寺子の朝は早い。

 

 

 いや別に、寺に住んでいるというだけで、信仰心の類を持ち合わせていなさそうな彼らに寺子という呼称が当てはまるかどうかは謎だが。

 ともあれ、寺子なみに早いのは確かだったりする。

 

 

 

 

 

 目覚まし時計などという物は必要なく、指定された時間ちょうどに飛鳥が目を開けた。

 基本的に、飛鳥の寝起きは良い。

 早寝早起き、とても規則正しい。

 その分うっかり決まった時間よりも早く起こしてしまったりすると、物凄く不機嫌な彼に起こした者が血を見る破目になったりするが、イレギュラーさえ無ければ問題はないので寝起きは良いと言えるだろう。

 本日は少々朝に予定が入っているけれど、元より飛鳥の起床している時間内なので不都合は無い。

 だから寝起きとは思えないような、覚醒した動作で活動を始めた。

 

 身支度を整え、布団を押入れに仕舞ったところで、未だ眠りこけた同室者に視線を落とす。

「起きろ、羽鳥」

「・・・・・・ぅ・・・・・」

 声を掛けてみても、布団の塊がもぞもぞと蠢いただけだった。

「起きろ。お前が見たがったんだろうが」

「んー・・・・・・・・・」

「初日の出、見たいんじゃないのか」

「ん・・・・・・後5分―・・・・・」

 自然、溜息が零れ落ちた。

 

 名誉のために述べておくと、羽鳥も特に寝汚い方ではない。

 仮に飛鳥と同じ時刻に眠りについたとしたら、とっくに起きて、もう騒いでいる事だろう。

 ただしそれは、あくまでも同じ時刻に就寝したらの話。

 昨夜は何時まで起きていたのだろう。飛鳥の記憶は途中から途切れるので見当をつけるしかない。

 

 羽鳥は、年を越す瞬間を体験したのだろうか。

 おそらく、そうなのだろう。

 羽鳥は自分では臨機応変さを誇っているが、元々は決めた事は貫く性質だ。

 

 飛鳥に出来なかった事を羽鳥が成す事。

 そう珍しい事ではないし、おそらく同じ頻度で逆の事も起こっているのだろう。

 だけどもやはり、僅かながら胸の奥がチリつくような心地を覚える。

 

 先を行かれている気がするのだ。

 背を、向けられないため。気付きにくいけれど。

 置いて行かれるのではなく、早くおいでと足を止めて待っているから。

 それはたった一歩、あるいは半歩ばかりの差かもしれないけれど。

 

 

 

 

「5分たったぞ、起きろ」

「後10分・・・・・・・・」

「増やすな」

 叩いても揺すっても覚醒しない羽鳥を前にすると、考え過ぎだと思うのだけど。

 

 さて、どうするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうせならば高い所から見たい、と屋根の上で迎える初日の出を提案したのは羽鳥だ。

 なのにその本人がこれでいいのかとぼやきながら梯子を上ると、年長者二人は既に居た。

「お早うございます」

「うむ、来たか」

「おはよう飛鳥。明けましておめでとう」

「おめでとうございます」

 お決まりの台詞を形式的に口にして、飛鳥も先人二人に倣って腰を降ろした。

 

「羽鳥はどうしたんじゃ?」

「妙に大荷物ですね」

 梯子の方を見る住職に対して、鴉は持ち込んだ毛布を怪訝そうに眺めた。

「起きなかったので、面倒になって」

「・・・・・・・・・簀巻きにしたんですか」

「・・・・・・・・・見事な芋虫になっとるのぅ」

「運び辛かったので」

 答えると、何やら色々入り混じった感の溜息が返ってきた。

「鴉さん?」

「昨日も似たような会話をしたもので。・・・・・・採る方法に個性が出てますけれど」

 

 一瞬何の事かと考えて、そういえば昨夜途中で眠ってしまった自分を運んだのは、おそらく羽鳥なのだろう事に思い至った。

 礼を言う気はないけれど、とりあえず住職曰くの巨大芋虫から毛布を剥がそうかと思う。

 

「うー・・・・・・・」

「まだ起きないつもりか、お前」

 いい加減にしないと日が昇るぞ、と呆れて揺すると、ゆるゆると首を振った。

「や・・・・・・プチ酸欠気味なだけー・・・・・・」

 ・・・・・・少し、反省した。もっとも起きない羽鳥が悪いのだから改める気は無いが。

 

「寒いー」

 毛布を被ったまま蠢いていた羽鳥が、定位置とばかりに飛鳥の膝に頭を乗せる。

「おい」

「飛鳥ちゃんも入んなよー」

 払い落とそうかとも思ったけれど、今年に入ってから殆ど外気に晒されていない羽鳥の体は温かい。

 毛布も成り行き上二人で一枚しか持って来れなかった事だし、まぁいいかと好きにさせた。

 山間が少し明るくなってきた。折角の日の出を揉め事の最中に迎えることもない。

 

 大人しく毛布に入り込むと、羽鳥がクスリと笑みを零した。

「何だ」

「いやぁ、新年早々お手数かけまして」

「全くだが、珍しく殊勝だな」

「ん。僕はまぁ今年もこんな感じなんだろうけど」

 一度言葉を切って、にこっと明るい笑顔。

 

「今年もよろしくお願いします」

 

「・・・・・・・・・ああ」

 ただの、決まり文句ではある。

 しかし形式的と言うには篭るものが違う。

 

 

「こっちも、な」

「うん!」

 

 

 もうすぐ、日が昇る

 

 

 

 

 

 

 

私にしてはハイペースで書いております。ただ今1月1日17時。

ハイペース過ぎてうっかり書き切れてない部分があったりしますが、次の羽鳥の話で書けたらいいなぁ。そういうこと言ってると更新ペースが落ちるんですけどね。

次の羽鳥の話は……今日中は無理かなぁ……?でも頑張ります!誰も反応してくれないけど!(自業自得)