じゃーん!

 効果音を口で言って、ここまで引っ張って来た飛鳥に完成品を披露した。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・何だソレ」

 反応が返るまで待っていたら、うっかり落葉が50枚数えれてしまった。

 飛鳥ちゃん反応乏し過ぎだっての。

「いやぁ、めっきり秋だねぇ」

「おいコラ羽鳥」

「何って、見てのとーり、ポスト」

 鳥の巣にも見えなくないけどね。その辺はご愛嬌というもの。

 思いっきり呆れた様子が予想通り過ぎて、僕は内心ほくそ笑む。

 それでこそ朝から頑張った甲斐があるというもの!

 

 

「喧しい音を立てて何をやってるのかと思えば・・・・・・」

 眉間に皺を寄せて頭を押さえている。

 トンテンカントン響いてたからねぇ・・・・・・頭痛のひとつも誘ったかもしれない。

 それに関しては少し悪かったなと思う。住職達にも。

「まぁ不可抗力ってー事でひとつ」

「どこがだ、ど・こ・が」

「慣れない作業だったもんで」

 なにせ、大工仕事なんて屋根の雨漏り補修くらいしかした事がなかったし。

「そもそも、それを行う必要性がない」

「まぁね。でも楽しかったよ?」

 その後のやりとりを想像しながら、というのが特に。

「暇人」

「無駄こそが人生を彩るスパイスだって、どっかの誰かさんも言ってたし」

「そんな彩り、いらん」

「つまんない生涯だねぇ。飛鳥ちゃんももっと無駄なものを楽しみなよ」

 へらっと笑ってそこまで言うと、何か琴線に触れたのか不機嫌な顔で近寄ってきたかと思うと、いきなりグイと僕の手を引いた。

「それで、このザマか」

 その言葉が示しているのは、おそらくは指の怪我。

 扱い慣れない工具で叩いてしまった箇所は、軽く変色してしまっていたりする。

「何?心配してくれてんの?」

「馬鹿」

 速攻で否定されたけど、揚げ足を取ったと嘲るような口調ではなく、あくまで不機嫌一色というのはつまりはそういう事だろう。

 素直じゃない所がとても素直な態度に、少し嬉しくなる。

 

 

「大体何だってこんなもの・・・・・・」

「あ、インテリアじゃないよ?」

 いくらなんでもそこまで無駄な事はしない。

「呆れついでに、付き合ってよ」

 コンコンと屋根部分を叩く。左右対称になるように苦労したんだよ、これでも。

 僕は中を見るように促すと、回収口を開けた。

 

「手紙・・・・・・・・・?」

 んな不思議そうに言わなくても。

「勿論そうだよ、何せポストですから」

 一向に手を伸ばさない飛鳥に焦れて、結局手渡した。

「・・・・・・・・何のつもりだ」

 表に『飛鳥ちゃんへ』とだけ書かれた、切手も消印も存在しない他は何の変哲も無い封筒を片手に、飛鳥は滅茶苦茶怪訝そう。

「恋文じゃないから安心して?」

「んな心配はしとらん!」

「あんまし意味はないんだけどね。日々の徒然を形にするのも一興かと」

 つまりはただの近況報告。そのうえ、四六時中一緒にいる飛鳥に今更報告も何もあったものではないので、ほぼ日記でしかない。

「・・・・・・・・・意味は、ないんだな?」

「うん、誰かに手紙っていうシチュエーションを僕もやってみたかっただけだし」

 すごく嫌そうに確認した飛鳥が、手紙に両手を添えたのは、それでも読む為だと思った。

 

 だって、何のかんのと文句を付けても、飛鳥ちゃんは結局のところ身内に甘い。

 だから、嫌々ながらも読んではくれる筈、と確信してた。

 

 

 

 ビリッ!

 

「・・・・・・へ?」

 紙の裂けるのと共に、自分の中でも同じ音が響いた気がした。

 

 

 

「え・・・・・・・・・?」

 破れたのは、人物評価か価値観か。

 頭の中は、真っ二つになった封筒並みに真っ白だ。

「え・・・・・・えー・・・・・・?」

 地面に放られた紙切れの上に、落葉が一枚舞い落ちた。

 もう10分くらいしたら埋まってるかも。風情はあるけど掃除が面倒だよね秋は。

 ・・・・・・・・・思わず、現実逃避。

 

 落ち着け、僕。

 何がどうなったのか、把握しろ。

 

「え、っと・・・・・・」

 意味も無く動かした手が、ポストに当たる。

 そのままそれに上から体重を掛けて、ひとつ深呼吸。

 

 どっちかというと、何にこんなにショック受けてるのか、自分にビックリ。

 本当に何の意味も無い手紙だったのに、ラブレター突っ返された乙女の如きリアクションとってどうすんだか。

 

 

 

 ・・・・・・・・・読んでくれると思ったんだけどな。

 目を通した後は捨てられると思ってたけど。つか後生大事に取っとかれたらその方が怖い。

 でも、見る前に破られるのは、完全に予想外。

 

 身内に甘いというのは錯覚だった?

 いや、そんな事はない筈。

 長年隣に居て、そんな所で見誤ってるわけがない。

 

 そうだよ、それは自信持たなきゃ!

 そこまで考え、力強く頷いたら、途端世界が揺れた。

 

「ぉお!?」

 いや、地震ではなく。

 単に、力を込めた瞬間ポストの土台がそれに耐え切れなくなっただけ。

 もちろん、それに凭れていた僕は同じ運命を辿ることになる。

 

 

 ガッ!

 

 これは倒れるなーと思っていたら、横から伸びた手によって止まった。

「・・・・・・・・・アリガト」

 僕ではなく、ポストを支える辺り飛鳥ちゃんらしいなぁ。

 でもって、再認識。やっぱり優しーよ。

 

「手抜き工事」

 ぶっきらぼうに言うのは感謝に対する照れ隠し?

「いーんだよ、一回限りの演出のための小道具なんだから」

「お前がそんなだから・・・・・・・・・!」

 怒鳴りかけて、言葉を切る。

「だから?」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「言いかけて止めないで欲しいんだけど。っていうか『そんな』ってどんな?」

 

 

「ね、何で・・・・・・?」

 特別怒らせたという事もない。

 理由が、ある筈。

 

 

「お前のとりとめもない話を、文字でまで付き合う義理は無い」

「・・・・・・・・・それだけ?」

「お前こそ」

 即座の切り返し。だけどもその意図する所が掴めない。

「とゆーと?」

「回りくどい」

「・・・・・・・・・?」

 首を傾げていると、苛立ったように睨まれる。

 乱暴に、だけどもどこか慎重に、再び僕の手をわし掴んだ。

 先程と違うのは、そのまま例の指を口元に寄せた事。 

「言いたい事があるんだろう?」

「んっ・・・・・・・・・」

 腫れて、鈍くなっているのか逆に過敏になっているのか判断のつかない指に、ダイレクトに濡れた感触と息遣いを感じて、反射的に首を竦めた。

 

「痛い、よー・・・・・・・・・」

「だろうな」

 抗議とは言えない僕の声を一言で切って捨て、口に含んだ。

「っ・・・・・」

 口内がひんやりしてるように感じるのだから、相当熱持ってるんだろうなと、僕はどこか他人事のような心持ち。

 

 

「楽しいのか?これで」

「はい?」

 一旦離したと思えばこんな台詞。唐突だよね、ホント。

「無駄なことをするなとは言わないが、それでこんな・・・・・・・」

 どうもさっき僕が言った、無駄を楽しめという所まで戻っていたらしい。

 腫れあがった指を見詰めて、声が途切れる。

「こんな、何?言いかけて止めないでってさっきも――――」

「うるさい」

「イ・・・・ッタぁ・・・・・・!」

 言葉と同時に噛み付かれて身体が跳ねる。

 追求を封じる意味合いだったのなら成功だ。傷を抉られるような真似をされてなお無駄口を叩ける程、僕の根性は据わってない。・・・・・・後で余計に煩いだろうけど。

 

 

 懇願の意を込めて目を向けた先には、怒りとも困惑ともつかない複雑そうな表情。

「・・・・・・・・・聞いてやるから、こんな無駄な段階踏んでないでさっさと話せ」

 

 ・・・・・・・・・・あぁ。

「そーゆー事」

 ぶっきらぼうに放たれた台詞で、やっと納得。

 止まってしまった言葉の先は、おそらく『こんな怪我までして』といったところか。

 

 遠回りなのはどっちだよ?

 その『無駄な事』で僕が怪我したのがそんなに気に食わない?

「心配してんならもっと素直に表して欲しいもんだよねー・・・・・・・・・ってイタタタタ痛い痛いっゴメン!ご免なさい!!」

 

 

 

 やっと解放された我が手を抱え込んで、ホッと大きく息を吐く。

「でも破るのはやり過ぎ。結構傷付いたよ僕」

「放っておいたら付け上がるだろう、お前」

「増長防止ねー。でも後でそうやってフォロー入れてたら意味無いって、わかってる?」

「入れてない」

「なってるって」

「どこが」

「どうみても」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 きっかり平行線。

 まぁこれはいいか。いつもの事だし。

 

「じゃあ、破いた事に対して反省点はなし?」

 これだけ確認しておこう。

「お前が改めないならな」

 ・・・・・・・・・ふむ。

 腹が立っているというのではない。

 そんな、自分の悪癖を棚に上げて憤るほど狭量じゃない。

 大層わかり辛かったけど、僕を思いやっての事のようだし。

 だけどもアレは、僕の記念すべき初手紙であったのには違いない。

 それで、この態度。

 

 少しくらいの意趣返し、してもいいよね?

 

 幸か不幸か―――飛鳥にとっては至極不幸な事に―――ネタはある。

 敗因は、前振りと判っていたくせに肝心の用件を僕から聞き出していないこと。

 ツメが甘いね飛鳥ちゃん。指摘してやるつもりもないけどさ。

 

 

 

 

「ね、僕は自分から行動起こすより、誰かに便乗して悪ノリするタイプだってわかってる?」

「ああ・・・・・・・・・?」

 何だいきなり、という表情で首肯する。

「でもってさっき、誰かに手紙を僕『も』やってみたかった、って言ったよね?」

 も、を強調して。

「・・・・・・何の話だ」

 では、本題に移りましょうか。

 

 

 

「ああそうだ、先に言っておくけど抜け駆けはしてないから。本人には会ってない」

「羽鳥、回りくどいと言ったばかり・・・・・・・・・」

「最近、名前だけじゃなくて平仮名全部マスターしたらしくて、手紙出すのにはまってるらしいんだよね」

「・・・・・・・・・・・・!」

 意図するところに気付いたか、飛鳥の顔色が失せる。

 そりゃそうだ。僕らの知り合いで、平仮名を書けなかったような存在は一人しかいない。

 僕らに手紙を出そうなんて考えるのも同じく。

 

「京太くん経由で預かってきたんだけど・・・・・・・・・」

 わざと、そこで言葉を切った。深刻そうに胸に片手を当てて。

 真っ青な顔で、殆ど落葉に埋もれた封筒に視線を落とした飛鳥に、僕は内心舌を出した。

 

 

 前振りだって言ってるのにさ。

 僕の手紙は言わば囮。

 本命は、後々まで焦らすもの。一緒の封筒になんか入れてるものか。

 大事なちょーこからの手紙はこの手の下、まだ懐に入ってる。嘘は言ってない。

 

 

 あまり趣味の良くないからかい方だけど。

 少しは反省すればいい。

 

 

 

 とはいえ、あまり長引かせるのも後が怖いし、本意ではない。

 僕は、でかでかと殆ど名前だけで埋まっている葉書を懐から取り出し、こっそりポストに投函した。

 さて、いつ教えようか。

 

 考えていたら、傾いだままのポストの口にヒラリと一枚、葉が入り込んだ。

「おや、お見事」

 山から送る、秋を告げる手紙ですか?

 

 そっか、ちょーこにどう返せばいいのか(それ以前に返してもいいものか)、相談しようと思ってたのだけど。

 こういう手段もアリかもしれない。

 

 うん、すっきりした所で、いい加減硬直している飛鳥ちゃんを解放してあげよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうだなぁ、

 

 あと落葉50枚数えるまで、ってとこが妥当かな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蝶子が愛されてるなぁ。というか蝶子を愛してる天狗どもを愛してます私。

しろのさんの日記にあった「♪はーどりくんからおてがみついた〜 ひーどりちゃんたらよまずにすてた〜♪」に触発されて書いた話……のプロトタイプです。

何で修正入れたかといえば、見れば判るでしょうけど人様に捧げるにはちょーっとばかしいかがわしいかなと。指舐めは。その気は全くないんですけどね。

怪我したらとりあえず舐めとこう、というだけのことなんですけど、意に反して何かのプレイのようなので捧げた際には削っておきました。

自サイトに置く分には今更なのでこの形でお目見えです。まぁ色気はないですしね。

ところで私は羽鳥受派なわけなので、上の歌(捨てたではなく本来の食べたの方)から、「『食べる』の意味も対象も違ーう!!」と叫ぶ羽鳥、といったネタ(深読みしてください)も思いつきはするのですけど、羽鳥受推奨ではあってもあくまで京羽派であって双子をカップリングにする気はないので日の目を見る事はないでしょう。