「そうですかー、携帯壊れると大変ですよね」 うんうん、と頷くフリックを伴って、エルディは自宅の玄関を開けた。 「ああ。 ごめんな? 心配かけたみたいで」 「いえいえ。 嫌われたとかじゃなくてホッとしました」 あはは、と軽く笑うフリックは、だけども突然連絡がとれなくなったオレを心配して訪ねてきてくれたわけで、受験生の貴重な時間を使わせてしまった事は申し訳ない。 「はは、それはないって」 「ときに、どういう経緯で壊れたんです?」 「えっ・・・・・・あー、えっと・・・」 どう説明すればいいんだ。 まさか洗いざらい話すわけにもいかないし・・・・・・と唸りながら自室の戸を開けると、 「・・・・・・あ、来てたのか」 「ん」 両手には足りないが片手には余る程度にはここを訪れている銀髪紅目が、我が物顔で寛いでいた。 「エルディさん? えっと・・・・・・こちら、は?」 「え?あーっと・・・・・・」 だから、どう説明すれば? 「・・・・・・と、友達」 「そうですか・・・・・・交友関係広いんですね」 おや、と思う。声が硬い。眉間に皺寄ってるし、警戒心を隠してない。 珍しい。フリックは誰とでも仲良くなれるタイプで、特に誰かの友人として紹介された人物に不満を持つような奴じゃないのだけど。 そりゃあコイツは見るからに不良っぽいというか、一般人ではないの丸分かりだけど、そんな事で臆しも蔑みもしないのがフリックだと思っているのだけど。 「ふぅん、へぇ、友達。ともだち、なぁ?」 こっちはこっちで引っ掛かる言い方をする。 「なんだよ、そうだろ。不満でもあるのかよ」 そういうエルディも、祖父に金を返したとき、「なんじゃ、あんな顔しとるから何事かと思えば、友達に貸しておっただけか」と言われて「友達・・・・・・?」となった事はこの際置いておく。 「別に? 否定はしないさ。そうだな、フレンドには違いないか。その前に「セックス」が付いていようとな」 ピシッ 空気が凍る音がした、気がする。 彼は言うだけ言ってさっさと帰ってしまったので、とりあえずは目の前の、白く固まってしまったフリックを何とかしよう。 「フリック? おい大丈夫か?」 やっぱ中学生には刺激が強いよなぁ。高校生でも充分強いけど。 常日頃から、正義の味方になりたいです、とか言ってるフリックには尚のこと。 どういう訳か、オレの事を正義の味方の手本だとかで慕ってくれてたけど、幻滅にも程があるだろうなぁ。 「・・・・・・本当ですか」 「え?」 「今の人が、・・・せ、せふれ、だって、本当ですか」 真剣な目。ああ、はぐらかすようなところじゃないな。 「そう言われたら、否定はできない、けど・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・」 「その言い方だと、セックスだけが目的みたいで、ヤダ。そりゃあヤってるけど、友達がいい」 割り切れない、往生際が悪い。わかってる、でも、俺があいつに求めているのは、友達なんだ。 「失望したか?」 「いえ、まぁビックリはしましたけど」 ひとつ肩を竦めて、笑顔になる。 それにオレの方が驚いた。切り替え早いな。 「ほら、テレビ番組とかで、敵対組織のライバルを後に仲間に引き入れたりしてるじゃないですか。その過程と考えればアリです。更正させるのに成功したら凄いと思います」 「更正・・・とか、そういうつもりでつるんでる訳じゃないからなぁ。麻薬はやめるように説得中だけどさ」 「タナトスからの脱却は今のところ例がありませんから。是非とも頑張ってください」 「たなとす?」 覚えのない単語に疑問を覚えると、フリックはしまったといった顔をした。 「あー・・・・・・失言でした」 「フリック、なんか知ってるのか?」 オレの知らない、アイツに纏わる何かを。 「んん・・・・・・覚悟がいります」 「オレは構わないけど」 フリックの言う覚悟とは、聞く事によって巻き込まれるかもしれない事。自分や、身内に危険が迫るかもしれない事。 オレの場合、オレ自身と、じーちゃんと、リチア。 内、リチアは実はここら一帯の、血族の中で最重要人物に位置付けられてたりする。特に、今は長くかかる儀式の真っ最中でこの先何ヶ月も祭殿に寝泊りだから、常に何十人もの護衛が付いているような状態だ。 じーちゃんだって、リチアに準じて重要人物だし、そもそもじーちゃん自身が護衛をやってたくらいだ。はっきり言ってオレより強い。 だから、オレの覚悟は割と簡単に決まるのだけど、 「オレができてません。考えさせてください」 フリックに必要な覚悟は、もっと重い。 話す事で相手に危険が迫らないか、迫ったら守れるか。もしそれらを読み違って、最悪な事態になった時、その事実を背負いきれるか。 「・・・わかった。その内教えてくれ」 言えないのは、オレを心配してのことだ。 オレが、心身ともにもっと強くなればきっと話してくれる筈。 「携帯壊れた経緯にはあの人が絡んでますね? 良ければ馴れ初めでも教えてくれませんか」 はい、と頷いたフリックはホッとした様子で、オレもやっと肩の力が抜けた。 「ああ、んーと・・・」 どっから話すべきかな。さすがに全部話せはしないから、当たり障りのないように・・・・・・ ・ ・ ・ 「なるほど」 「って何で洗いざらい喋ってんだオレは!? いろいろ伏せておくつもりだったのに! 聞き上手過ぎだだろうフリック!」 「あはは。エルディさんは、人のプライバシーとかには口が堅いですけど、自分のガードは甘いですねー」 「うぅ・・・」 「そうそう、ガード甘いといえば、あの人に対して無防備過ぎでしょう。普段はそんなじゃないのに」 「そうか?」 「それなりに危ない橋渡ってるに見合うだけの警戒心はあった筈ですよ。それなのに、見るからに怪しい奴を家に上げるは、何度でも隙をみせるわ。背は向けるし寝顔晒すし、おかしいでしょう」 「い、いや、あいつ敵意発してないからさ、油断くらい・・・」 「殺気や敵意はなくとも、害意はあったでしょうよ。特に最初の方は」 「う」 「あ、自覚しましたね。原因に心当たりは?」 「心当たりなんて、そんな・・・の・・・・・・」 「お? 思い当たることあるんですね?」 「・・・・・・・・・」 思い当たる、と言えなくもないような。 思い出すのは、先日の夜――― 寝る時間には早かったのだけど、ベットに横になっていたらついウトウトしてしまっていた。 夢見心地で、誰かが傍にいるような気がした。 警戒しなくていい誰か。例えばリチアとか、じーちゃん、あるいは・・・・・・? 誰かが近付く。起こさないでくれるように、そっと。 そうっと、顔を覗きこまれてる気配。 頬に、微かな羽毛のような感触。 覚えがある。かみのけ。でも、だれのだっけ? オレのかたいかみとはちがって、サラリとしたそれ。 じーちゃんのわしゃわしゃのヒゲじゃない。リチアのフワフワしたてざわりとも。 ・・・・・・ああ、そっか。おもいだした。 「・・・・・・レック・・・」 声に出した途端、凄い衝撃があった。 いや、精神的にじゃなくて、肉体的に。鳩尾の辺に。 「げほっ! ごほっ! かはっ・・・・・・」 一発で目が覚めた。 「こんな時間から寝てると生活リズムが崩れるぞ?」 声と共に、フワリと甘ったるい匂いが鼻につく。 「て、手荒い起こし方だなオイ・・・・・・」 見下ろしてくる、血の色の瞳。自然ではありえない青黒い肌に、顔半分を覆うタトゥー。 それからもうひとつ、特徴的なのは――― 「・・・・・・あ、お前か」 「遅いぞ。なんだ、まだ寝ぼけてるのか」 「起きてる! 起きてるから拳振り上げんな! なんだよ、今日はまた一段と機嫌悪いな?」 「別に」 「ならいいけど。ちょっと、いいか?」 隣に座らせて、髪に触れる。 「女の子でも滅多いないよなぁ、こんなサラサラ髪。・・・だからだな。さっき夢みた。隣ん家の、親友の夢」 「・・・・・・」 「あいつの部屋、誰にも踏み入って欲しくなかったのに、なんかお前は平気だったなぁって思ってて。 そっか、お前、あいつに似てるんだ。あいつもこんなサラサラストレートだった。なぁ、緑に染めてみる気ないか? よく見りゃ顔の造りとかも似てるし、かなり近くなると思うんだよな、レッ―――」 「やめろ!」 悲鳴のような叫びにビックリした。 した後、反省した。 「ごめん、そうだよな。誰かに似てるって言われるのって嬉しいことじゃないよな」 多分こいつ、誰かに認めて欲しくてオレの所来てるんだろうに。 オレはそう思ってないけど、死人に重ねられたように受け取ったろう。それどころか、より似せて身代わりにしようとしてるみたいだ。 「ごめんな、もう言わないから」 頭撫でたかったんだけど、さっきさんざん髪の毛がどうこう言った手前、控えた方がいいのか悩む。 「・・・・・・大事な思い出なら、綺麗なままとっておけ」 「へ?」 聞き返す間も無く、銀の頭がスッと下がり・・・・・・って、 「うわ、ちょっオイ・・・・・・!」 一瞬で人の下着まで下ろして、躊躇なく足の間で蠢く銀色に大いに焦る。 「は、話っ、終わってな・・・・・・!」 もっとちゃんと謝っておきたいのに、下半身から走る痛みにも似た甘い痺れに流されそうになる。 「・・・・・・っ・・・・ぅう――!」 この期に及んで、乱暴に頭引っぺがしたら髪が傷むかも、なんて躊躇ってる内にもう止められる段階じゃなくなってたりして。 「・・・・・・・俺なんかと重ねてやるな。親友を汚す事になる」 「ふぇ?」 なんか変な声出た。つか寸止めは勘弁・・・・・・じゃなくて何か今大事な話されたような―――? なんて考える余裕も無く、いつの間に下脱いだのかオレに馬乗りになってるそいつは、既に目一杯元気になってるオレ自身に後ろ宛がっているような状況なわけで、 「待っ、明らかに慣らしてな――ってキツイキツイ痛い!マジきつい!」 「うるっ、さい! 喚くな!」 「オレが痛けりゃお前もっとだろ! 想像つかないけど!」 「っなの、どうでもっ、」 「よくない! ああもう落ち着けお前、動くな!」 何だかんだで既に根元まで入っていたようなので、抱き竦めて動きを封じる。・・・まぁ、その瞬間また色々キツかったけど。 しばし、荒い呼吸音だけ響く。 少しして、回した腕を緩めて、トントンと軽く背を叩いて顔を上げさせた。 「あのな、そりゃレックに対してこんな事しようなんて想像したこともなけりゃ絶対ありえないと思うけど」 喋ってる内にまた俯く顔を強制的に持ち上げる。話してる時は目を合わせろよコノ野郎。 「でも、別にこれって悪い事でも汚い事でもないだろ? 少なくともオレはお前を汚いと思った事ないぞ」 「・・・・・・・・」 「何か言え、って・・・・・・っ!」 返事の代わりにナカが蠢いた。 「お前こそ、なにをセルフ我慢大会やってる」 「お前のせいだろ! 説教中にイったら台無しだろ!」 「説教だったのか、気付かなかった」 「てめぇ・・・」 「似合わないことしてないで、ほら、そろそろ楽しめよ?」 で、何だかんだで結構盛り上がったりした、わけなんだけど――― 「なるほど」 「って、だから何でこんなに事細かく語っちゃってんだよオレは!」 第三者に話すには際どい、どころかアウトだろう明らかに! 「気にしないでいいですよ。オレが交渉スキル全開で当たってるだけなんで、当然の流れです」 「何者だよお前!?」 前々から、ただの中学生じゃないとは思っていたが。 「途中、髪フェチカミングアウトなのかと思っちゃいましたけど、ついでに言うと最後脱線してますけど、要は隣に住んでたご親友に似てるから警戒心が働かない、って話でいいですか?」 ベッドに落ちてた銀糸を拾い上げ、プラプラさせながら首を傾げるフリック。 なんだよ髪フェチって。そして脱線内容は忘れて欲しい心から。 「いーですよ・・・・・・」 「髪質はもちろんとして、顔貌と・・・・・・えっと、気配も?」 「ああ、意外と。・・・って言っても、8歳の時に気配とか意識してなかったから自信はないけどな」 「ごもっとも。でも、直感的に似てると思えばそれで」 「なら、似てる。・・・よくないよなぁ、オレ大きな街行く時とかレックに似た人いないか捜してんだけど、最近16歳レック想像図がすっかりアイツの色違いになっちゃって」 「色違い・・・・・・肌は樹の民平均として、髪は緑ですよね。目は?」 「茶色。イメージ的には土とか木肌だったな。その辺のカラーも服の好みも含めて、森に居たら溶け込みそうな感じ」 「ああ、何となく雰囲気掴めました」 「オレの想像力が貧困なのもあるだろうけど、当時の写真見直しでももう修正できないんだよなー・・・」 「それ、良かったら見せてもらえます?」 「ん、すぐ出るぞ。 ほら、このアルバム」 「わーい、幼少時エルディさんだ♪」 ピロリーン♪ 「待て、なに写メってる」 「いやー、三人とも凄く可愛いですね! どこの子役集団だよって感じ。見せびらかしていいですかー?」 「誰にだよ誰に。見せてどうする」 「ティス達は喜びそうですね。子供好きな女の子は絶対好きですよ!」 「・・・・・・好きにしろ」 「はーい。 で、確かに面影ありますね」 「ん。あとは、もう少し笑ってくれればって・・・・・・あいつの言った通り、面影重ねるなんてどっちにも悪い事だよなぁ」 「・・・・・・まぁ、そうですね。 ・・・・・・いっそ完全に重ねちゃえばいいんじゃ・・・」 「ん? 何だって?」 「いえ、なんでも。 それにしても・・・・・・なるほどね」 「何で2回言った。さっきから何に納得してんだよ」 「いえね、ちょっと糸口を見つけたかな、と」 「何の?」 「オレにも探し物があるんですよ」 それ以上言う気がなさそうなフリックは、もしかしたら誰よりも底がしれない奴なのかもしれないと思った。 |
後半会話文ですね。本当は前回と今回の間にもう1話あるんですけど、エロが不可避っぽいので後回し。今回位の性描写だったら何の気負いも無くいけるんですけどね。
話としては、フリックがアップを始めました、ってとこですかね。初登場のくせに仕事が早い。 ところで我がサイトの傾向として、どんな話であってもフリックが絡むとバッドエンド回避です。やけに万能超人です。
あ、学パロより1学年づつ下がってます。なのでエルは高校二年生で今年で17歳の現16歳。フリックは15になったばかりの中3。