社会保険の加入について

 健康保険は労働者の業務外の事由による疾病、負傷若しくは死亡又は出産及びその被扶養者の疾病、負傷、死亡又は出産に関して保険給付を行い、私達にとって大変になじみの深い制度です。
 公的医療保険には健康保険の他にも国民健康保険が良く知られていますが、一般的に従業員にとって、勤務先が健康保険の適用を受ける事業所であれば、保険料負担が比較的小さい・業務外の事由による病気・ケガで休職しなければならなくなった時に給与水準(標準報酬日額)に応じた傷病手当金を受給できる等の面で、より有利で安心だといえます。
 一方、会社にとって健康保険の適用事業所となることは、保険料額の2分の1を負担しなければならないことから消極的にとらえられがちですが、先に述べたように、従業員の福利厚生の向上に大きく寄与しますので、優秀な従業員の採用・確保を図るためには不可欠といってもよいでしょう。
 もっとも、健康保険の適用事業所になるかならないかは、事業主や従業員の自由に任されているわけではなく、健康保険法に定められています。
 それでは健康保険法で、どのような事業所が健康保険の適用事業所となるかを見てみましょう。

1.強制適用事業所

@次に掲げる事業の事業所であって、常時5人以上の従業員を使用するもの
@ 物の製造、加工、選別、包装、修理又は解体の事業
A 土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊、解体又はその準備の事業
B 鉱物の採掘又は採取の事業
C 電気又は動力の発生、伝導又は供給の事業
D 貨物又は旅客の運送の事業
E 貨物積卸しの事業
F 焼却、清掃又はとさつの事業
G 物の販売又は配給の事業
H 金融又は保険の事業
I 物の保管又は賃貸の事業
J 媒介周旋の事業
K 集金、案内又は広告の事業
L 教育、研究又は調査の事業
M 疾病の治療、助産その他医療の事業
N 通信又は報道の事業
O 社会福祉法(昭和二十六年法律第四十五号)に定める社会福祉事業及び更生保護事業法(平成七年法律第八十六号)に定める更生保護事業
A上記@のほか、国、地方公共団体又は法人の事業所であって、常時従業員を使用するもの

 株式会社等の法人の事業所は、常時1人でも従業員を使用していれば、全て強制適用事業所とされています。

(1)次の@又はAに該当する事業所は強制適用事業所とされています。(健康保険法第3条第3項)
(2)強制適用事業所にならない事業所とは

A法人以外の事業所で次の事業の事業所

@ 農林水産業(農業、牧畜業、水産養殖業、漁業)
A サービス業(ホテル、旅館、料理店、飲食店、理容、浴場、その他娯楽、スポーツ、保養施設などのレジャー産業)
B 法務業(公認会計士、社会保険労務士、弁護士等)
C 宗教業(神社、寺院、教会等)

2.任意適用事業所

 強制適用事業所にならない事業所であっても、適用事業所となることができます。
 すなわち、適用事業所以外の事業所の事業主は、厚生労働大臣の認可を受けて、当該事業所を適用事業所とすることができます(健康保険法第31条第1項)。この認可を受けようとするときは、当該事業所の事業主は、当該事業所に使用される者(被保険者となるべき者に限る。)の二分の一以上の同意を得て、厚生労働大臣に申請しなければなりません(同条第2項)。
 任意適用の認可があったときには、被保険者となるべき従業員は全員が被保険者とされます。

(1)任意適用事業所となるためには

(2)任意適用事業所の認可の取消

 任意適用事業所の事業主は、厚生労働大臣の認可を受けて、当該事業所を適用事業所でなくすることができます(健康保険法第33条第1項)。この認可を受けようとするときは、当該事業所の事業主は、当該事業所に使用される者(被保険者である者に限る。)の四分の三以上の同意を得て、厚生労働大臣に申請しなければなりません(健康保険法第33条第2項)。
 強制適用事業所が、業種の変更や従業員の減少等によって上記(1)の強制適用事業所の要件に該当しなくなったときは、その事業所について任意適用事業所の認可(次の2−(1)参照)があったものとみなされます(健康保険法第32条)ので、引き続き適用事業所として取り扱われます。これを任意適用事業所の擬制と言います。

(4)強制適用事業所の要件に該当しなくなったときには

3.適用事業所の一括

 健康保険では原則として、会社全体ではなく支社や支店等のそれぞれの事業所を単位に適用がなされます。 しかしながら、人事労務、給与等の事務を本社でまとめて行っている会社では、本社で一括して1つの適用事業所としての取り扱いを受けた方が効率的な場合があります。
 健康保険には、このような場合に適用事業所の一括という制度が用意されており、2以上の適用事業所の事業主が同一である場合には、当該事業主は、厚生労働大臣の承認を受けて、当該2以上の事業所を1の適用事業所とすることができます(健康保険法第34条第1項)。この承認があったときは、当該2以上の適用事業所は、適用事業所でなくなったものとみなされます(同条第2項)。

(3)強制適用事業所となった場合に必要な届出    − 新規適用事業所の届出 −

 初めて上記(1)に該当し適用事業所となった事業所の事業主は、その事実があった日から5日以内に、「事業主の氏名又は名称及び住所」「事業所の名称、所在地及び事業の種類」を記載した届書を社会保険事務所長等(初めて適用事業所となったと同時に当該適用事業所を健康保険組合の設立に係る適用事業所としようとするときは、健康保険組合)に提出しなければなりません。また、この場合において、社会保険事務所長等に提出する事業所が同時に初めて厚生年金保険法の適用事業所となったときは、当該届書にその旨を付記しなければならないものとされています(健康保険法保険法施行規則第19条)。
 また、この新規適用の届出に際しては、社会保険事務所による事業実態についての調査が行われるのが通例となっています。

4.健康保険の意義

(3)優秀な従業員の確保

 従業員やその被扶養者にとって最も基本的な福利厚生である健康保険の適用事業所であることは、優秀な従業員を採用・確保するためには極めて重要な条件と言えます。

(1)法的義務

 一定の要件(上記1−(1)参照)に該当する事業所は強制適用事業所とされています。

(2)従業員とその被扶養者にとって最も基本的な福利厚生制度です

 労働者の業務外の事由による疾病、負傷若しくは死亡又は出産及びその被扶養者の疾病、負傷、死亡又は出産に関して保険給付を行う健康保険は、厚生年金保険と並んで従業員やその被扶養者にとって最も基本的な福利厚生制度となります。
企業の発展を支える従業員とその被扶養者にとって、

健康保険は厚生年金保険と並んで最も基本的な福利厚生制度です。
@法人以外の事業所で、使用する従業員数が常時5人未満の事業所

 次の@又はAの事業所は、強制適用事業所とはされていません。

社会保険労務士 寺嶌 綾子

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