「………ん、んん!」

「え、おい?」

 一度強張った体が、ゆっくりと弛緩する。

 飛鳥の焦ったような声が聞こえた気もしたけれど、突然来てしまったものに逆らえなかった。

 

「……は、あ……」

 そのまま途切れかけた意識を何とか繋ぎとめて、荒い息が収まり始めてようやく、羽鳥は自分だけが昇り詰めてしまった事に気付いた。

 

 

「あ……ごめん飛鳥ちゃん」

「いや……お互い様だしな」

「タイミング、合わないねぇ」

 お互い様と言う通り、羽鳥の中は既に飛鳥で濡れている。

 これで双方一回ずつ達した事になるのだが、今日はどうにも羽鳥の反応が鈍い。

 飛鳥は再び中腹まで上りかけていて、それに付き合える自信が無かった。

「んー……」

 羽鳥はそっと、己の下腹に触れてみる。

 受け入れたカタチを辿り、軽く押す。

「うーん………」

 確かに飛鳥を感じるものの、やはりその感覚は鈍く、快感を拾い上げるのは難しいようだった。

 

「………」

 飛鳥がひとつ息をつく。

 そうして羽鳥から引き抜く様子を見せたので、瞬間次を思ってビクリと身構えた。

「……ぁ、ちょっと待っ……あ?」

 しかし、飛鳥は出て行ってそのまま衣服を整え出す。

 

「飛鳥ちゃん?」

「これ以上は無理だろ」

「あー……否定はできない、けど」

 だけど、今すぐ達する程でなくとも引けない所まできていたのでは、と心配になる。

「……じゃあ、口でとか」

「吐き気は?」

「…どっちかっつーと眩暈」

「寝てろ」

 言うと同時に飛鳥の掌が瞼を覆う。

 

「でも……」

 視界が塞がれた事で、気を抜けばそのまま意識が落ちそうだ。

「寝ていろ。……もう、いいから」

 置かれた手がゆっくりと撫で付けるよう滑る。

 視界は戻ったのに、優しい動きにクラリとした。

 逆らわなければこのまま眠れる事だろう、安らかな誘惑に絡め取られそうになる。

 けれども、それに身を任せてはいけない。払いのけて上体を起こした。

「羽鳥」

「いいから」

 図らずも飛鳥と同じ言葉になった。

 だけど飛鳥の『もういい』は、羽鳥が弱っているからだ。

 満ち足りたわけではないのだから。

 

「大人しくしてろ半病人」

「やだね」

「羽鳥」

 飛鳥は、羽鳥が弱っているととても優しい。

 だけども今は、流されて甘やかされている時ではない。

 羽鳥が、飛鳥を甘やかす時だ。

「確かに、途中退場とかしちゃいそうだけど。でもいいから」

「いいって……」

 

 暗闇に怯え震える子供を抱きしめるのは、お使いに行かせた者か、傍に居る者の義務だと思う。

 あるいは、滅多に出てこない僕の中の兄の部分か。

 

「僕は、大丈夫だから………飛鳥ちゃん」

 片膝を立て、ゆっくりと手を差し伸べる。

 

 

「いいから、おいで」

 

 

 

「……………」

 伸ばした手に引き寄せられた飛鳥が何か呟いた。

 僕は擦り寄る頭を撫でながら、うん、うん、と先と同じように頷いた。

 

 分かってるよ。知っているから。

 

  ゆっくりと背を叩くと、飛鳥が長く息を吐く。

 

 

 やがて、全て受け入れ霞む意識の中、それでも最後まで抱きしめていられたらと。

 この子が少しでも安らかに眠れるようにと願いながら、力が抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、わかってます。内緒話と秘め事を一緒にするなと。 

でもこの御題見たら、こっちのがメインで浮かぶんですもの。