僕の名前は田中一郎。 できるだけ客観的、かつ冷静にして常識を踏まえた上での自己分析を行う事によって自己紹介したいと思う(もちろん、ある程度主観が入ることは否めないが)。 容姿。ハッキリ言って、地味である。とはいえ、顔のつくりもセンスも悪くない。スポーツで鍛えた身体は、細身かつ均整のとれた筋肉のつき具合で、むしろ美しいとさえ言えよう(他人には見せないが)。ちなみに眼鏡をかけているのは、やや文科系の雰囲気をかもし出してしまうが、コンタクトと併用していることも理由の一つではあるが、眼鏡それ自体がむしろ知的な雰囲気を演出し、マイナスポイントにはなるまい。 頭脳。明晰である。と言ってしまうと身も蓋もないが、事実そうなのだから仕方ない。ちなみにこれは、もともとの素地はあることは認めるが、それに加えての日頃からの勉強によるものであって、努力の賜物であるから僕はあえて謙遜しようとは思わない。また、学年での成績が常に総合で10位以内に入っている事実からもそれは否定できないであろう。うちの高校で一流大学に受かるのは僕達ぐらいのものだろう。 スポーツ。万能である。クラブには所属していないが、僕の趣味はスポーツなので自然と身体も鍛えられる。ちなみに、代わりと言ってはなんだが得意な種目はない。なにしろ、鍛えた身体だけでわたっていっているので、「野球が得意」とか「バスケットが得意」という風にはならないのだ。あえて言えば、陸上競技か。技術よりも身体能力がもろに影響するからである。 性格。良い。自分で言うのもなんだが、子供と老人には特に優しい。俗に言う「いい人」である。かと言ってお人よしだとは思わない。冷静な状況把握と判断力によって、時に厳しい結論を出すこともあるからだ。ちなみに、人当たりもいい。よって、男子の間では、これだけ能力に恵まれた突出した存在にも関わらず、妬みの対象になったり嫌がらせをされたりということもない(顔も雰囲気も地味だから、ということもあるかもしれない)。 家。普通の家庭である。父親はサラリーマンだし、母親は専業主婦。一軒家に住んでいるので中流家庭でも少し上の方かもしれないが、それも借地だし、生活は普通である。まあ、生活に困らない程度に裕福である、と言うべきか。 そういうわけで、一言で言うとほぼ完璧である。地味で普通だが。あなたの周りでも、クラスに一人ぐらいは居なかっただろうか。特に目立つ存在でもないのに、妙に何でもそつなくこなす奴。勉強もできればスポーツもできる。人気もそこそこ、見た目もまあまあ。特に金持ちという訳でもないが、金に困った様子もない。ある意味、無個性である。 特筆すべき点が一点。僕は「女嫌い」で通っている。僕としては女の子に興味がない訳ないのだが。普通の健康な男子高校生として、普通に女の子は好きである。ただし、少々好みが変わっているのと、変わった性癖が…まあ、その辺は後で話そう。 「田中君、同じ方向だし…一緒に帰らない?」 今日は少し遅くなってしまったせいで、他の男子と一緒に帰りそこねてしまった。そこで、しかたなく一人で帰ろうか…と思っていたところである。 一人の女の子が声をかけてきた。 幼なじみで隣に住んでいる藤崎しおりだ。 同じ方向もなにも、家が隣同士なのだから、一緒に帰るとすれば家までずーっと一緒なのだが、まあその辺は突っ込むまい。 僕はこの子が大好きだ。と言っても、変な風に取らないで欲しい。恋愛感情は僕の名誉にかけて言うが、一切、ない。で、何故好きかというのはこれもまた後で。 ちなみに、彼女を紹介させてもらうと、僕をそのまま女にしたような完璧な子だ。もう一つ付け加えるなら、僕と違って華やかさがある。頭脳明晰、スポーツ万能、容姿端麗、性格も良い(この点についてはちょっと異論がなくもない)とくれば、男子が放っておくはずはない。「彼女にしたい女子No1」という話題では必ずと言っていい程名前が挙げられるぐらいの人気だ。その辺は派手にはモテない僕とえらい違いだ。 まあ、そんな彼女が幼なじみの僕に声をかけてきたわけだ。「田中君、同じ方向だし…一緒に帰らない?」と。 僕はにーっこりと笑ってこう言った。 「顔を洗って出直してきたら?」 うぉーっと歓声が周りから聞こえた。残っていた男子連中である。 一方、しおりは。 「ご、ごめんなさい。やっぱり迷惑だったわよね」 と言って、泣きながら一人で帰ってしまった。 「す、すげえ。あの藤崎しおりの誘いを断ったよ!」 「お前、カッコイイなぁ」 周りの男子が口々に言う。しかし、僕はこうやって(ある種の勇気をもって)称えられたくてあんな発言をした訳ではない。 僕は、己を過信した女の心をメチャクチャに潰すのが趣味なのだ。 つまり、この辺が僕を称して「女嫌い」とさせている理由である。 ちなみに、しおりが大好きだと言ったのは、一番のカモだからである。 なにしろ、人気のある彼女のこと、ラブレター(古いなぁ…死語か?)はもちろん告白されたことも何度もある。 にも関わらずフリーなのは、理想が高いからだというもっぱらの評判である。そんな彼女にとって、男は「声をかければ断るはずがない生き物」である。その辺のカンチガイぶりがもう、たまらない。端で見ていて、「お前は何様だ」というのがありありとうかがえる。…まあ、特に男子に対してキツイ事を言ったり偉ぶったりするわけではないのだが、何故か漂ってくる高慢さは一部の男子からは嫌われている。 で、これがまた面白いことにどうも僕に気があるらしいのだ。 もちろん、僕の方には前にも言った通り欠片もそんな気はないのだが。それでも無意識のプライドの成せるわざか、しつこく声をかけてくる。それをいちいち叩き潰すことの快感といったら、もう。 …一応言っておくが、僕はサディストではない。………多分。 そういえば、忘れもしない2年前の春。入学したての僕がしおりに対して逆に「帰り、家まで一緒に帰らない?」と言った時の返事を僕は今でも忘れない。 「ごめんなさい…噂になると恥ずかしいから…」 は!?何色気づいてんの、お前。俺は幼なじみで家が隣だから誘っただけで何にも深い意味なんかないよ?てゆうかこないだまで一緒に帰ってたじゃん!何を今更。 …というわけで、心底むかついた僕は、それ以来自分からしおりを帰りに誘った事は一度もない。なのになぜか去年ぐらいから向こうからしょっちゅう声をかけてくるようになったのは皮肉な話だ。 ……良く考えてみると僕のやってることは唯の逆恨みという話もある。 なんにせよ、先に仕掛けてきたのは向こうだから、僕は悪くない。 そういえば、去年のクリスマスには手編みのセーターを持ってきた。 丁重にお断りさせて頂いた。 「手作りのモノって何か呪いかかってそうで気味悪いから」 と言って。さすがに泣きそうだったが、そのまま逃げていってしまったので表情を良く見ていない。惜しい事をした。 ちなみにその時横で聞いていた友人は「鬼だな、お前…」と言っていた。僕もそう思う。 そうそう。しおりの誕生日に、「お返しに」と言ってプレゼントをあげた事もあった。 あれだけヒドイ目にあっても懲りないらしく(ここまで来ると馬鹿だと思う)、素直に喜んで「わぁ、田中君からプレゼントもらえるなんて。何かしら?」と言って開けた瞬間、出てきたのが雑巾だった瞬間は爆笑するかと思った。あの凍ったような表情といったら、もう。 「きみに一番似合うと思って一生懸命選んだんだ…どう?」 と、笑いをこらえながらマジな顔で言ったら、言うに事欠いて 「あ、ありがとう…うれしいわ…」 嘘つけ!お前、絶対嬉しくないだろ!つうか、なんだ、「雑巾が似合う女」って。誉めてないから。誉めてないから。 いや、笑かしてくれる女だ。 …もう一度言っておくが僕はサディストではない…………多分。 ちなみに彼女募集中だ。嘘じゃなくて。本当に。僕がノーマルだというのは次回、じっくりと。って次回あるのか?これ。ちゃんとやれよ、作者。 |