あ、と声に出しそうになったのを、羽鳥は慌てて堪えた。
角を曲がった先に居たのは、あれから避けに避けてきた喧嘩相手。
こちらに気付き、あからさまに不機嫌な顔を浮かべられるのは、予想内とはいえ、こちらとて不愉快だ。
とっさに踵を返しかけたが、目的の物はこの先にあり、たかが彼のためにいちいち進路を変え遠回りをさせられるのも腹立たしい。
どうせ擦れ違うのは一瞬だ。飛鳥がわざとらしく視線を逸らしているのも好都合と思うことにして、進んでしまおう。
互いに顔を背けたままの邂逅は、だけど両者意識しまくっている事丸わかりの気配に、肌がチリつく。
こういう時、人よりも気配に敏感な自分達の性質は損だ。
まだピリピリする空気に舌打ちをして、睨み付けなければ気がすまないとばかり、羽鳥はやり過ごしたばかりの元凶を振り返り――――
そして固まった。
固まったのは何も羽鳥だけじゃない。視線の先には、振り向くとは思っていなかったらしい飛鳥がひどく無防備な表情で驚いている。
いや、違う。
無防備というのなら、その一瞬前のモノの方が、余程――――――
ぷっ
「あ、あはははは!」
いきなり吹き出した自分に、飛鳥がギョッとした顔を向けているのがわかるけど、でももう止まらない。
だって、あの顔は反則だ。
「ははっ、あーもぉ、苦し、あはは」
「突然何なんだお前は」
今更そんな憮然とした顔したって、余計笑えるだけ。はっきり言って答える余裕なんてない。
「・・・・・・・・・羽鳥?」
あ、一日ぶりの声。お互い避けてたからなぁ。たったそれだけでもなんだか懐かしい。
「やー、ゴメンごめん。だってさぁ、あはは」
笑いの発作は収まらないけど、それだけ伝えれば飛鳥の表情は変わる。
それに気付いて、まだおかしいけど何とか深呼吸。
「ゴメンね、飛鳥ちゃん」
無理矢理整えた呼吸でも、真剣味は伝わっただろうか。
少し心配だったけど、俯いて赤くなった飛鳥の様子からみて、大丈夫みたい。
「その・・・・・・俺も・・・・・・・・・・・・・・・った」
「うん」
蚊の鳴くような囁きだったけど、別に聞こえなくたって構わない。
だって、先に言葉にしたのは僕だけど、先に謝ったのは飛鳥ちゃんだよ?
あんな、すまなそうな顔。
反省しました、捨てないでと言われているに等しい表情されて、許せない筈ないよね。
この、とんでもなく不器用で馬鹿正直な弟がとても愛しくて思えて、羽鳥は笑って腕を背に回した。
メッチャ即席書き失礼。
何に喧嘩してたんでしょうねこの人たち?