「・・・もし次の帝に求婚されたらさー、やっぱ今まで以上に貢ぎ物くるのかな? それともあの賢帝の後継者なんだから、そんなのは無駄だってわかるかな?」

「さぁ、どうだろうな」

「・・・・・・オレは、とびきりの秘宝なんて、欲しがってない」

「うん」

「そりゃあ、欲しい物がある、って言ったよ。持ってきてくれたら話を受けてもいい、って」

「うん」

「でもそんな高価な物が欲しかったわけじゃなくて、そもそも「物」が欲しかったんじゃない」

「うん、知ってる」

「・・・・・・一生添い遂げるなら、少しはオレの意を汲んでくれる人がいい。せめて解ろうとして欲しい。それってそんなに我儘な望みか?」

「そんな事ない。叶えられて当然の願いだ。・・・・・・普通なら」

 血統に拘る都人じゃないのだから、好きになった人と添い遂げられる筈でした。

 そんな、一介の村の普通、じゃなくしたのは、多分「輝夜の君」なわけで・・・・・・

 なんか、泣きたい。

 でも泣くもんかと考えていると、カタリと音がして、友人が席を立ったのがわかります。笹茶の急須が消えているので、湯を足しに行ったのでしょう。

 

「・・・・・・なんだっけ、お前の出した条件。白くて・・・?」

 急須に注いでいるらしき水音とともに、そんな声が聞こえます。

(白くて、でも全部真っ白なんじゃなくて青とか緑とかも入ってるんだけど、ふわふわしててあったかくて、ちょっときらきらしてる。・・・え?珍しいかって?ん・・・まぁ珍しいかな)

 確か、そんな言い方をした筈です。

 敢えて曖昧な物言いをした自覚はあります・・・・・・が、

「贈られてくるのが殆ど条件に合わないものばっかりなのはどーゆー訳だ」

「きらきら、と珍しい、のせいじゃないか?」

「ちょっと、って言ったのに。珍しいって言ったってその気になりゃ一日で見つかる程度のものなのに・・・」

 世界にひとつしかない宝物なんか、欲しがってないのに。

「これが、残念ながら違うんだけど条件は満たしてる、とかなら、意を汲む努力はしてくれたんだなって思えるところなのにさー」

「もはや見栄の張り合いになってるようだからな」

「うん、もうオレが蚊帳の外」

 はー、と息を付いて卓袱台に突っ伏します。

 じき、くすくすという控えめな笑い声と、笹茶を注ぎ足してくれてるらしい水音がします。

 礼を言って顔を上げると、視界に白い物がたくさん飛び込んできました。

「あ・・・?」

 白くて、ふわふわ。あったかくて、ちょっときらきらしています。

「さっき、リチアとどう過ごしたか訊いたな」

 友は、台に置かれた何枚ものそれを示して言います。

「ここ最近は、ずっと、これを集めてた」

 それは、羽でした。誰もこの羽を持つ鳥を見たことがないのに、時折落ちている不思議な羽。

 根本は白く、先端にいくにつれ、緑を経て青になります。光沢があり、触れば暖かみを感じます。

 この村の近辺でのみ見つかる、珍しい、けれども白詰草の四つ葉を見つけるくらいの根気があれば容易く見つけられる、それは守護聖獣の羽と呼ばれるものでした。

「うん、このくらいあれば足りるかな」

 友の手がそっと月色の髪に伸ばされます。

 その耳元に差し込んであるのは、この羽で作られた髪飾り。幼い頃あの少女から貰った、彼の宝物でした。

「どうして・・・」

「傷んできたの、気にしてるみたいだったから」

 彼がこの髪飾りを長いこと使い続けているのも、とても大事に思っていることも、傷んできたので補修したがっていることも、彼の事をわかってくれようとしたなら気付く筈です。彼はこの髪飾りを常に身につけていたのですから。

 だからこれを指定したのに、

「・・・・・・お前がくれたら駄目だろう」

「ああ、いや俺もリチアから渡した方がいいとは思ったんだけど、早く安心させてあげてと彼女から言われて・・・」

「そうじゃなくて」

 ああもう、どうしてくれようか。

 こんなんじゃ、余計に離れられない。

 

 伸ばされていた腕を掴むと、ぐいと引き寄せました。

「わっ、と・・・」

 思ったより容易に収まった体を抱き締め、肩口に顔を埋めます。

「・・・・・・おい?」

「お前が女だったら嫁にするのに」

「・・・あらゆる方面に失礼な発言だな、それ」

「本気だけど」

「悪い事言わないから、本命に言え。何ためらってるんだよ。分かってるだろ、リチアはお前の事特別に思ってる」

「迷惑かけたくない」

「何があっても守る、くらい言えないのか」

「残念ながら、自信ない・・・」

「・・・・・・らしく、ないな」

 くしゃりと髪を撫でられたのを感じます。

 気遣うような、優しい動き。

 なんて心地のいい掌でしょう。

 

「お前さ・・・」

「うん?」

「一緒に、来てよ・・・・・・」

 この先、なにがどうなったとしても、傍に居て欲しい。

 居心地が良すぎて、割り切るなんてできないのです。

 

「・・・・・・大丈夫だよ」

 ですが、これは断りの文句です。

「・・・どうしても?」

 この友人が、小さい頃から村を守る仕事に就きたがっていた事を知っています。その為の努力も、実際に就いてからの努力も。

 今言っているのは、その頑張りをすべて否定するような、ひどく身勝手な願いです。

 彼女に迷惑をかけたくないと言ったその口で、お前の人生が狂おうともオレの為に生きろという、酷い要求です。

「・・・大丈夫、だから・・・・・・」

 なので、こうして断られて当然なのに、認めたくありません。

「大丈夫なわけ、ない」

「大丈夫。きっと、うまくいくから・・・」

 欲しい言葉をくれないのに、髪を撫でる手はやっぱり優しいので、今度こそ本当に泣きそうだと思いました。

 

 

「昨日な、都で、初めてゴーレム兵を見たんだ。知ってるよな?1000年前に作られたっていう、帝にごく近しい存在だけが使役できる、自動人形・・・」

 半分泣きかけているせいで、友の声が遠く感じます。

「俺な。次の帝の御名、知ってる気がするんだ・・・・・・」

 夢を見てるみたいな声だ、と思いました。

 

 

 

 

ゴーレム兵を見て、『妙に線の細い重鎧の無口な人』の正体に思い至った模様。