「任せて!」

 この手を取ればいいなぁ、と掌を上向けながら思った。

 それはきっと、そうはならないと知っていたから。

 

 だって飛鳥は、大事な所で間違わない。

 この手を取るのは、彼の大事なあの子にとって最善とは思えない。

 

 大事な弟と、大事な彼の大事なあの子。

 この手を取ったらただのエゴ。大事にしたいのならば、大きな間違いだ。

 

 

 この手を、取ればいいのに。間違えればいいのに。

 間違えないからこその彼。間違えてしまえば何の価値もない。

 

 万が一、間違った上に僕を置いて行くと言うなら、壊してしまおうか。

 何の痕跡もないくらい、取り込んでしまおうか。

 

 

「きっと、守るよ」

 大事な大事な彼と彼女は、絶対に守る。全てから。全てをかけても。

 でも

 間違えてしまった彼と、その彼の大事な彼女なら、守れなくてもいい。

 

 何もさせない。僕以外のすべてから守ろう。僕がいなければ生きていけないように。

 閉じた世界を作ろう。三人しかいない世界。

 何からも影響されない、誰か一人でも欠けたら崩壊する世界を。

 出口を無くして、彼女に成長なんてさせやしない。

 閉じ込めよう。彼女の狂った獣が彼女か、彼か、僕を殺すまで。

 ああ、それはとても楽しそうだ。

 

 作れなければ、壊せばいい。

 飛鳥がこの手を取れば、二人の生殺与奪は僕のものだ。

 

 わくわくする。

 この手を、取ればいいのになぁ。

 

 

 

「………できない」

 ほらね。

 知っていたよ、君は間違えないって。

 手放した未来が破滅でしかないなんて、知りもしないだろうにね。

 

 

 ああでもせめて。

「全部終わったら」

 思い出もしがらみも全部。

 もう正しい事を選び続ける必要もなくなったなら、その時は。

「世界の果てを探しに行こう」

 一緒に世界から消えようね。

 

 

 頷いた飛鳥は、果たしてこの言葉の意味を知っているのかな?

 きっと分かってないだろう。これに関しちゃ拒否権なんて無いって事を。

 

 遠いその時を想って、僕はうっとりと笑った。

 

 

 

 

 

 

だから怖いって。

100年近くたってから全国行脚してる二人、という話も書いてみた事あるんですが、全国回りきる前に羽鳥に何か興味持たせないと笑って殺されかねません。頑張れ飛鳥。