何の気なしに空を見上げて、突然思い出した。

 そういえば、今日は七夕だった。

 

 

 

 最近どうにも季節感が薄い。

 七夕と言うこの日だって、去年は約一名おおはしゃぎで笹を調達してた奴がいたので、飛鳥もそれなりに短冊や色紙を用意したりして、賑やかに過ごした記憶がある。

 今年は静かだな。

 ちょーこが山からいなくなって、はりきって行事をこなす事がなくなったからか。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 理由に思い当たり、急激に気分が沈む。

 自然下がる目線の先に、河が映った。

 それなりに勢いの強いそれを見て、そういえば今年の天の川は見えるのだろうかと、思考が戻る。

 ・・・・・・無理か。雨でこそ無いが、雲が厚い。

 それでも、雨でさえなければ伝説の二人は会えるのだろうか。

 

「はぁ・・・・・・」

 しばし水の流れに目を馳せ、重い息を吐いた。

 

 

 

 

「でぇい!うっとーしい!!」

 げしっ

 よく知る声と共に、背中に衝撃。次の瞬間には宙を舞っていた。

 

 無論、その先にはさっきから眺めていた川があるのは言うまでもないだろう。

 追記・滝近し。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「羽鳥ィ!!」

 岸へ泳ぎ着くより早くに滝下へ放り出された飛鳥が、丈夫な事に掠り傷程度で律儀に帰ってきた。

「あ、おかえり」

「蹴落としておいて何がおかえりだ!」

 手近な岩に腰掛けていた羽鳥に突進する。

 凄んでも、びしょ濡れなのでイマイチ迫力が出ない。

「何のつもりだ!」

「飛鳥ちゃんってさぁ、結構ぽえまーだよね」

「はぁ?」

「正しく詩人の意味の『ポエット』じゃなくて、『ぽえまー』ね。

 平仮名でよろしく。語尾にハートマーク辺りを付けておくと効果的」

「何が言いたいかは分からんが、馬鹿にしている事くらいはわかるからな」

「そんなぁ馬鹿になんて。僕はただちょっと、今時夢見がちな女学生にもこんなドリーマーいねーよ、って思っただけで」

「明らかにしてるだろうが!!大体、何を根拠にそんな・・・・・・」

 一瞬、先程の考え事が口に出ていただろうかと危惧したが、そんな筈はないと断言できる。

 ここまでコケにされる謂れはない。

 だが、

「川を見る。空を見る。夜晴れてれば天の川がある辺りね。でもってまた川を見る。

 遠い目をしてしばらく眺めて、溜息。それと今日の日付。それらから推測したんだけど、質問は?」

「・・・・・・お前なんか嫌いだ」

「おやおやこれは幼稚な台詞で。退行ついでに短冊でも書いとく?」

「羽鳥!」

 怒鳴りつけると、やれやれとばかりに肩を竦めた。

 

「星座間ほど離れてるわけじゃなし、なに躊躇ってるんだか」

「・・・・・・会うのは止められてる」

 ようやく、認めた。

「過ぎた干渉は、ね。挨拶してくるくらいは問題ないと思うけど?」

「会えば多分、甘やかす」

「随分及び腰じゃん。本当は忘れられてるかもしれないのが怖いんじゃないの?らしくない。

 情けないね。泳ぐような気概も見せずに条件が全て整わないと会いにいけない牽牛にぴったり」

「お前こそ、どうして今日はやたらと挑発する?」

 ここまでくればいい加減気付く。

 その証拠に、羽鳥のよく回る口がピタリと止まった。

 

「今日のコンセプトは鵲なんだ。橋渡しのお手伝いをば」

「あんな暴力的で凶悪な鵲がいてたまるか」

「ひどいなぁ。そりゃ、『背中に乗せて運んであげる』から『背中蹴り飛ばして喝を入れる』にちょっとした変更になったとはいえ、なけなしの親切心だっていうのにー」

 全然ちょっとしてない。

 

「鬱陶しかったというなら腹は立つが理解できなくもない。

 そうでないなら親切ぶって誤魔化すな。俺を、理由にするな」

 ルールを破る時は人を矢面に。自分は協力者の顔をして、だったら何でもできる。

「俺に便乗したかったんだろ。お前だって会いたいくせに」

 そういう奴だと知ってる。

 

「・・・・・・ちぇ、賢しくなっちゃって、やり辛いったら」

「おーまーえーはー!」

 そういう、奴だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 隣に腰掛けると、こつんと濡れるのも構わず凭れてきた。

「今日は鵲に徹する心積もりだったとはいえ、どっちにしろ僕らのお姫様は川向こうで大人しく言い付けに従ってるタイプじゃないよね」

 一度見破ってしまえば、羽鳥は本音に素直になる。

「そうだな。いざとなれば川なんか物ともしないだろうな」

「そーゆー強い子を、籠の鳥にしたくなくて手放したんだし?」

 自由に羽ばたいて欲しいと願う。

 だけども、できれば。

 

「できるなら、ずーっと一緒に居たかったね」

「だが、それで駄目にするくらいなら」

「高め合えれば良かったんだけど」

「せめて、支え合えれば」

 

 

 羽鳥が空を見上げた。曇天の空を。

 

「『願わくば』」

 声の調子が違う。厳かな雰囲気は、引用なのだろうことを示す。

 

「『願わくば、天にありて比翼の鳥となり、地にありて連理の枝とならんことを』?」

「誰だ?」

「中国の高僧」

 聞いた事はある気がする。

「別に、夫婦になりたいわけじゃない」

「知ってんじゃん」

「誰の言葉かは知らない」

「さよで」

 軽く流す羽鳥に、補足がいるかと少し続ける。

「1人で飛べるなり、片翼を見つけるなり。幸せなら良い。・・・・・・良いと、思う」

「ほほー。大人になったねぇ」

「茶化すな。お前はどうなんだ」

「んー・・・・・・・・・」

 曖昧な声を出しながら、勢いをつけて立ち上がった。

 

「願わくば」

 背を向けているので、顔は見えない。

 

「翼休める止まり木に」

 

 

 

 

 

 

 

 

ね、眠くて頭が回りません。うわ、台詞ばっか。

多分おかしい所とかあるでしょうけど、今度きちんと見直しますから・・・・・・・・・