普段は静かなこの寺に、今日は人がごった返している。

 大人たちは皆忙しそうに働いているけれど、自分達はまだ子供なので出来る事はない。

 眺めているだけの立場がもどかしくもあるが、自分達天狗にとってはこれだけ馴染みのない事柄も珍しいので、仕方ないといえば仕方ない。

 

 今日は、人が1人増える日らしい。

 

 

 

 

 

 こんなに生々しいものだとは思わなかったな、と血臭の立ち込めた中考える。

 一応寺なのだから、血の穢れで満たされていて良いのだろうかとも思うけど、まぁ元の神への信仰などとうに忘れられていることだし、なにより現在崇められている本人が招いたのだから、何の問題もないのだろう。おそらく何度も行われてきたことなのだろう。

 問題があるとすれば・・・・・・と横で蒼白になっている片割れを見やる。

 あるとすれば、迎え手のくせに血に滅法弱いコイツくらいか。

 

「羽鳥、何度も言うようだがお前もう下がれ」

 声を掛ければ、俯いて久しい頭がふるふると否定する。

「何度も言ってるけど、ヤダよ。祝福したいもん」

 してやらなければ、ではなく、したいと言う辺り、性格的には向いているのだろう。しかし。

「そういう台詞は、俺に寄りかからずに言え」

 1人で立っていられない状態で言っても締まらない。

「ムリ、立ってらんない」

1人で倒れてろ」

 そう言う飛鳥も、そうそう動ける雰囲気じゃないので実行はしないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 する事が無いので懲りずに何度かそんな問答をしていると、俄かに空気が変わった。

 増した緊張感、それに混じりもう少しだと元気付ける声。

 あぁ、生まれるんだなと口を閉ざして眺めていたが・・・・・・

 

 

 

「あれ、まだ・・・・・・?」

 血臭に負けて、へたり込んでいる羽鳥が恐る恐る訊いてきた。

「いや、生まれはしたようだが・・・・・・」

 生まれはしたけれど、泣き声はない。

 つまり、それは。

 

「生きてるよね?死の穢れは感じないし」

「今のところはな」

 その手の感知はさすがだなと妙な感心しながら、頷く。

 しかし、あくまで『今のところ』でしかない。

 

 叩いてでも泣かせようと騒がしかった空気が、段々と暗く静まってゆく。

 重い沈黙がこの場を支配してゆくのを止められないようだ。

 

 諦めたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「駄目だよ!」

 破ったのは、飛鳥のもっとも良く知る声。

 

「羽鳥?」

「みんな待ってる!君は望まれてる!だから!」

 この上なく、必死だった。

「だから・・・・・・・・・」

 涙声で詰まる。

 その先が大事だろうに、この馬鹿。

 君は、望まれている。その限定に腹が立った。

 本家で『手違い』と言われ続けた重みが痛い。

 

 見守られる中生きる事を諦めかけた命と、望まれなかった事を吹っ切っていなかった存在と、

 どちらに対する怒りか自分でも分からないまま、

「生きろ!」

 気付いた時には叫んでいた。

 

 

 

「ふぇ・・・・・・」

 その声に驚いたように小さな声というか音がし、注目される中その小さな発生源は、洩れた空気を弾みに大きく息を・・・・・・吸った!

 

「ふぁああああああん!」

 泣き声が響くと同時に周囲が沸いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誠にありがとうございました。丁寧な感謝の言葉とともに、深々と頭を下げられて焦った。

「やったね飛鳥ちゃん」

「え・・・・・・いや、俺は何も・・・・・・」

 どうにも、天狗の事を神にも近しい存在と捉えている人間達に、先程の出来事は飛鳥が何かしら神秘の力を行使したものと思われてしまったらしい。

 しかも、その辺の事を分かっているだろう羽鳥も一緒に煽っているものだから、始末に終えない。

 睨めつけると、くすくすと笑いながら飛鳥の手を取った。

「ほら」

 そうして、泣き疲れて眠る赤子へと導かれる。

 

 正直に言って、先程生まれたばかりのそれはあまり愛らしいものとは思えないけれど、温かく柔らかい。

 護る物が居なければ生きていけないのだろうなとは、本能で感じる。

 これは、確かに。・・・・・・護ってやりたくなる、な。

 

 飛鳥の表情の変化に、羽鳥がくすりと笑んで口を開いた。

「新しき命を歓迎する。祝福しよう。君の道が平らかである事を。幸多き事を」

 

 この声は詐欺だ。

 声質としては自分と同じらしいのが信じられない。

 普段の茶化すような色は見せず、澄んだ流れに威厳や慈愛を織り込んだ語り口。

 ハッタリと分かっていても効きそうだと思えてしまうのだから、この場に居る人間は言うまでも無い。

 

「飛鳥」

 その声で呼ばれるてギクリとした。

 促されているのは分かるが、一体何を言えと?

「羽鳥、俺は・・・・・・」

「気持ちの問題だよ。さっき感謝されたのだって、応援してくれたからだよ?

 例え関係なかったとしても、君が呼びかけた直後にこの世界に生きる事を決定した生命に対して、思う所は何もない?」

 見透かすように覗き込まれて、まぁ無い事はないんだろうなと思う。

 視線を、羽鳥からまた新しい生き物に移し、

 浮かぶ言葉はたったひとこと。

 

 

「・・・・・・・・・・おめでとう」

 

 例え世界がこの命に厳しくとも。

 自分達は歓迎しよう。

 心より。

 

 おめでとう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

30の御題の方でちょーこの誕生祝いも双子の誕生日もやってしまったので、これ以上何を書けばいいんだー!と仕方ないのでちょいと反則的な解釈の話を書いたのですけど、UPする直前になって、そうだちょーこの誕生日当日は書いてないやという事に気付き、急遽ネタ出しをしました。

と、いう訳でちょーこの誕生日当日話でしたが・・・・・・・・・当日にも程があるっての。本当に「生まれた日」のネタに相成りました。

30の御題の設定ではできないネタですね、あちらの二人はちょーこより年下だから。すみません今回はマイ設定読んでないとわからない部分ありますね。

オリキャラ出すのは好きじゃないので、村人達の台詞は全て削りました。しかし住職達も居る筈なのですがねぇ・・・・・・毎度の事ながら双子しか喋ってないなぁ。