パチリ。羽鳥が瞬く。 次いで溜息ひとつ。
「売らないって言ったじゃん」 「この値じゃ不満か」 「そーじゃなくて………」
色を付けたくとも、飛鳥に手持ちはない。 持っているのは、せいぜい…… 「一曲捧げるというのは?」 「うっ」 横笛は持ち歩いてる。 羽鳥は飛鳥の笛の音を好んでいるから。
「……とても魅力的な提案だけど却下。ここで小遣い稼ぎその1する事もあるんだから、勘弁して」 期せずしてその1が知れた。 だけど、どうしよう。羽鳥を釣れる材料が無い。 試せるのは、あとは……
「だから、何を気に入ったか知んないけど、諦め………んん!?」 諭そうとする口を、唇で塞いだ。 これで機嫌を良くする事も、たまにはある。 だけど残念ながら、唇を舌でなぞっても固く閉じたままで、無理そうだと判断して放した。 というか身竦んだのが気になる。
離れて数秒、片手で顔を覆って深い溜息を吐かれた。 羽鳥に嫌がられた事など殆どないので、少しショックだったりする。
「………帰ろ」 「もういいのか?」 「もー商売になんないって。」 やれやれという気配濃厚な声で答えて、疲れた様子で立ち上がった。
「何で急に」 「誰のせいだと」 「俺が何をしたって?」 何やら非難されているようだけど、よくわからない。
「あのねぇ……サンプル作りたかっただけじゃなく、ディスプレイ効果も狙ってたんだよ。僕らそこそこの顔だし、双子って目立つし」 客寄せパンダという単語が頭に浮かんだ。 「現に、『兄弟仲いいのね、微笑ましいわv』『終わったら次書いて貰おっか♪』なーんておねーさま方の声もチラチラ聞こえてたわけだ!」 裏声上手いな、本当に芸の多い奴だ。と、ずれた感想。 ある意味逃避だ。煩くなりそうな予感がしたから。 「これは稼げるって思ったのに、なのに……みーんな固まっちゃったじゃんか!!」 案の定喚き出したのを耳に手を当ててやり過ごしつつ、周りを見回せば、なるほど。
呆然とした様子が、目が合うと逸らされる。そして近くの者と何事か囁き合っていたりして。 とりあえず、近寄ってきそうな者は居ない。
――――――思ったより注目されてたんだな。
当然と言えば当然か。似顔絵描きなどという商売が成り立つような場所なのだから。 ただ、それにしても目立っている。
「なぁ、前に『可愛い仲良し兄弟で済まされるのは小学生くらいだろうけど、顔が良ければもう少し上の年齢まで許されるよね』とか言ってなかったか?」 「一語一句トレースしないでよムカつくから。だいたいそれは手繋ぐ時の話だよ」 棘のある口調で、帰り支度を終えた羽鳥が背を向ける。 「羽鳥」 「何だよ!?」 そこまで怒ることはないと思うのだが。
二枚の紙をひらひらさせて、 「結局、これは貰っていいのか?」 聞いた途端に色鉛筆が飛んできた。
「勝手にしろっ!」 振り向いた顔色が、赤鉛筆よりも鮮やかだった。
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書きながら思い浮かべていた場所はアニ○イトが近いので、喜ぶ腐女子もけっこういそう、とか思いました。