(4)リスクマネジメント
責任や義務を予め定めておくことにより、各種トラブルの防止・解決が図られ、リスクマネジメントとなります。
(2)経営の円滑化
社内ルールが明確となるので、経営が円滑化されます。
(1)法的義務
常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則作成・届出・周知の法的義務があります。
これまで就業規則について色々と述べてきましたが、最後に就業規則を整備する意義について、まとめてみましょう。
6.就業規則を整備する意義 − 経営組織の基盤として −
@法令 > A労働協約 > B就業規則 > C労働契約 |
(1)就業規則の法的規範性
就業規則には、民法第92条に規定されている事実たる慣習として法的規範性が認められた判例があります(秋北バス事件:昭43.12.25最高裁大法廷判)。不幸にもトラブルが発生してしまった際に、就業規則は社内的ルールであるということ以上に、解決のための強い拠り所となり得ます。
また、会社に就業規則が無いというのは、これまで述べたようにリスクマネジメントの観点からはもちろん、経営的観点からも論外ですが、就業規則には一定の法的規範性が認められていますので単に「形だけ作っておけば良い。」とばかりにいいかげんに作成していると、知らないうちに思いがけない賃金支払義務が発生していたなど、場合によっては会社運営を揺るがしかねない大きなリスクが発生することがあるので注意が必要です。
また、作成した時にはよく考えられた就業規則だったとしても、その後の法改正や社会状況の変化等により、変更が必要となっていることがあります。例えば、高年齢者雇用安定法の改正に対応するために各種の雇用延長制度(定年の年齢引上げ、継続雇用制度、定年廃止)の導入をする際には、就業規則をきちんと見直しておく必要があります。
(2)就業規則の効力の優劣
労働基準法第92条第1項に「就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない。」とされています。ここで、労働協約よりも労働者に有利な労働条件を定めてもだめかという疑問に対しては、「本条第1項は就業規則に労働協約所定の水準以上の労働条件を設定することまでを否定する趣旨ではないと解するべきである」とした判例がありますが(昭39.6.26大阪地)、現実には、労働条件が一定の水準以上かそうでないかは一義的に明確ではないことが少なくありません。
また、労働基準法に「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。」(労働基準法第2条第1項)と定められているところ、労働協約所定の労働条件は労働者と使用者が対等の立場において決定した労働条件であると言えますので、一般的に、同一の事項に関して労働協約がある事業所の場合には、同一の事項については就業規則には労働協約と同一の労働条件を定めることが望ましいと考えられます。
さらに、労働基準法第1条第2項には、「この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。」とありますから、労働協約に定める労働条件は、法令(労働基準法とそれに基づく政令及び省令等の関係法令。以下、法令という。)が定める所定の水準以上の労働条件でなければならず、就業規則に定める労働条件は、法令が定める所定の水準以上であることはもちろん、同一の事項について労働協約がある場合には労働協約と同一の労働条件であることが望ましいということになります。
一方、就業規則と労働契約ではどうでしょうか。この点については、労働基準法第93条に「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において無効となった部分は、就業規則で定める基準による。」と定められています。
少々話がややこしくなりましたが、要約すると、法令、労働協約、就業規則、労働契約の間における効力の優劣は、下の@〜Cの順に下の枠内の通りとなります。基本的にそれぞれの規程に定める労働条件は、それぞれより優位の規程に定められている水準以上の労働条件であることが求められますが、B就業規則についてはA労働協約と同一の労働条件を定めるのが望ましいと考えられることについては先に述べた通りです。
なお、労働基準法第92条第2項には、「行政官庁は、法令又は労働協約に抵触する就業規則の変更を命ずることができる。」と定められています。
より良い就業規則の整備によって、リスクに備え、会社の風土を改善し、発展の礎を作りましょう!!
5.就業規則の法的効力 − いいかげんにしていると大きなリスクが −
就業規則の作成においては、絶対的記載事項及び相対的記載事項のうち必要な事項についての定めがなされなければならないことは上記1で既に述べたとおりですが、各事項の定めにおいては、労働基準法をはじめとする各種の関係法令に反さないようにすることが必要です。
しかし、冒頭で述べたように、就業規則は会社運営にとって極めて重要なルールであり基本的ルールなのですから、形式的に法令に従っていさえすれば内容はどうでも良いということでは決してありえません。
就業規則を、法令に反さないように作成するのはもちろんですが、何よりも会社の運営方針や人事戦略に沿うように内容を十分に吟味して作成することが大切なのです。
また、就業規則の制定が、従業員(労働者)に不満の念を抱かせるようなことにならないように、従業員)への説明を十分に行なって意見を聴くなど、社内的な調整を図る視点も忘れてはなりません。
以上により作成・届出した就業規則を、使用者は、常時各作業場の見やすい場所に掲示し、または備えつけ、書面交付、磁気テープ等に記録し、記録内容を常時確認できる機器の設置等の方法によって、労働者に周知させなければなりません(労働基準法第106条第1項、労働基準法施行規則第52条の2)。
4.就業規則の周知義務 − 周知まできっちりと −
使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数を代表する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならないとされており(労働基準法第90条第1項)、届出をする際には、それらの意見を記した書面を添付しなければなりません(同条第2項)。
3.就業規則作成・届出の手順 − 法令はもちろんですが経営戦略に沿ったものに −
2.就業規則の定め方 − 法令に適合するように作成しましょう −
上表の@〜Bの事項については就業規則に必ず定めなければならないこととされており、Bの2〜Iの事項については、それぞれ所定の定めをする場合においてのみ就業規則に定めなければならないこととされています。一般に@〜Bの事項は絶対的記載事項、Bの2〜Iの事項は相対的記載事項とよばれています。
@ | 始業及び就業の規則、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交代に就業させる場合においては就業時転換に関する事項 |
A | 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項 |
B | 退職に関する事項(解雇の事由を含む。) |
Bの2 | 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項 |
C | 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項 |
D | 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項 |
E | 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項 |
F | 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項 |
G | 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項 |
H | 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項 |
I | 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項 |
1.就業規則の作成・届出義務 − 事業所毎に義務があります −
上記(1)で述べた就業規則に定めなければならない事項のうち、その任意の一部についてを、例えば賃金規程、退職金規程やパートタイマー就業規則等の別規程にすることが可能です(平11.1.29基発45号)。
ただし、この場合はこれらの別規程を合わせたものが、全体として労働基準法第89条で定められた就業規則とされています(昭63.3.14基発150号)。
例えば正社員とパート社員等では労働条件が大きく異なっているため、一つの就業規則を両方に適用するように作成するよりも、正社員就業規則とパート社員就業規則といったように、別規程の就業規則とした方が分かりやすく便利といえるでしょう。このように別規程を上手く作成すると、スマートで分かりやすい社内規程体系を構築することができます。
また、別規程を作成する際には、元の就業規則と別規程の間に矛盾があったり、どちらを適用すればよいかが不明瞭な部分があると、折角の規程がかえって無用なトラブルを招きかねません。したがって、何を別規程の対象とするのかを明確にする等、慎重な検討のもとに元の就業規則と別規程を作成しておくことが非常に重要です。
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