.1225 -一人のクリスマスの過ごし方- 一人で過ごすクリスマスの過ごし方ってどうなんだろう。 仕事でもあればなんとか言い訳もつきそうなもんだが、とりあえずやり過ごすというのがいいんだろうな。 とにかく街には出ないほうがいい。 街はクリスマス帝国が栄華を誇っている。 きらびやかなイルミネーションで帝国は彩られ、その日に限っては男女対にて行動することが望ましい。 あるいは父、母、子の組み合わせも良いだろう。 普段はメインストリートを闊歩する、軍団を率いての行動もこの日ばかりは日陰を歩かねばならない。 一人で歩くときはご注意を。 無関心を装っていても、必ずや氷の刃が容赦なく1本2本は心臓を射抜くだろう。 と、いうことで僕は映画館にいた。 お正月映画などもってのほか。この日はカップルでなければ奇異の目で迎えられそう。 ミニシアターを2軒ハシゴした。ハシゴするつもりはなかったんだけど、地上に出ると逃げるようにまた、地下へもぐってしまうのだった。 1本は傑作、1本は駄作。 傑作の方はドイツ映画で「マーサの幸せレシピ」というタイトル。むう。結局幸せに引き寄せられる日であったのだなあ。 映画館を出ると、もう10時を回るところだった。 みぞれも雨もすっかり上がっていて、残念ながらホワイトクリスマスにはならなかったよう。 あまりの寒さに自転車で帰るのが憂鬱になった。 地下鉄で帰って明日でも取りに戻ったほうがいいような気がする。 自転車を近くの駐輪場近くに止めて、チェーンで思い切り結わえ付けて地下街へと向かった。 今日は25日、レンガ風のタイルを敷き詰められた地下街の店はすでに閉店した店から撤去作業があちこちで始まっている。 クリスマス帝国、陥落の図。 みなさん、明日からまた華のない現実に戻るように。 と、思ったのが甘かった。 街行く人たちは、クリスマス全開だ。 地上が寒い分みなこの地下街へと降りてきているのだろう。 家族連れが減りカップルばかりになった往来は、より濃密に最後の最後までクリスマスを、精神的にも物質的にも肉体的にも楽しみ尽くそうという意欲にあふれている。 思い出はあるものじゃない、作るんだ! ポジティブな熱気は街を活気に満ち溢れさせ、静かだがその熱気にこの地下の温度も3度ほどは上昇している。に違いない。 僕はもうなんだかしょんぼりしてしまった。 完敗って感じ。 ふっと見ると駅の脇にコーヒースタンドが開いている。 プラットホームに上がる階段の脇。 そういえば昔、朝会社に向かう途中で、コーヒーを飲むために何度通ったことがある。そういう店だ。 たこ焼きやの屋台くらいの大きさで、屋台よりも背が高い。深いグリーン色に黄色の細いストライプに塗られたそのスタンドは実はコーヒーを売る前はベルギーワッフルの店だった。そのまんま利用しているわけ。 屋台の前は駅に通じる壁と階段の脇に沿って両側にお尻を乗せる太いバーが通っている。だけ。テーブルなんかもない。両側の真中にはちょっとコじゃれた灰皿スタンドがあって、すべて階段脇の空き地の有効活用でできている。とても狭いが10人以上座れる。ただ実用的で殺風景なその店。 まるで逃げ込むようにそのスタンドに足を踏み入れた。 僕を含めてお客さんは4名。 くたびれたちょっと筧俊夫風の兄さん、足元に黒いA3の塩ビのケースを立てかけている。デザイナーだろうか。 赤ら顔のはげ頭のおじさん。課長さんといったカンジ。 そのツレらしき白髪頭の普段ならきっと頼りがいのある上司。みたいな。今はネクタイがよれて裏のラベルが覗いている。単身赴任なのかもしれない。 そして、30くらいのOL風の女性。 みんな、それぞれ自分に閉じこもっているようだ。 僕も180円のコーヒーを手に持って筧俊夫のすぐ隣に腰をおろした。 落ち着く。コーヒーを口に含んで熱くて濃い液体がのどを通るとさらに落ち着いた。 時折正面の女性や、白髪頭の上司と目が合うが、すぐに目を伏せてしまう。 コーヒーショップの脇を、間断なくハヤナヤかなオーラをまとった人たちが足早に駅へと向かっていく。 そうやってぼんやりすると、25,6の女の子が一人。 やっぱりうつろな目で入ってきた。真っ赤なロングコートに中は真っ白でコーディネートされたワンピース。衣裳はこの場にふさわしくないが、表情はふさわしい。 そしてまたサラリーマン風の若い男が入ってくる。 みんな一様にこの街に似合わない雰囲気をしょっている。 コーヒーを手に持って、止まり木に腰をかける。カップに口を当ててそしてその表情が少し和らぐ。 早朝の慌しさとは打って変わってゆっくりと時間が過ぎるようだ。そして、意を決したように立ち上がり足早に去っていく。 みなそうなのだ。 まるで、この広い世界に自分がいる居場所がここにしかないみたいに。 やがて、ほんの少し通行する人々が減ってきた頃。 グリーンのエプロンをかけた女の子が、いきなりカウンターから出てきて透明フィルムに包まれた、クッキーを配り始めた。 カウンターの上に置いてある広口ビンに入っていたヤツだ。 3個づつ入っていて紺色のリボンで結んである。 ありがとう。といって僕も受け取った。 お店からの心ばかりのクリスマスプレゼントなのだろう。 もう帰ってね。という合図でもある。 ちょっと嬉しい。 ちょっと寂しい。 地下街の受付カウンターあたりから、「ハッピークリスマス」が聞こえる。 僕はコーヒーカウンターを出て、そちらへと向かった。 大学生くらいの4人組がならんで、ストリートパフォーマンスをはじめたようだ。 最近はこのあたりも、ギターをかき鳴らして声をあげる人たちが増えたが、最近はアカペラが増えてきている。流行というかガッツがないというか。あのギター小僧たちはいったいどこにいったんだろう。 だけど、地下街は警備が厳しい。 地下で見るのは初めてだった。 なかなか上手い。 4人の周りにはその友人らしきグループがはやし立てているところを見ると、パフォーマンスというよりなにかのパーティの帰りという気もする。とにかく、ジョンレノンも天国で喜んでいるだろう。 ぱちぱちぱちと拍手がおき、彼らを取り囲む輪がまた広がった。 リーダらしき男は誇らしげに、カニのように両手にVをつくってそれに答えた。 僕はカップルに挟まれながら首だけ伸ばしてそれを見ていた。 2曲目はイーグルスだった。シブい選曲。 輪の向こう側に、さきほどの筧俊夫が同じようにクビを伸ばして見ている。 僕と目が合う。そしてちょっと照れくさそうに笑った。 僕も笑った。 これもクリスマスだ。そんなクリスマスだ。 酔っ払いのアカペラグループは、警備員が自転車で飛んでくるまで続いた。 僕らもまたこうしてクリスマス帝国に飲み込まれていった。 そんなクリスマスだ。