ただ、ボーッと列車に揺られていたい旅があります。
時には、そんな旅もいいものです。
 ある年の夏、ひたすら鈍行列車を乗り継ぐ汽車旅を思い立った。当時、いわゆる
プータローだった筆者が思いついたのか、同行した中学以来の友人(G君と呼ぶ)が
思いついたのか、今となっては記憶にないが、ヒマだけは腐るほどあった筆者である。
ワクワクしながら、青春18きっぷを手に24時間乗り継ぎの旅に出た。

 金曜日の午後4時すぎに、品川に着いた。最初の列車、大垣行夜行列車の発車は
11時55分。新幹線で盛岡まで行って戻っても、まだお釣りがくるほどの時間がある。
そういうたとえをすると、プータローならではの時間の使い方だなあと思う。とはいって
も、用もなく早く参上したわけではない。予想し得ぬ大混雑に備え、ホームに並ぶ・・・
というか、“座る”のである。しかし、目的の列車を待つ人は筆者一人であった。結果
から言うと、ホームに人だかりと呼べるほどの群集ができたのは夜7時過ぎである。
その少し前に、G(→G君と呼ぶべきだが、面倒なので呼び捨てにする)が、弁当を連
れて、やって来た。彼はまっとうな社会人なので、ワイシャツにスラックスという、金曜
の仕事帰り姿であった。ちなみに筆者はアロハシャツに短パン、サンダル履き。端か
ら見れば、護送中の刑事と犯人のようにも見えよう。
 Gが持ってきたハンバーグ弁当は非常に美味かった。後から聞いたのだが、このハ
ンバーグは非常に脂ぎってきて食えたものではないというのだ。騙された。モルモット
扱いされてしまったのだ。しかし、プータロー(→これも面倒なので、以下プーと略す)
は雑食動物である。難なく食べきってしまった。

 さて、漫画は読むわ新聞も読むわで時間を潰していたのだが、やはり退屈である。
そんなとき、見るからに“駅が住まい”風の老婆が近寄ってきて、ホームの乗車位置
が書かれた部分に新聞を敷いて座っている筆者に「どけ」というようなことを言う。
「そこに座ると、乗客がどこを目印に並んでいいか分からないだろう」と言うのだ。
カチンと来た。すでに数人、後ろに並んでいるのだし、ホーム上にも乗車位置目標は
ある。何よりも、ホームレスに説教される筋合いはない。周囲に人がいなければ、逆
上して線路に突き落としていたかもしれない。何と言って応酬したか覚えていないが
腹が立って無視できなかったのは覚えている。ちなみにGは呑気に笑っていた。

 夜も更けてくると、人はますます増えてきた。人気列車である。座席には人が溢れ、
通路に座り込む乗客まで出るほどなのだ。まして、金曜の夜。少し来るのは早かった
が、長蛇の列の先頭にいるというのはいいものだ。向かい側のホームには仕事帰り
サラリーマンたちでごった返しており、少しばかり奇異な視線も気にならないわけでは
ないが、どう見られようが何と思われようが、夜行列車で旅立つ前のこの爽快感は、
何度味わってもたまらないものがある。
 そして、待ちわびた列車が入線してきた。なだれ込むように、乗車する。筆者たちは
座席を確保して当然だが、座れるか座れないかのギリギリの人間もいるわけだ。この
列車は対面式のボックスシートになっており、1ボックスに4人の定員である。筆者と
Gは窓側に対面して座ったが、筆者の隣には太目の青年(と中年の間くらい)が着席
した。隣の人間によって、当然、圧迫感が違う。失礼ながら、今日の筆者は運が悪い
と、しみじみ思った。しかも、はっきり言ってこれは偏見だが、“鉄道マニアの匂い”が
プンプンしていて、嫌だった。さらに失礼を承知で言うが、この人種は特異な人が多く
見られる。この男も、格好つけて懐中時計を取り出し、大版時刻表を見ていたかと思
えば、「この車両は○○年製で今年が車検だ」「○○工場で製造されたものだ」など
聞いてもいないのに語り出す。きっと、鉄道マニアってこんな人ばかりじゃないと思う
が、隣に座った男は、イメージ的には“典型的な鉄道マニア”。
 さらに、座席を確保できず、筆者たちの座席の傍の通路に座り込んだ奴は、オカマ
口調の男だった。何なんだ、この列車は・・・。乗った車両が悪かったのか??
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