食べる機能の発達講演要旨

 

このページは、平成16年12月20日会津保健福祉事務所の招きで、おこなった講演の内容をまとめたものです。

@発達の原則

 

 皆さんこんにちは、新潟県歯科医師会障害者歯科センターの藤本です。本日は、乳幼児の食の発達ということでお話をさせていただきます。事前にたくさんの質問もいただきましたので、講演の中でお話できなかったことは、補足ということでお話させていただきます。

 食べる機能だけではなく、一般的に精神身体機能が発達していく過程では、かならず一定の決まりがあります。それをきちんと理解し摂食指導に取り組まないとないと、うまくいきません。簡単に言いますと、機能を獲得するには順序と時期と個人差があるということです。

 つまり赤ちゃんがいきなり箸で食べられるようにはならないという例でもわかるように神様が与えてくれたこれらの要素を無視できないということです。

 また、赤ちゃんを取り巻く環境というのも重要です。

 健常なお子さんでは、ある時期が来れば摂食機能のゴールには必ず到達するのです。ここのところをまず頭に入れて置いてください。

 

A乳幼児の食べる機能の発達(乳児期)

 

 では、乳児から順に摂食機能の発達を考えて生きましょう。まず、赤ちゃんですが、摂食嚥下機能は、動きも口の構造も乳房や哺乳瓶を使っておっぱいを飲むことだけに特化されています。逆に言うと食具を使った摂食は無理だということです。

 もうひとつ大事なのは、おっぱいを飲む(吸うではありません)機能は、もって生まれた反射で行われているということです。指を赤ちゃんの口に近づけるとくわえようと顔を近づけたり、指をくわえてちゅうちゅうし始めますね。これは、彼の意思が及んでいないことを示しています。

 もう少し専門的にいいますと、唇と舌とあごの動きが分離できていないために食べ物を自由自在に食べられないのです。手の指を自由に操れないのと同じです。

 

離乳期

 

 離乳の時期に入ると、大人の食べる機能獲得に向かって進んでいきます。

 まず、首がすわることが大前提です。食べたり飲んだりする筋肉を自在に操るためには、首から上の筋肉がしっかりしないとだめなのです。

 また、先に述べた反射がだんだん影を潜めてきます。唇と舌とあごの分離運動が徐々に可能になっていきます。とはいえ、まだ十分ではありません。離乳食を与えられても、くちびるをうまく閉じられませんのでうまく送り込めず、こぼしてしまいます。舌も口の中にうまく納まっていないので、飲み込むときにくちびるからはみ出し、「ちゅちゅ」と音が出てします。あごもパクパクしています。

 唇を閉じる機能は、言葉の発達とも関係してきます。

 「ぶーぶー」「まー」など意識的に唇を閉じることと呼吸のコントロールができるようになると、食べ物が上手に飲み込めるようになります。ここまでが一般的に離乳初期といわれている時期です。

 

 口びるを上手に閉じることができるようになると、適切な固形物が与えられたときに、上あごと舌で、つぶすことができるようになります。処理しているときと飲み込むときは口を真一文字に閉じています。離乳中期の特徴的な動きです。

 さらに発達していくと、口の中で自由に舌をコントロールできるようになります。形のあるものはつぶしてどろどろにしなければなりません。歯は生えていませんが、奥歯の部分の土手でつぶすことができます。口に入った食べ物を土手のところまで運ぶのが舌の役割です。咀嚼の始まりです。外から見ていると舌の動きにともない、あごが片方にずれますので、正面から見ていると、鼻から下が左右非対称の動きに見えます。咀嚼ができているかどうかの大きな目安となります。さらに歯も生えてきて、色々なものに挑戦できるようになってきます。

 

 ここまでくれば、基本的な機能は確立したことになります。

 

B子供の性格と食

 

さて、ここから話は機能から精神的なものへかわっていきます。

 子供の食行動には、気質というもの、つまり性格も大きくかかわってくるということをわかっていただきたいと思います。

 まず、活動水準といいますが、食べるのが早く、食べているときにも落ち着かない子供とゆっくりとおとなしく食べる子供がいます。

 つぎに接近性です。食べ物にどれほどの好奇心を持つかとか、初めての場所や食べ物にどのように反応するかなどのことです。たとえば、保育園に入って初めて出された給食の時にどういう態度をとるかで良くわかるでしょう。

 周期性は、むら食いということに象徴されるでしょう。これもひとつの性格なのです。

 順応性は、説明するまでもないでしょう。

 反応性は、好き嫌いの強さとでも表現しましょうか。

 敏感性は、味や感触、温度、匂いなどに対する反応です。

 ここで強調したいことは、子供は色々な食べ方をするということです。そして、どれがいいとか悪いとかは、決め付けられないということです。

 集団での食行動は、往々にして管理する側の都合の良い食べ方をしてくれる子供を良い子と捉えがちです。決まった時間で同じ食事を取るということを苦痛に感じている子供はたくさんいるということを考慮しなければならないと思います。

C3才を境に食は変わる

 

 3才以前は、生命維持、機能発達のための食事と捉えてください。好き嫌いも生理的というより機能的に食べる能力が付いていっていないための反応です。味の濃さや嗜好なども大人の感覚で与えるのではなく、味覚などの感覚を最大限学習できるように注意を払って調理して与えることが重要です。

 この時期はまだ十分な咀嚼能力を獲得していませんので、調理形態にも気をつけましょう。

 3才を過ぎると、大脳の発達も進み、食事をただ食べるだけでなく、五感を使うようになります。社会食べを学習するのもこのころからです。

 集団の中での食事は、競争心、向上心、好奇心などに刺激され色々なものに挑戦する意欲が育まれます。嫌いだったものも食べられるようになります。

 逆に、食べる意欲を失うような環境や食事の強制、孤食などの問題も出てきます。楽しく食べる環境作りが大切な時期といえます。

 

D楽しい食事とは

 

 新潟医療福祉大学の宮岡先生と共同で「楽しくおいしく食べる」事に関するアンケート調査をした結果がここにあります。

 結論は単純で、ほとんどの方が「夕食を家族で会話をしながら好きなものを食べる」ことが「楽しくおいしく食べる」イメージと捉えています。

 逆に「朝食を個室で嫌いなものを食べる」のが、楽しくない食事と答えています。ただ、こちらは個人によって嫌な因子がまちまちで、個人差が強い結果となりました。

 

Eこんなことで困っている

 

 事前に皆さんからいただいた質問は、多岐にわたっていますが、食事の調理携帯や与え方と機能発達の不一致に関するものが、ほとんどでした。本人のかむ機能が十分でないのに、肉の塊や生野菜を与えているなどが、その良い例です。健常児であれば必ずゴールしますので、あせらずゆっくりと見守ってあげてください。

 ただ、3才以降のチュチュ食べや丸呑み、早食いは、誤学習の可能性が高いです。これを直すことは大変難しいと思います。

 

F発達検査と摂食機能

 

自閉症の発達検査(pep-r)を健常児に用い、結果から導かれる摂食機能の発達年齢を他の研究結果と比較して見ました。表をお示ししますが、言語表出、手と目の協調、微細運動に高い一致が見られます。機能獲得年齢と発達年齢検査結果のとの一致も見られました。

 この発達検査を用いて、障害児(自閉症児や知的障害児)の摂食機能の獲得段階を推測することが可能になりました。

 

G摂食機能を視野に入れた歯科保健指導

 

 

さて、最後に、今日は歯科衛生士のかたも、たくさんおいでになっているようなので、乳児健診についてお話させていただきます。

最近、あちこちの自治体でぼちぼち、歯科衛生士が9ヶ月健診に同席するようになってくるようになりました。ただ、歯科衛生士のほうがどのような指導をしたら良いか戸惑っているケースもあります。実際は相談や指導することはいっぱいあるんですよ。

摂食機能発達については、この時期は、歯牙の発達途中であるが、はぐき食べ(すりつぶし)ができるようになる、水分のコップからのすすり込みができるようになる、てづかみ食べをする、前歯でのかじり取りができる、咀嚼の動きがでてくる、形のあるものが食べられるようになる、など、大変重要な時期なんです。離乳食指導もこういった目で見られるのは、歯科関係者だけだと思います。

虫歯予防の観点からも、仕上げ磨きなど嫌がる時期である、家庭での甘味摂取管理が重要な時期である、食事時間が規則的になるので間食内容や与え方に配慮するようにしなければならない、哺乳瓶や母乳の摂取(生活状況や心理に配慮・一律の指導は好ましくない)について、また、指しゃぶりの指導など色々切り口があります。

 ぜひ、勉強なさって現場で活躍してください。

 以上でわたしの話を終わります。ご清聴ありがとうございました。

 

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