障害を持ったお子さんの治療は難しいと考えていませんか?

 

 おとなしくさせない、暴れる、口を開かないなど、一度受診して、治療がうまくいかなくて再度の受診をちゅうちょされている方。うちの子はとても出来そうもないと始めからあきらめている方。

 障害を持ったお子さんの歯科治療は何か特別なことをするかのように考えられがちですが、そんなことはありません。

 障害を持っているお子さんの歯科治療について少し整理して考えてみましょう。

  • 全身的に問題のある場合(心臓病や血液疾患など医学的管理が必要な場合)は、専門医の診断の元、しかるべき施設で治療が必要です。(ただし、歯科治療の侵襲が軽度な場合やフッ素塗布などの予防処置は可能)

  • コミュニケーションがとりづらく、こちらの言うことが理解できない場合。(自閉症。知的障害者)

  • 不随意運動や緊張が強く、長時間口を開いていられない場合や、じっとしていられない場合。(脳性麻痺)

 全身的に問題がなく一般の歯科医院で治療が可能な方の対象は、2・3です。しかし、一般の歯医者さんではなかなか受け入れてもらえない場合があります。

 歯科治療の内容は、健常児と何ら変わりがないのになぜ受け入れてもらえないのでしょう。

 皆さんが一度でも歯科医院にかかったことがあればわかると思いますが、不安になる要素として

  • 独特の不快感がある。(音、振動、水、痛みなど)

  • 長時間我慢をしていなければならない。(開口状態を保つ、鼻での呼吸を続ける、など)

  • 次の治療の内容が予測できない。終了の予測が出来ない。

  • 以前の歯科治療に対する不快な記憶が残っている。

などがあげられます。これは誰でも感じることです。でも私たちは我慢します。(させられる?)そのことによって、痛みがなくなるとか、ご飯が食べられるようになるなど、歯科治療のメリットが予測出来るからです。また、歯科医師との信頼関係も関係してきます。(やさしくしてくれる、とか、痛みがあればやめてくれるとか、説明を十分にしてくれる、結果が良いなど)

 

 ですから、障害を持ったお子さんに対しては、上の4項目について、対策を講じれば、何ら普通の歯科治療と変わりなく出来るようになるのです。

 

 

一般の歯医者さんで受け入れてもらえない理由としては

  • 歯科医師の障害に対する知識不足、偏見がある。

  • 大きな声を出したり、奇声を発したり、多動であり、行動管理が難しい場合がある。

  • 慣れるまでに時間や通院回数がかかる場合がある。

  • 通常と同じ治療をしようとする。

 この中で、最初に挙げた障害に対する知識不足からくる、対応法の未熟さが大きな壁になる例が多くあります。どうしてよいかわからない場合、しかるべき先生に紹介する方が、良心的だといえます。障害を理解しないで、強引な治療をおこなうのは、慎むべきだと思います。

 わたしたちは大きな声や多動に関しては、見てみぬふりをしています。(ただし、危険がないかどうかは常に観察していますが)無視するのがいちばん。うちの場合、待っているほかの患者さんも慣れたものです。何回も通えば慣れるとは限りません。思い切って短時間に多くの治療を行い、何回も通院させないこともあります。この場合も、定期検診には通ってもらいます。歯科医師の考えによっては、通常と同じ処置にこだわる場合がありますが、無理(不快な記憶を植え付けるほどの)をしてまで、治療を成し遂げる必要はないと思います。この場合も、定期検診でのチェックは欠かせません。

 

 

 

抑制治療について

 

 治療中に予測できない突発的な動きをしたり、術者側の指示に従えず、危険があると予測される時、抑制具を使ったり、何人かのスタッフで身体を抑制する場合があります。抑制治療については、わたし達歯科医の間でも、賛否両論があります。

 ここでは教科書的なことではなく、私自身の経験から、わたしの考え方を述べます。

 歯科治療は、基本的に、身体の一部を傷つける行為です。使用する器具は鋭利なものが多く、治療中は、常に重大な事故の危険があります。このような歯科の治療の特殊性を踏まえて以下のように考えています。

  • 抑制の有無を問わず、患者さんにはできるだけ不快な思いをさせないことを心がける。(麻酔をする・ラバーダムをする・音の静かな機械を使うなど)

  • 保護者に治療内容と抑制治療をしなければならない理由を説明して、治療の許可をもらう。

  • 処置の手順をスタッフとあらかじめしっかりと打ち合わせしておき、処置は短時間に済ませるようにする。

  • 診療中おとなしい子供ほど怖い。泣いている場合の方が安心。口を見るのではなく、子供の目を見ながら治療するように心がける。

  • ひどい虫歯で痛みを伴っている場合は、強制治療になる場合があるが、2度目からは、痛みなどを与えない配慮をすれば、以後の治療はスムーズにいく場合が多い。(年に何例もないが、それでもとても後味が悪い)

  • 術者も子供も、気持ちにも時間的にも余裕のあるときに行う。忙しいとき、疲れているときなどするとろくなことはない。

  • 自分の子供にしたくないことは患者さんにもしない。

 

全身麻酔による治療

 

 

保護者の方にお願い

  • 治療のシュミレーションを家でする。(難しいことではありません。仕上げ磨きのとき、寝かせて、数を数えながらする。診療のときも寝かせてやりますし、数を数えながら処置をします。家でお父さんやお母さんがしていることと同じことをしている安心感がある。)

  • 歯磨きを通じて、口をさわられることに慣らす。歯ブラシをさせない子供に、歯科の器具を口の中に入れるのは至難の業。

  • 食管理(特にあまいもの)が出来ていなければ、また元のもくあみ。家庭では、日常の歯磨きと甘いものの管理をがんばってください。

  • 母子分離が出来ていないと、治療も難しい。付き添いの方の不安が子供に伝わります。先生を信頼して、子供も信頼して。

  • 定期検査を欠かさずに。虫歯が軽いうちは、処置も簡単で不快感もありません。

 

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