全くもって、この状況に放り込んでくれやがった誰かが憎らしい。

 

 

 古臭いドアをギィギィ言わせながら開くと、安っぽい二人部屋が姿を現した。

 硬そうなマットに腰を下ろすと、やはり硬かったが文句は言えまい。

「中世風の扉に対して、鍵は近代的ですね」

 続いて入ってきた吟遊詩人が何か言っているが、もうさっさと寝てしまいたい。

「所々で感じる不調和具合が、朝比奈さんの言っていたようにテーマパークを思わせますね」

 何も考えずに横になってしまいたいのだが、このまま倒れるとさながら裏返された亀の如き状態になってしまう予感がしたので実行できない。着込んだ覚えのない鎧が恨めしい。

 せめてコイツみたく布だけで構成されていれば、と思いつつ億劫げに視線をむけると、衣装はケッタイでもいつもの爽やかさ持続の微笑みが向けられた。

 超能力者だろうと吟遊詩人だろうと、微塵も揺らがず古泉一樹を体現するスマイルだった。

 

 

「涼宮さんは夏休みの禁酒宣言をいつ解禁されたのでしょうか」

 知らん。だがノリだけで生きている奴だからな、何の不思議もなかろうが。

「そうですね。ファンタジーで情報を集めるには、酒場がセオリー、そして酒場に来たら酒を頼むものです。アルコールを摂取中に隣のテーブルから、もしくはカウンター越しに店主から有益な情報を得るのは、ファンタジーのみならずミステリ小説などにおいても伝統的と言っても差し支えの無い手法です」

 それにしたって頼みすぎだと思うし、何より誰か情報収集していたか?

「伝説級の黒魔法のお話などはなかなか興味深かったです」

 ・・・・・・してたのか。そういやお前はあまり酔ってないな。飲んでないのか?

「涼宮さんやあなた程ではありませんが、飲みましたよ。悪酔いしないお酒のようですね、ありがたいものです。夏合宿の際は・・・・・・愉快でしたけどね、大変でしたから」

 夏合宿初日の夜は記憶に無いから何を言われても知った事じゃない。

 ああ、いっそ全て知った事じゃないと逃避してしまいたい。

 こんな、SOS団面子で剣と魔法の世界で魔王を倒せ、だなんて現実は現実と認める必要はない気がするので、ここで逃避しても現実逃避と責められる謂れはないと思うのだがどうだろう。

「おやおや、あなたの状況認識能力はこの程度の事態で音を上げる程低いレベルではないでしょう?戦士キョン」

 低く在られるんなら低いまま在りたかったがな。

「しかし、ここで思考放棄などしないでしょう?あなたは。一刻も早く現実に戻る為に」

 ・・・・・・ひとまず明日に備えて眠るかくらいしか考えたくないがな。

 うん、寝よう。明日は明日の風が吹くかもしれない。

 ところで何故寄って来る古泉。

「甲冑というものに興味があるのですが、脱ぐのをお手伝いしてもいいでしょうか」

「近寄るな気色悪い」

 お前に脱がせられたくなんぞない。絶対ない。

「構造分かりますか?お一人では手間取ると思われますが」

「何とかなるだろ」

「そうですか」

 古泉は大げさに肩を竦めると、もうひとつの寝台に腰掛け竪琴を一つポロンと弾いた。

 

 

 ポ・・・ポロ、ン・・・・・・ポロ・・・ン・・・・・・・・・ペレン

 まだ何とかなっていない。俺は甲冑と格闘中。

 

 ポロン・・・ポロン・・・・・・

 まだまだ甲冑は手強い。

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 ポロロン、ポロロロン♪

 気付けば古泉の竪琴レベルが上がっている。おのれ忌々しい。

 俺はそろそろ腕が疲れた。

 

「古泉、手を貸させてやってもいいぞ」

「いえいえ、それほど嫌がっておられる方に強要はしませんよ」

 根に持たれた。

「おい」

「冗談です。では失礼して」

 古泉は近寄って来てしばし考え込んだ後、手際よく甲冑を外していった。

「略式型で良かったですね」

 知らん。これで充分面倒だ。

「お前のは?」

「おや、脱がして下さるので?」

 ざけんな。今の俺は訳の分からん状況の中アルコールが入ってキレやすいと警告してやろう。

「失礼。大丈夫ですよ、さほど複雑な造りではないようです。一般的な吟遊詩人の範疇です」

 一般的な吟遊詩人って何だ。いやまぁ、この姿の古泉を見た瞬間に吟遊詩人だと思ったりしたわけだが。

 こうしてポロンポロン竪琴奏でてればもう吟遊詩人以外の何者にも見えないわけで・・・・・・

 

 ってオイ、これから就寝と言ってる俺を前にして鳴らすな。嫌がらせかコラ。

「早速二日酔いですか?お若いですね」

 それもありそうだが、それ以前の問題だ。眠れんだろうが。

「騒音公害だ」

「いやぁ、申し訳ありません。ですが、吟遊詩人が竪琴の心得の一つも無ければどうしようもない訳でして、ご容赦願えませんか、戦士キョン」

 剣の心得・体育の授業レベルの戦士に含みでも有るのかお前。

 

「練習したきゃ外行けよ」

「それも尤もなご意見なのですけどね、先程我々が金貨入りの宝箱を背負ってきた事は目撃されています。そして湯水の如くに浪費した。この状況で武器の一つも持たずに一人うろつくのはさすがに危機意識が低すぎるのではないかと」

 ・・・・・・ふむ。確かに。

 得体の知れない組織に所属しているのみならず、もっとわかりやすく例を出すなら昼間、俺には重い宝箱を軽々と背負っていた事から鑑みて、認めたくは無いが多分古泉は剣持った俺より強いだろう。

 しかし傍から見て、甲冑姿で腰に剣差した戦士より、背こそあるものの細身で柔和な顔した吟遊詩人の方が襲い易かろう。勇者はもちろんの事盗賊や、(手品しか使えない事を知らなければ)魔法使いよりも。

 戦闘能力がありそうに思えないからな、吟遊詩人なんて。・・・・・・って、

 

「なぁ、吟遊詩人って何ができんだ?」

 全く使えないなら古泉にも役が振られていないよな?この状況に陥れたのが何者か分からないので確証はないが、多分。

「ファンタジー小説においては語り部、でしょうか。プロローグとエピローグで振りと締めに使えて便利です。後は旅の途中の情報提供者であるとか。RPGという事でしたら・・・・・・・・・何らかの戦闘に使える特殊能力を持っている事もあるようですね」

 台詞後半から曖昧だ。この非電源好きめ。

RPGなぁ・・・・・・ゲームによってバラつきはあるが、概ね援護キャラだよな。多い順で味方パラメーターUP、敵パラメーターDown、敵ステータス異常に、味方回復あたりじゃないか」

「お詳しいですね」

 普通だ。こんなのは日本2大RPGだけでも事足りる。

「そういえば、我々のパーティーには神職系がいませんね。朝比奈さんが攻撃魔法専門だとすれば、僕が回復役なのでしょうか?」

 神職というならお前は元々ハルヒ神の信者だろうがな。しかし例え瀕死のダメージをくらおうとも、古泉に癒されたくは無い。さっさとこの世界からオサラバするにはそんな事も言ってられないかもしれないが、嫌なものは嫌だ。朝比奈さんが回復を覚えてくれる事を切望する。

 お前はせいぜい敵でも眠らせてろ。何なら魅了してろ。女型モンスターなら落ちるかもしれん。

 そこまで考えて、先程酒場でのコイツのモテっぷりを思い出してまた腹が立ってきた。

 

 所詮顔ですかお姉さま方。そしてこの世界でも美醜の基準は共通ですか。

「どうしました?」

 いくら顔が良くともこの明らかに造った感満載の胡散臭さは如何なもんですかね。ああ、対女性なら気付かないものなのかもな。

 

「よく思うんだが、手前のツラの出来が良いのを自覚してる表情は大概にしとけ。その内本気で殴るぞ」

 女性の方が多いと思うのだが、自分が美形だと良く知っていて、効果的な表情を出してくるタイプ。

 異性には効果が高いけれど、同性には大抵造っていると見破られて、何だこいつ自意識過剰だろ、と馬鹿にされたり顰蹙かったりする訳だけど、過剰でもない程度に面が整っていたりする奴には腹が立つ以外にどうすりゃいい?

 

「おや」

 古泉がわざとらしく驚いたポーズを取る。繰り返すがもの凄くわざとらしい。

「あなたから僕に忠告じみたお言葉をいただけるとは。少しは僕の事もお気にかけて下さるようになったのでしたら光栄ですね」

 軽く首を傾げて、笑みに艶を乗せて。

 異性なら軽く落ちそうだが同性にやっても嫌がらせだと、それも分かっててやってるよなコイツ。

「だから、お前のそういう態度にどれだけ俺がイライラムラムラしていることか」

「そうですね、同性から見ればさぞ苛つきもムカつきも・・・・・・?すみません聞き違いでしょうか、今何か不適切な擬音が混じったような・・・・・・」

 知るか。お前の耳の心配なぞしてやらん。

「ええ・・・・・・耳の関係ならそれで問題ないです」

 少しだけ自信の無さげだった古泉だが、ひとつ咳払いの後、すぐに通常スマイルを張り付け直した。

 ちっ、回復の早い。

 ちなみに言えば、古泉の聞き違いでなく俺の言い違いだ。純然たる言い違いな。似てるじゃないか、他意はないぞ?

 自分で言いながら何て気色の悪い言い違いを、と思ったのだが、古泉が多少とはいえ動揺したので少し楽しくなったわけだ。酒の力だろうか。

 

 

 もう少しペースを乱したままでもいいだろうに、再び竪琴を弾くその旋律に乱れは無い。

 ・・・・・・つか竪琴今日始めて触ったんだよな?長門ハルヒには及ばずとも、ちょっとあらゆる方面に器用過ぎじゃないかお前も。

「ある程度弄っていたら突然扱い方が分かるようになりましてね。天啓のように」

 竪琴操る手も止めぬまま古泉が答える。天啓って、やっぱ神職系なんじゃないのか。ああいや、レベルアップか?聞き覚えのあるSEとか聞こえなかったか?

「いえ。でも騒がしかったので聞き逃しただけかもしれません。感覚としてはそれで正解かと思われます」

 それってレベルアップの事だよな。やっぱRPGなのか?この世界は。

「なかなか有意義な経験ですよ。あなたも剣振ってみてはどうですか、戦士キョン?」

 やっぱり当て擦りかこの野郎。

 大体、お前にその渾名で呼ばれた事はなかった筈なんだが、なんだって今日は連呼されてんだ。

「失礼ながら、あなたの本名が思い出せません」

「ざけんな」

 どんだけ失礼だ。

「いえ、おそらくあなた職業『戦士』の『キョン』で登録されていますよ。あなたは思い出せますか?」

 いくら殆ど渾名でしか呼ばれないとはいえ、自分の名前が思い出せないなんて事が・・・・・・・・・あった。

「マジかよ」

「マジです」

 何だよ登録って。本当に0と1の世界に入り込んだくさいじゃないか全く。ガックリ力が抜けた。

 なんだかな、全く。ジト目でニヤケハンサム野郎を睨みつつ、

「・・・・・・古泉一樹」

「は、はいっ?」

 メロディがちょっと乱れた。いや別に呼んだわけじゃない。

「長門有希。朝比奈みくる。ハルヒは、涼宮」

 皆フルネーム覚えている。何で俺だけ渾名だよ。

「それだけその名が浸透しているという事では?もうあなたSOS団において『キョン』以外の何者でもないですよきっと」

 本名が渾名に負けるのは屈辱なんだが。

SOS団に浸透してるか否かだったらお前の下の名が思い出せるのが腑に落ちん」

「あなたも充分失礼ですよ・・・・・・」

 煩いな、今現在忘れられてないんだからいいじゃないか。

「まぁでも、そうですね。頻度は非常に低いとはいえ、長門さんがフルネーム呼びなさる方で良かったです。そうでなければ一樹が片仮名だったかもしれません」

 映画準拠か。そうだな、長門に感謝しとけ。そして何故誰も俺の名は呼んでくれないんだろうな。

「諦めましょうよ戦士キョン。いいじゃないですかキョンって渾名。今更どうしようとキョンはキョンですよ」

 だから連呼すんなマジうざい。

 

 あれ、待て。

「それはそうと、だからってお前に連呼される理由にならんと思うのだが」

 どうせ本名も覚えられていたところでろくに呼ばれない。

「・・・・・・つくづく順応性高いですよね、あなたも」

 お前にしみじみ言われる筋合いはない。いやそれはともかく、

「そうやっていつも二人称で通してるくせに、どんな風の吹き回しだよ」

「これもまた、滅多ない経験ですからね。呼べる内に呼んでおこうかと」

 何でそう期間限定的楽しみ方をしてるかね。

「いつでも呼べばいいだろ」

 確かに俺はその渾名で呼ばれる事が好きではないが、今更一人増えようが変わらない。

 そう思って軽く言ったのだが、竪琴の音がピタリと止んだ。

 

「古泉?」

 何事かと見やれば、笑顔は笑顔だが、ちょっと俯いていた。

「覚えて・・・・・・いられたら、呼ばせていただきます」

「は?」

「長門さん曰くのこのシミュレーションが終了した時、この異常な状況を涼宮さんに覚えていられると拙いのです。

 仮に招待主が同じ考えであるのなら、何かしらの処理が行われるのではないでしょうか」

「処理?」

「できれば、真っ新に消されるのではなく、夢を見た程度には残しておいて欲しいものですね。面白い体験ですから」

 ううむ、夢オチもどきにも全消去にも覚えがあるのが困ったものだ。勝手に弄られたくないのだが。

 

「全くです。折角あなたに『渾名で呼んで』と請い願われたと言うのに」

 顔を上げた古泉は、やっぱり貼り付けた笑顔だった。

「誰が言ったそんな事!気色悪い!」

「おや、今更反故なさるのですか?相変わらずつれない人だ」

 

 人差し指で唇をなぞりながら、器用にウインク。

 だからそういうのは異性の前だけにしておけというに。

 

「さっき、忠告したよな。いい加減俺も手が出るぞ」

「涼宮さんの目に留まると拙いので顔はご容赦願います」

 胸倉わし掴んで凄んだのだが、古泉の微笑はやっぱり動じない。

「ほーう、顔以外はいいと?」

「できれば、お手柔らかに」

 よし、言ったな。

 

 掴んだ手は離さぬまま、もう片方の手で肩を突くと簡単に硬いベッドに倒れた。

 夏合宿の時も思ったが、何でこう無抵抗なんだろうなこいつは。

 そんな事を思いながら、引っ張ってできた首もとの隙間に顔を近づけた。

「え、あの、ちょっ・・・・・・・」

 首筋に顔を埋めると、引っくり返った声が降ってくる。おお、動揺させる事に成功。

「何、何なんですか一体!」

 さすがに逃げが入り始めたが、俺がマウントポジションの上、朝比奈さんのローブ程ではないが甲冑を外した俺と吟遊詩人ルックの古泉では機動性は圧倒的に有利だ。

「次は手が出ると言ったのに態度を改めないお前が悪い」

「手が、って、まさか・・・・・・?」

 この状況でまさかも何も無いだろう、お前やっぱり危機意識とやら低いんじゃないかと思いながら噛み付くと、息を呑む気配とともに肩が跳ねた。

 

 まぁ、違うんだけどな。

 

 

「ちょっと、待っ・・・・・・って、痛たたた!痛いっ、痛いです!!」

 そりゃあ痛かろう。噛み切らない程度に目一杯歯を立ててるからな。

 単なる嫌がらせ的悪ふざけなのだが、先程までの会話で苛々が募っているのでどうにも無駄に顎に力が入る。

 歯に血の流れを感じる。耳の下3センチ、ここ頚動脈だよな・・・・・・って、こら古泉この状況で暴れんな。

 ぷつり、と。

「・・・っ!」

 そのつもりはなかったのだが、引き剥がそうとする古泉の動きと妙な感じに相まって、うっかり犬歯が皮を破った感触がした。

 

「・・・・・・っ・・・」

 やばい、と思ったと同時に古泉の抵抗がピタリと止んだ。

 まあ、そうだよな。この状況で無理に引き剥がしたら多分スプラッタになる。

 俺の下の古泉が全身硬直させているが、俺もうっかり殺人者になりたくないので下手に動けずにいる。

 

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 

 あ、血の味がする。

 吸血鬼みたいだな、俺。男の体液なんざ味わいたくないんだが。

「・・・・・・・・・」

 口に広がった鉄錆の味に、逆に少し冷静さが戻り、ゆっくりと歯を抜いた。

 

 吸血鬼の牙みたいに尖ってはいないため、古泉の首にはそれなりに目立つ痕が残る。

 そこから一筋、白い肌に赤い血が伝うのを見て、ああ服や布団が汚れるのは拙いと舐め取った。

「ひっ・・・・・・」

 引き攣ったような小さな悲鳴は無視して、赤い流れが止まるまで、俺はそのまま口を押し当てていた。

 

 

 

 

 そろそろ止まったか、と体を浮かすと、古泉は力いっぱい目を閉じて縮こまっていた。

 その様があまりにも普段と違って、思わず吹き出して笑っていると、古泉の瞼がそっと開いた。

 

「なあ古泉。優男が首に噛み跡なんて付けてたら、ハルヒあたりにどんな勘違いされんだろうな」

「え」

 色素の薄い瞳が見開かれる。

「優等生のイメージがた落ちだよな」

「な・・・あ、なんて事を・・・・・・!」

 古泉の顔色が赤くなったり青くなったりしている。笑顔を貼り付ける事ができないでいる。

 

 本当は、これをやりたかっただけだ。

 軽い悪ふざけだけのつもりだったのに、随分とエスカレートしてしまったものだ。

 まあ、当初の予定だった、キスマークや軽い噛み痕程度じゃここまで動揺しなかっただろうから、いいか。

 

「こ、このような痕見られたら同室のあなただって・・・・・・!」

「無論しらばっくれるぞ俺は。古泉が朝帰りしたって言うかな」

「そんな・・・・・・」

「じゃあ正直に俺が付けたって言った方がいいのか?」

「う・・・・・・」

 

 俺は古泉の反論がないのを良い事に、さっさと自分の寝台に戻り横になった。

「ああ、竪琴続けていいぞ。明日の朝までに回復覚えるといいな」

「無茶な事を!」

「お前ならできるさ副団長」

「心にも無い事を・・・・・・」

 

 文句を言いつつ律儀に竪琴が鳴り出す事にまた笑いそうになりながら、心地よい旋律に俺は目を閉じた。

 いい夢が見られそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以下オマケ。翌朝のやりとり

 

 

「おはようございます」

「ああ・・・・・・」

 妹の突撃でも目覚ましでもなく、生演奏で目覚めるってなかなか優雅っぽいよな、と思いつつ伸びをする。

 ちゃんと上達してる辺りが古泉だよな。

「二日酔いはいかがですか?生憎僕は未だ回復法を会得していないので音を控える事ができませんので、

どうかご容赦願います」

「二日酔い・・・・・・?別にないな」

 むしろ近年稀な程清々しい目覚めだ。

「・・・・・・・・・そうですか」

 何か残念そうに見えるのは気のせいか古泉。

 地味に復讐したかったのか実は?

 

「で、お前は?」

「おそらく眠りに誘うであろう曲が浮かびましたが、回復はまだ・・・・・・」

 爽やかな朝だというのに、爽やかスマイルは身を潜め、美形面には焦りが見え隠れしている。

「・・・・・・目立ちますか?」

 首に手を当て訊ねてくる様子は頼りなく、ちょっと苛めすぎたかと反省する。

「お前、ほんと電源ゲームに疎いのな」

「は?」

 俺の二日酔いもそうなんだろうけど、あのな古泉、

 

RPGってのは、宿屋に泊まるとどんな怪我も全回復するもんだ」

 

 

「・・・・・・え」

 ポカンとした古泉も珍しい。

「お前の首も、綺麗に治ってるぞ」

 その跡形もない様子は、残念なほどだ。

 

 

 赤くなり言葉を紡げずにいる様子もレアもので、

 もしこの記憶が消されるにしても、印象くらいは残っていて欲しいものだと思った。