「ときめかないカップル3 −完結編−」
ある女子大生二人の会話。(と通りすがりのカップル)
「やっぱり結婚相手の条件って、土地付き一戸建てに一人暮しでェ年収1千万以上6大学出身でェ優しくて顔もよくてェ家事とかやってくれる人じゃなきゃね」
「一流企業の出世株のね」
「それ以外の男なんてカスカス」
「お断りってカンジよね」
「…別に彼女達の思想をとやかく言うつもりはないが、男にも選ぶ権利があるんじゃないのか…?」(通りすがり)
「…そうね。つきあう相手に何を求めるのかは自由だけれど、見返りに自分が何を提供できるか考えてから発言した方がいいわよね…」(通りすがり)
「ご…ごめんなさい…」
最近、実はしおりと自分は結構気が合うんじゃないかと思うようになってきた。

ある女子大生二人の会話。(と通りすがりのカップル)
「アメリカの首都ってどこだっけ?」
「えー?ニューヨーク?」
「バカねェ。ロサンゼルスよ」
「あっ、そっかー」
「パリの首都は?」
「知らなーい」
「…アメリカの首都はワシントンだ。そんな常識も持ち合わせていないのか…」(通りすがり)
「…パリに至っては国名ですらないわよね。パリはフランスの首都だわ。それを間違えるってことはフランスとパリが別の国だとでも思っていたのかしら…」(通りすがり)
…ウチの大学って地理の知識が皆無でも入れるんだっけ?ああ、大学受験で「地理」で受ける奴なんてほとんどいないし義務付けられてもいないもんな…」(通りすがり)
「…どちらにしても同じ大学に在籍している人間の無知さ加減を思い知らされると死にたくなるほどの自己嫌悪に陥るわよね…」(通りすがり)
「す…すいません…。勉強しときます…」
最近、実はしおりと俺はお似合いのカップルなんじゃないかという気がしてきた。

そんなカップルの話。(完結編)

俺の名前は田中一郎藤崎しおりとつきあうようになって1年半が経つ。最近、ようやくこの関係にも馴染んできた。(おかげで人間性がどんどん歪んできた気がする)(そしてしおりもそれに合わせて歪みまくってきた気がする)
それにしても、一流大学に入れば頭のいい女がたくさんいると思っていたが、現実には「勉強ができる奴」と「頭がいい奴」とは全然違うものだということに気付かせられてちょっと鬱だ。むしろ、勉強ばっかりできるくせにその分知能が低くって相手してらんないような女ばっかりでうんざりする。その点、しおりは勉強ももちろんできるが基本的に頭もいいので俺好みだ
そして、大学に入った途端、男も女もやたら色気づいてきて、そのせいで男は女に媚びまくり、おかげで女は増長して手のつけられないほどにつけあがるというこの現実をどう受け止めたらよいものか。特に女っ気のないサークルなどに行くと、数少ない女の部員はあたかも女王様のごとく崇められ、自分は誰よりも偉いという思いっきり間違った価値観を植え付けられる事になる上、そんな女っ気のないサークルにいるぐらいだから「こいつ女かよ」って思わずつっこみたくなるぐらいのご面相をしているのはどうしたものか。その点、しおりは高慢だとは言ってもたかが知れてるし、プライドも自分に見合った程度にしか持ち合わせていないからまあマシな方だ
そういう意味では、俺はこんな彼女がいて幸せなのかもしれない。しかも、俺が「これでもか」というぐらいに嫌がらせとしか思えないようなことをしても全て受けとめられるほどに俺を愛してくれているのはある意味凄いことだ(そんな愛はちょっと嫌だが)。
そういうわけで、俺はつきあっている時はおろかつきあいはじめる時にすら言わなかった「好きだ」の一言を言わんが為に、綿密なスケジュールをたてて今日のデートを計画したのだった。(どうでもいいことだが、俺は未だにその「好きだ」の一言も言ってないにも関わらずいつのまにかつきあっている事になっているのは非常に不思議だ。てゆうか、これはつきあっていると言っていいのだろうか)

いい感じの夜の公園…。
「一郎君、見て。街の灯りがあんなに綺麗…。なんだか私達を祝福してくれているかのようね…」
「あ、ああ…そうだな…」
「そういえば、思い出すな…あの伝説の樹の下で告白した時のこと…。私が初めて「好きです」って言った時のこと」
「うん。覚えているよ…」
「あなたったら照れて「そうか。僕は君が嫌いだ」なんて言って。あの時、私、なんだか全身に電流が走ったかのような衝撃が走ったのよね…」
「そ、そうだったね…」(それはショックを受けたのか感激したのかどっちなんだ…?どっちかと言えばもちろん前者であって欲しいが…)
「それで、私が「もうただの幼なじみじゃ嫌…」って言ったら、あなたも「僕ももうただの幼なじみでいるなんて耐えられない」って言ってくれて。それで、私達つきあうことになったのよね…」
「う、うん…そうだね…」(それは「ただの幼なじみでいることすらもう耐えがたいっていう点だけは同感だよ」って言ったんだが…)
「あの樹の伝説の通り、私達いつまでも一緒にいられるといいわね…」
「ああ…」(会話の流れはともかく、いい感じだ!こ、これなら肩に手を回すぐらいいいよな?よし、いくぞ!い、言うぞ、俺。頑張れ、俺!)
「しおり…好きだよ…」(肩を抱き寄せながら)
「嫌ぁっ!!!!」
「え…?」
「あ、あなた今まで一度も自分の口から「好きだ」なんて言った事ないくせに今更「好きだ」って言ったからってランクアップ!このまま一気に!!なんて考えてるのね、このけだもの!!いやらしい!私、あなたみたいに想像力がたくましい人嫌いよ!別れましょう!もう、顔も見たくないわ。電話ももうしてこないで。口もききたくない。学校で会ってももう、これからは他人として認識する事にするわ。さようなら!」
「えええっ…!」
そのまま、夜の公園に置き去りにされてしまった俺はどうすればいいのか全くわからなかったわけで。
「ええー…」

そのまま、しおりは一緒に入っていたサークルもやめ、一切俺との関係を断ち切った。最近でもちょくちょく学校内でもすれ違うのだが、本当に視線を合わせてもくれない。一度声をかけようとしたら、変質者呼ばわりまでされた上、警備員まで呼び出された。
俺の…一年半は…一体何だったんだろう…。…そして、伝説の樹って一体何だったのか…。
そもそも、一体しおりは俺の何が好きだったのか…。「自分がこんなに好きなのに全然振り向いてくれないいい男」に恋をしていただけなのか、それとも単に真性のマゾヒストだっただけなのか…(どっちにしても嫌だが)。
ふっ…今となってはどうでもいい事か…。



おまけ。
田中一郎のその後:
大学卒業後、一流企業に就職するも、「頭がいい事」と「会社の中でうまくやっていくこと」とは全く違う事に気づき、挫折感で一杯になりながら慢性の鬱病にかかり、現在心療内科に通院中。
藤崎しおりのその後:
大学卒業後、大手銀行に一般職で入社。最近は毎週のように合コンをしているがいい男は見つからずフリー。口癖は「なんであんな男紹介すんのよ」

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