翌朝、目が覚めたエルディは、まず大きく安堵の息をついた。

 いい意味で予想外だった事に、かなりホッとした。

 

 ぶっちゃけ、ヤられるかと思った。いや、あいつ主導でヤることはヤったんだけど。

 ……今度はオレが、受け入れさせられる側かな、と思ってた。

 覚悟は決めたけど、やっぱり恐いし男として抵抗あるし嫌悪感半端なかったので、そうならなかったのは大層ありがたい。

 でも、何考えてんだろコイツ。

 チラリと銀髪の方を見る。そこにも嬉しい誤算がもうひとつ。

 エルディに少し遅れて起きた銀髪は、物凄い後悔している顔をしていた。

 一晩床を共にしたこちらにしてみれば失礼な話かもしれないが、エルディはこれにもホッとした。

 嘘だろ…と、しきりに呟き頭を抱える彼は、例えるなら酒に酔って色々やらかした翌日の様相。

 加えて言うなら、昨夜や先日はどこを見ているのかわからなかった濁った紅い目が、今は随分と澄んでいる。

 戻ってきたんだ、と直感する。クスリか何かで吹っ飛んでた正気が。

 

 だからきっと、今の彼には常識が通じる。意思疎通ができる!

 何だかそれは、すごくいい事な気がしてニヤついていると、

「お前も!」

 一頻り悩んだらしい彼から指をつきつけられた。

「へ?何?」

「一度ならず二度までも! ちゃんと抵抗しろよ何考えてるんだ!」

「いや、まぁ、気持ちよかったし」

「そんな貞操観念でいいと思ってるのか! 病気でもうつされたらどうするんだ!」

「え? お前病気持ち?」

「俺じゃない!! 持ってて堪るか何の為に毎週あんな屈辱的な検査受けさせられてると思ってる!」

「いや、そんな事情は知らないけど……お前が持ってないなら問題ないんじゃ――」

「彼女に顔向けできなくなるような事をするな! 親御さんも草葉の陰で泣くぞ!?」

「もっともなんだけど、お前が言う事じゃないような…」

 思い切り不良なルックスのくせに、なんだこの真っ当な説教は。

 つーか、やけに正論だから分かり難いけど、これって逆ギレ?

 

「あはは、何か面白いなーお前」

「…っ エルディ!」

 吹き出したら怒鳴られた。 ……って、あれ?

「オレ、名乗ったっけ?」

「っ!」

 純粋に疑問で訊いたら、息を呑んだ。 何だ、この反応?

 表札にはファーストネームまで載せてないし、そもそも昨夜のコイツは観察するだけの元気がなかった。

 そんな事を考え眺めていると、彼は目を泳がせて、勉強机で止まる。

「い、今時律儀にマジックででかでかと名を書く高校生も珍しいな」

「ああ、教科書。それ言われることあるけど、失くさない為にも名前ははっきり書いておいた方がいいぞ?」

 なんか引っ掛かるけど……まぁいっか。

 

「お前の名前は? お前だけ知ってんのもフェアじゃないだろ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・フェアである必要性を感じない」

「何そのなっがい間。 いいじゃんオレが知りたい」

「どうせ二度と会うこともないだろ。じゃあな」

「待ったまった待てって! ゆっくりしてけって、体つらいだろ?」

「しがみつくな! なんなんだお前は!」

「また来いよ」

 ひゅ、と息を呑む音がした。

「金銭面で困ってるならあんま力になれないけどさ。 休みたいけど宿がないとか、そんな理由だったらココ来てよ。誰でもいいならオレを選べ。ああ、微々たるもんだけどバイト代譲っても……」

 べちっ!

「だっ!?」

 顔の真ん中に平手くらった。

 むしろ、掌打。喧嘩慣れしている筈の自分がクラッときた。目がチカチカする。

「同情なんて真っ平だ!」

 怒鳴り声はいっそ悲痛に響き、傷つけた事を知る。

「待っ・・・・・・」

 当然待ってくれる筈もなく、チラつく視界では離れる体に追い縋る事もできず、眩暈が収まる頃には部屋にはエルディ一人きり。

 

「あーあ・・・・・・」

 行っちゃった。また来いって言ったけど、きっと来ないよなぁ。

 

「・・・・・・また、拾えないかな」

 願わくば、自分の行動範囲内で落ちていてくれますように。

 

 

 

最初と最後で時間かかるので、とにかく話数を進める為に、最後が適当。そのうち余裕があったら修正したいと思います。たぶんしないけど。

そしてエルディが懐っこすぎる・・・! 前回の逆レイプが別に堪えなかったので、携帯が壊れた以外の被害を受けた気がしてないエルディです。金は自業自得だと思ってる。

レキがボロ出すぎですが、そういうところはスルーするのが主人公。