私設幻想図書館

 たくさんの想い出の残る本の中から、思いつくまま、気にかかるままに、適当に紹介いたします。紹介と言っても自分の思いを語るだけの簡単なものですが。貴方のこれからの読書生活の中で、少しでもお役に立つことを祈りつつ・・・

本


チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷

塩野七生  昭和45年 新潮社

 塩野さんのイタリアものは、とても読み応えがあります。ヨーロッパに向かう飛行機の中で初めて読みました。これから降り立つ大陸の暗さと、歴史に思いを馳せたものでした。地中海三部作も必読物です。


江戸へようこそ

杉浦日向子  1986年 筑摩書房

 杉浦日向子さんの江戸時代についての憧憬の深さには頭が下がります。彼女は、江戸を知っているのではなくて、江戸に住んでいたかのようです。現代と何も変わらぬ江戸が、紹介されています。


点と線

松本清張  昭和33年 光文社

 言わずと知れた、推理小説の傑作です。なかなか読む機会がなくて、ドラマや映画でしか内容を知りませんでした。本もなかなか見つからなかったと言うこともありましたが。日本における中期の古典と言ってもいいでしょう。


文明の衝突

サミュエル・ハンチントン  1998年 集英社

 20世紀も終わりを迎えつつありますが、こういった時期に流行った本の中の一冊です。しかし、比較人類学や文化論の視点では、素晴らしい啓示を与えてくれた本でした。日本文化の独自性や、孤立性と言った民族学的な問題のヒントとなりました。


キャロル イン ワンダーランド

高橋康也  1977年 新書館

 不思議の国のアリスにはまりだした頃、手に入れた一品です。あの頃は、ブームがあったのか関連する本を何冊も持っています。全て、谷山浩子さんの影響であったようです。くやしいけれど。入門書とも言える一冊です。


ベイジルとふたご誘拐事件

E・タイタス  1978年 あかね書房

 ねずみの国のシャーロック・ホームズ、ベイジルとドースン博士の物語です。ホームズ物のパスティシュはたくさんありますが、子供向けのアレンジだと言うことを割り引いても、とてもよくできている本だと思います。クリスマスのプレゼントですね。


雪崩連太郎幻視行

都筑道夫  昭和54年 立風書房

 都筑道夫のミステリーは、本格的推理小説という意味で、日本でも最高傑作に位置するのではないかと思います。この本は、非合理な人間の社会と人間の心の奥に在る、不可解な闇を描いています。どちらかというとホラーミステリーになるのでしょうか。一人の夜には欠かせない一冊です。


スローカーブを、もう一球

山際淳司  昭和60年 角川書店

 スポーツノンフィクションのジャンルをうち立てた、記念碑的な一冊です。有名な「江夏の21球」など、スポーツの裏側には、それぞれに人間としてのドラマが在るんだと言うことを再認識させてくれました。NHKのスポーツニュースの中で痩せていく山際さんが痛々しかった。


日本の伝説

柳田国男  昭和52年 新潮社

 初出は昭和4年なのでおそらく、もう手には入らないでしょう。亡くなってから文庫本になりました。もう一冊「日本の昔話」という本があり、谷山浩子さんはこれらの本を読んで、LP「もうひとりのアリス」を作ったそうです。柳田民族学の入り口になりました。


初ものがたり

宮部みゆき  平成7年 PHP研究所

 これは、最近読んだ本ですが、同世代の著者が頑張っている姿を見ると、勇気づけられます。時代小説の形の推理小説ですが(捕物帖というやつ)、丁寧に書かれています。NHK辺りでドラマ化しそうな雰囲気の話です。杉浦日向子さんのコメントを聞いてみたい。


写楽殺人事件

高橋克彦  昭和58年 講談社

 東北地方の持つ歴史と、中央から遠ざけられていたという怨念が、高橋さんの著作のエネルギーとなっているような気がします。現実の出来事と虚構の出来事が分からないうちに混ざり合ってしまい、読後は何とも言えない虚脱感に襲われます。


高丘親王航海記

澁澤龍彦  昭和62年 文芸春秋

 澁澤龍彦の名は日本にサドを紹介したと言うことで有名ですが、他の作品もなかなか重いものがあります。「黒魔術の手帖」や「毒薬の手帖」など、単にグロテスクなものを求めるだけではない真面目なアンダーグラウンドの世界が描かれています。


ファイブスター物語

永野護  1987年 角川書店

 漫画がどれほどの世界観を持って、歴史を語っていけるのか。そんな命題に挑戦しているかの作品です。こういった物は、一部マニアの物になってしまうのですが・・・「ナルニア国物語」なんかを漫画にすればこうなるのでしょうか。人間と言う存在を考えさせられます。


中世小説集

梅原猛  平成5年 新潮社

 哲学者であり、神話学や民族学の壁を破って「怨霊史観」とも言うべき画期的な古代日本人の考え方を披露して見せた梅原さんの小説です。できはともかく、この人の考え方や方法論は学会では反発も大きいですが、高橋克彦さんや井沢元彦さんなどの作家に受け継がれています。


全国おすすめの宿セレクト3000

JTBのMOOK  たぶん毎年出る

 見て楽しみ、旅して楽しむ。日本の宿選びにこの一冊。おそらく、一般人で持っている人は少ないのではないかと思う。旅行社なんかに行くと、必ずあります。とりあえず平均以上の宿は網羅してあります。JTBだけあって、料金は少々高めの設定ですが。結構重宝します。(^^;)


沈黙の春(生と死の妙薬)

レイチェル・カールソン  1964年 新潮社

 世紀末のお題となっている、環境問題についての古典的な一冊です。人間は同じ過ちや行いを何も考えず繰り返しているということがよく分かります。新しい世紀に向けて、自分や社会が何をしていけるのだろうか。わずかな間でも、考えてみる必要があるのでしょうね。


智恵子抄

高村光太郎  1941年 龍星閣

 壊れゆくもの、消えゆくものに対して、なぜ、これほどの愛情を注ぐことができたのか。月並みですが「感動」の言葉以外見あたりません。その、輝くような言葉の一つ一つから光太郎の智恵子に寄せる思いが、はかなく、切なく滲み出てきます。


サキ短篇集

サキ  昭和33年 新潮社

 昔、本屋で偶然に見つけて読んだ短篇集です。本を買う小遣いがあまりなくて、薄い本や短篇集などしか買えなかったことが、思い出されます。この短篇集には、少しミステリアスな話が載っています。これも、一人の夜にのんびりとどうぞ。


シェイクスピアの人生観

ピーター・ミルワード  昭和60年 新潮社

 シェイクスピアの劇中の言葉や背景を通して、シェイクスピアの思想や当時の英国の社会観について述べた評論集(エッセイかな)です。原作を読んでいると、あるいは芝居を見ていると、場面とともにシェイクスピアの考えが頭の中に広がってきます。興味があれば。


卓球温泉

山口元 浅野美和子  1998年 徳間書店

 これは、ちょっと異色ですが、映画「卓球温泉」のノベル化本です。そういえば、あちこちの温泉で妙に卓球台が復活してきたなと思ったら、ちょうどこの映画が話題になっているときでした。松坂慶子は素晴らしい!絶対に卓球温泉に行かなくちゃ。


シャーロック・ホームズの履歴書

河村幹夫  1989年 講談社

 作者は作家ではありません。研究者でもありません。でも、立派なシャーロキアンです。ホームズの聖典はみなさんご存知だと思いますが、こうした素晴らしく楽しい本が、私たちをまだ見ぬ世紀末のベーカー街に誘ってくれるのです。


隠された十字架 法隆寺論

梅原猛  昭和47年 新潮社

 また、梅原さんです。法隆寺は鎮魂の寺である。聖徳太子は怨霊となった。古代国家の思想と人々の行動の原点となった宗教観を掘り下げ、現代人の歴史観に一石を投じた一冊です。奈良に旅することの興味が増しました。キトラ古墳は遠かったけど。


夜明けあと

星新一  平成3年 新潮社

 ショートショートというジャンルを定着させた星新一が書いた、異色のノンフィクション。簡潔な記述が読者の想像力を刺激します。さすがショートショートの父です。アイディアに満ちた構成と、行間の一言がいい味を出しています。SFではありません。


高円寺純情商店街

ねじめ正一  平成元年 新潮社

 しみじみとした日本を考えさせる一冊です。登場人物の行動はちょっと奇抜ですが、どこかにいそうな。これも新しい私小説でしょうか。どこまでが虚構でどこまでが現実でしょうか。高円寺まで出かけていく気はしませんが。


沈黙

遠藤周作  昭和41年 新潮社

 信仰とは何か。神の存在とは何か。狂信的な宗教観にとらわれることなく、真摯に表現された人間と神との魂の書です。キリストを信仰していない、まして特定の神を信仰していない私でも、遠藤さんの真面目な筆に感動させられました。


古事記

太朝臣安萬侶 稗田阿禮  和銅5年 どこだろう?

 卒論では大変お世話になりました。日本史の基本ですが、神話学や民族学のテキストとしても、重宝したものです。古代日本人の精神構造を考えたり、伝説や民話との関わりなどを調べたりすると、学校で学んだことと違う世界が見えてきます。


高い城の男

フィリップ・K・ディック  ハヤカワ文庫

 本の紹介で知って以来、十数年間も探して、待っていた本です。廃版になっていたのですが、「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」(注)が話題になってから、復活しました。歴史パラドックスを扱った傑作SFです。
注 映画「ブレードランナー」の原作


夏への扉

ロバート・A・ハインライン  ハヤカワ文庫

 せつなく感動的な恋の物語。こういうふうに読んでしまってはいけないのでしょうが、読後はやはり、うれしい感動がこみ上げてきます。タイムマシンも十分に文学的な動機になりうることを実証しています。


幼年期の終り

アーサー・C・クラーク  ハヤカワ文庫

 福島正実さんの訳は、SF好きの私としては中学生の頃からお世話になっていました。なんとなく、しっくりきます。人類の宇宙へのデビュー、宇宙人としての自覚とけなげさを大きなスケールと素晴らしいストーリーで描いています。


華氏451度

レイ・ブラッドベリ  ハヤカワ文庫

 初めて見たのは映画でした。確かイギリスの映画。とても印象的な映像でいつまでも記憶に残っていました。社会の発達と文学の破壊、コンピュータ社会にはうってつけの怖い題材です。本を読みながら、これを覚えられるかなどと考えてしまいました。


渚にて

ネビル・シュート  創元推理文庫

 これも、映画を先に見てしまいました。核戦争の悲劇をテーマにしたものです。ラストシーンが忘れられなくて・・・。本屋で見つけたときは、とても興奮したことを覚えています。いろいろな本との出会いもあるのですね。


鋼鉄都市

アイザック・アシモフ  ハヤカワ文庫

 「ロボット三原則」をご承知でしょうか。現代ではロボットは当たり前になってしまいましたが、当時は未来はどんな世界になるかわくわくしていました。人間とロボットの関係を法文化したものが三原則です。アシモフの考え出したものです。


遠野物語

柳田国男  明治43年 聚精堂

 日本の民族学の起点であり、地方伝承や伝説の面白さ、素晴らしさを実感させてくれた本です。日本人の思考や思想の原点を考えていく上で、大変お世話になりました。でもこの本も、吹雪の夜に一人で、布団の中で読むのは怖かった。


時の娘

ジョセフィン・テイ  ハヤカワ・ミステリ文庫

 現実に起こった歴史上の出来事を推理し、事件の解釈をするという、歴史ミステリーの傑作です。読み進むと、どうしても作者の推理が現実に見えてくる。これは、少し興奮してしまいます。リチャード三世をめぐる、英国の歴史に詳しくなりました。


ロンメル将軍

デズモンド・ヤング  ハヤカワ文庫

 初めて食べたものを憶えていますか?初めて見えたものを憶えていますか?この本は、私が初めて読んだ文庫本でした。何度も何度も、難しい字にもめげずに、繰り返し読みました。内容はともかく、私の読書の出発点となった記念すべき本です。


グリックの冒険

斎藤惇夫  昭和53年 講談社

 リスのグリックの冒険です。「ガンバの冒険」というテレビアニメがありましたが、あれは同じ作者の「冒険者たち」という本が原作です。ガンバの冒険物語の原点がここにあります。ガンバも脇役として登場してきます。発表当時は異色ファンタジーでした。


一千一秒物語

稲垣足穂  昭和44年 新潮社

 文学者の書いたファンタジーです。幻想的な短い話の羅列になっているのが表題の「物語」ですが、大正時代にこんなものがと思うほど素晴らしい感性的な詩的作品です。浩子さんファンならおなじみの「チョコレット」も載っています。


彫刻家の娘

トウベ・ヤンソン  昭和48年 講談社

 ムーミン・トロールの原作者であるヤンソンの自伝的な話です。彼女の世界がそのままムーミン谷の出来事のバックボーンになっていることが分かります。ムーミンはアニメではなく、ヤンソンの漫画で見たのが初めてでした。


はるかなるわがラスカル

スターリング・ノース 昭和51年 角川文庫

 テレビアニメ「ラスカルの冒険」の原作です。アニメも感動的な作品でしたが、やはり原作はそれ以上に素晴らしいものでした。細やかな感情表現は、読書によって想像力を快く刺激してくれます。アニメがダメというわけではありませんが・・・。


まざあ・ぐうす

北原白秋訳  昭和51年 角川文庫

 マザー・グースの日本語訳です。しかも、詩人北原白秋の。言葉の遊びを詩人が翻訳するとこうなるという、興味のある作品です。原作の味は、どう表現されているでしょうか。近年では、谷川俊太郎さんなんかも翻訳しています。


車のいろは空のいろ

あまんきみこ  1968年 ポプラ社

 谷山浩子さんのアルバムに取り上げられた童話作品です。運転手の松井さんを中心に、温かいファンタジーの世界が広がります。「白いぼうし」は、小学校の国語の教科書にも取り上げられていたので、知っている人も多いかと思います。


時をかける少女

筒井康隆  鶴書房盛光社

 筒井康隆が少年少女向けに書いた、彼の作品の中では異色のSFです。NHKでドラマ化されたり、映画化されたりしました。タイムトラベルをテーマにした、はかなく、切ない美しい物語だと思います。今も「芳山君・・・」の声が、どこからか聞こえてきそうです。


クローディアの秘密

E.L.カニグズバーグ  1975年 岩波書店

 メトロポリタン美術館の中でのクローディアの冒険です。日本では、ほとんど見ることのできないリアリズムのある児童文学作品でした。クローディアの精神的な成長とともに、推理小説的な興味もあり、楽しむことができる作品です。


はじめの四年間

L.I.ワイルダー  1975年 岩波書店

 NHKでやっているドラマ「大草原の小さな家」の続編に当たる作品です。ローラとワイルダーの結婚後の最初の四年間を描いたものです。ローラたちの幸せや苦労が伝わってきます。結構、女の子たちには人気がありました。


フランツ・カフカ  昭和41年 角川書店

 「不条理」の小説家、カフカの長編です。最初に読んだときは、何が何だかほとんど理解できませんでしたが、何回か読み返してみて、いまだによく分かりません。まさに「不条理」な小説です。でも、惹かれるんですよね。


私家版 日本語文法

井上ひさし  昭和56年 新潮社

 作者お得意の日本語に関する小説です。井上さんの言語に対する理解と考え方には「はっと」させられるものがあり、勉強になります。言語についての考察や学習の合間に、「ほっと」一息できる楽しい作品でした。


子供部屋のアリス

ルイス・キャロル 1977年 新書館

 この書名を聞いたことのある人は、なかなかです。これは、キャロル自身の手で子ども向けに再編集された「不思議の国のアリス」です。原作との違いは、テニエルの原画に着色してある点です。原作者による絵本版アリスと言ったらいいのでしょうか。


一杯の珈琲から

エーリヒ・ケストナー  1975年 創元推理文庫

 これは、絶対のお奨めです。あの、ケストナーの書いた大人のラブロマンスです。コメディーと言った方がいいかも知れない。とにかく、笑って泣ける素晴らしい本です。読後は、きっとザルツブルクに行きたくなりますよ。


森村桂 パリへ行く

森村桂  昭和52年 角川文庫

 初めて読んだのは、学校の図書館でした。文庫本は後から買ったのですが、「天国に・・・」で有名になる遙かに昔です。でも、当時も人気があった作品でした。ケーキに関する部分はなかなか。そういえば軽井沢にケーキ屋さんを出しているとか。


哭きの竜

能條純一  昭和52年 竹書房

 麻雀漫画の傑作だと思います。絵もいいし、なによりもハードボイルドな世界観がすごかった。ビデオ映画にもなりましたが、こちらは原作を越えることはできませんでした。そういえば、はやりましたね。「あんた背中が煤けてるよ・・・。」


イスタンブール、時はゆるやかに

澁澤幸子  平成6年 新潮社

 イスタンブールに憧れるようになったのは、塩野七生さんの影響ですが、いつか必ず訪れてみたいと思っていました。そう思っているうちに、トルコで大地震が起こりました。トルコのみなさんが、少しでも早く落ち着いた生活を取り戻せるよう、お祈りいたします。


妖怪・土俗神

水木しげる  1997年 PHP研究所

 土俗の神々が、いつのまにか巷に紛れて妖怪となる。妖怪とは、いったい何だったのか。神はどうして恐怖の対象になってしまったのか。この本は図鑑です。水木しげる一流のあのイラストが並びます。いつの時代も、こうした本は面白いものです。


千畝

ヒレル・レビン  1998年 清水書院

 先の大戦中にこれほどまでに、自分の信念で行動することのできた外交官がいたのかと驚きます。なぜ、日本ではあまり評価されないのか。これを読んでみると、「シンドラーのリスト」なんてのは物語なんだなあと思えてしまいます。


るるぶっく 東京で遊そぼ♪

JTBのMOOK  1995年

 まあ、この本はなんというか、地方の人間には絶対の必需品です。東京と言ったら鬼が住むか、蛇が住むか。どこに何があるか、ほとんど分かりません。そんなときの一冊です。美味いものを食べさせてくれる店もわかりますし。


江戸の職人 伝統の技に生きる

中江克己  1998年 中央公論社

 江戸の技を現代に伝える職人たち。経験と実力に裏打ちされた、その仕事はほんとうに素晴らしい。しかし、日本の伝統的な技術が後継者のないままに消えていくのは、残念です。仕事として成り立たないので、しかたがないのですが・・・。


スイミー

レオ・レオニ  1969年 好学社

 レオ二の代表作的な絵本です。シンプルなストーリーとやさしい絵の表現で、子どもから大人まで違和感なく楽しめる本です。小学校の教科書にも取り上げられているので、知っている方も多いかと思います。ご家庭に、ぜひ一冊。


人生論ノート

三木 清  昭和29年 新潮社

 もうすでに、古典になりつつある哲学論です。人間が生きていく上でのヒントになるような様々な思想が、わかりやすく述べられています。哲学への入門として、また、人生の羅針盤としてときおり読み返してみるのも楽しい本です。


日本人とユダヤ人

イザヤ・ベンダサン  昭和46年 角川書店

 比較文化論の本なのですが、誰が書いたのかとか、内容の思想性が話題になり、本題から離れたところで議論されてしまいました。ゴシップ性は別として、よく考えられた内容です。ただ、やはり興味本位のところも多いのですが。


のはらうた

工藤直子  1984年 童話屋

 のはらの仲間たちが、自分の言葉で語る、オムニバス詩集です。工藤さんのやさしさと、設定の妙が楽しめる作品です。心が疲れたときに、また、のんびりと暇な時間ができたときに、一緒にのはらの仲間になりましょう。


黒い雨

井伏鱒二  昭和45年 新潮社

 人類の進歩にとって原子力の重要性は十分に理解できますが、だからこそ原点に還り、みんなが考えなくてはならない問題でしょう。また、東海村で原子炉外での臨界というとんでもない事故が起きました。とても、心配です。


ケインとアベル

ジェフリー・アーチャー  昭和56年 新潮社

 翻訳者の巧さもあるとは思いますが、彼は素晴らしいストーリーテラーであると思います。この作品に限らず、どの本も面白く、興味深く読むことができました。経済と政治の世界の人間ドラマをこれほど潤い豊かに表現した作品はそうそうありません。


李陵・山月記

中島 敦  昭和44年 新潮社

 司馬遷の「史記」を読んで、中国の歴史について興味を持ちました。この李陵も史記を題材としています。古代の人間の感性と、生き様が真面目な筆でつづられています。若くして亡くなったのがとても残念な作家の一人です。


項羽と劉邦

司馬遼太郎  昭和59年 新潮社

 これも、最初は史記で読みました。漢文で読むのはとても大変でした。でも、行間を想像するのは楽しかったです。こうして現代の作家が、小説として書いてくれると助かります。でも、処世術や出世のヒントとして利用されることが多いのは残念ですが。


天平の甍

井上 靖  昭和32年 中央公論社

 井上さんの「西域もの」は、先の興味から大好きなのですが、これも、歴史小説としての素晴らしい文章が味わえる一冊です。史実に題材を得て、こうしたスケールの大きな出来事を小説化していくということは、凄いの一言です。


八郎

斎藤隆作/滝平二郎画  1967年 福音館書店

 絵本は子どもの読み物だと思っている方も多いかと思います。思考や精神的の発達上では確かにそうですが、芸術としては垣根はありません。ストーリーも絵も読み応えある作品です。この良さは誰もが共感できるものと信じます。


チップス先生さようなら

ヒルトン  昭和31年 新潮社

 イギリスのパブリック・スクールでの生活を描いた物語です。学校生活を描いた作品は数々ありますが、現代の殺伐とした物語と比べて、なんと豊かに大きな内容なのかとほっとさせられます。見直さなくてはね。


はてしない物語

ミヒャエル・エンデ  1982年 岩波書店

 映画「ネバーエンディングストーリー」の原作ですが、映画はよくあれだけこの世界をつまらなく表現したなとあきれてしまいます。同じような流れでも、「モモ」は、映画も原作も素晴らしかったのに。残念です。


小川未明童話集

小川未明  昭和26年 新潮社

 日本の古典的な童話作品です。童心主義と日本的リアリズムに裏打ちされた物語は、読む者の心にせつなく迫ります。こうした、ストーリーとテーマが日本人には合うのでしょうか。ここからの脱却が重要なことになったのでした。


空色勾玉

荻原規子  1988年 福武書店

 極めて日本的な「ナルニア国物語」の印象でした。巷にあふれかえる、ゲームの主人公などを中心とした物語と混同しては失礼でしょうか。発想は、素晴らしいものがあります。続編が楽しみだったのですが・・・。


ねこ ねこ こねこ

B・H・ブル文/ヤーヌシ=グラビアンスキー絵 1969年偕成社

 ちょっと変わりものの絵本ですが、ねこ好きにはたまらない一冊です。これは、文よりも絵を見ることが楽しい絵本です。ただ、子どもたちの楽しめるような絵本としては、ちょっとどうだろうか。


虫干し中につき、書庫は順次整理してまいります。続きは、後ほど。

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