方が音の線が太いといった印象があります。WEの真空管の音だというの
が解るくらい、他の真空管と異なる音がでます。
WE-205DとWE-205Fの差はあまり感じませんでした。視覚で見てしまうとどうしても WE-
205Dの方に軍配が上がってしまいますが、現在の出力トランスのグレードや WE-755Aレベ
ルでは差はあまり解らないのではないかと思います。
それから、今回ステレオアンプで纏めましたが、やはりモノラルで聴く音とステレオで
聴く音は違い、ステレオで聴くと音がボケて聞こえます。ただ、これは部屋の条件やエン
クロージャの問題でもあるので、今現在アンプとしてやれる事はここまでかと思います。
また、将来的にWE-205Dが2本揃ったら差し替えて使ってみようと思います。
完
【参考文献】
・「魅惑の真空管アンプ上巻」浅野 勇 監修 誠文堂新光社
・無線と実験 1978年7月号 誠文堂新光社 ウエスタンWE-101Dシングル ステレオ・パワーアンプ 安斎勝太郎 著
・無線と実験 1981年2月号 誠文堂新光社 WE-205D/F シングル・モノーラルパワーアンプの設計と製作 安斎勝太郎 著
・ラジオ技術 1997年5月号 アイエー出版 WE-101Dアンプ 新 忠篤 著