聖なる夜の贈り物

 

 

 

 

 夜を忘れさせるような煌びやかな照明。

 競い合うように響き渡る音楽。

 おそらく1年で最も華やかであろう日。

 

目的も無くふらつき回る。

この奇妙な島国は信仰心が薄く、宗教行事には無節操。

聖なる夜と呼ばれる日に不釣合いな賑やかさ。

だからこそ、居心地が良い。

僕のような夜の者も容易く受け入れてくれる。

 

最近は随分と仕事も減って、空いた時間に下界の様子を直接見て回るのも楽しみのひとつ。

この前韋護くんがお土産にくれた雑誌を参考にしてるから、格好もそれほど浮いてない筈。

まあたまに

「どちらのバンドの方ですかー?」

 …………こんな声がかかるけど。

 

 いい加減あしらい方も判ってきて、愛想良く追い払える。

 適当なベンチに腰掛けて軽くため息。

 …………多分、髪のせいだろうな。

 青い髪はまだまだ珍しい。

 陽の下では染色ではありえない事が判ってしまうかもしれないから。

 夜しか出歩かない僕は、だからあの人に会う事はない。

 

 昼の似合う人だった。

 陽の光を放つようなあの人。

 もう何千年も会っていない。

 もはや生きているかどうかも判らない。

 この星の行く末にあまり興味のない人だから、

 気まぐれに消えていても不思議はない。

 

 どっちにしろ僕にとってあまり変わりはないけれど。

 

「……………やだな」

 ポツリと呟く。

 何だか今日は思考が暗い。

 帰ろうかな、と腰を上げようとした時、

 突然、視界が白くなった。

 

 

「え……………」

「喰うか?丼村屋のアンマンだが」

 ほかほかと、湯気を立てている白いもの、を差し出す手の先には1人の少年。

「師……………ぶ」

「いいから受け取れ」

 口元に押し付けられたアンマンを手にとり、軽く睨む。

「おお、スマンスマン」

 全然悪いと思っていない笑顔に力が抜けた。

「……………アンマンでナンパされたのは初めてです」

「良い経験ができたのう」

 

 

 

「それで、何処へ連れて行ってくださるのです?」

 1つ路地に入ってしまえば、賑やかさはそのままに、華やかさはフィルター越しに。

「そうだのう…………」

 くるりと振り返ってニッと笑う。

「何処が良い?楊ゼン」

 

 懐かしい声で紡がれた名を聞いた

 あまりに自然に呼ばれたから

 記憶に残るそのものだったから

 間の刻を忘れました

 流れた時間などなかったのだと

 

 

「高い所に。遮るものの無い場所へ」

「了解した」

 

 空気がくぐもった音をたて、腕を引かれた先は景色がまるで違う場所。

 先程まで頭上にあったネオンが足下に散らばる。

 

 人は、間近に星を造りだしたのか。

 

 

「たまには上から見下ろすのも良いものよのう」

「何とかと煙は……………と言いますしね」

「普段最も高い位置にいるものが何を言う」

 

「馬鹿でいいですよ。……………貴方が仕組んだ事ではないですか」

「任せただけであろう」

「押し付けた、でしょう。

 ……………帰ってくる気はないのですか」

「………何処に」

「あなたを待つ者の処へ

 もう貴方が戻ったところで頼ろうとする者はいませんよ。

 大部分が神界へ行きました。僕の役目が終わるのもそう遠くないでしょう」

「ふむ」

 夜の街を見下ろす姿はとても自然。

 ああ夜も似合う人だったんだ。

 

「ならば、わしを待つものが1人になった時点で顔を出すか」

 それは、己が闇を受け入れたゆえだろうか。

 ………いや、違うか。

 

 楊ゼンは、泣きたいのか笑いたいのか判らない顔をした。

「いいんですかそんな事言って。残っている者達を片端から惨殺しかねませんよ」

 

 本気………だろう。幸か不幸か実行するだけの力を彼は持つ。

 

「好きにするが良いよ」

 昼も夜も、この人の前では意味を為さないからだった。

 

「………………………」

 ふ、と短く息を吐いて

「しませんよ。良くも悪くも僕は貴方に託された。

 あなたの格を下げる事はできません」

 

 

 

 

「でも、証をください」

 

「ただ待つには長いです」

 

 

 

 頬に添えられた手に目を瞑る。

 

瞼に、額に。そして唇に柔らかい感触の降りるのを感じた。

 

 

 

目を開けると僕は1人でそこにいた。

初から、誰もいなかったように。

 

幻ではない、と口元に手をやり、片手がふさがったままな事を思い出した。

「やだな、アンマン片手にシリアスやってたワケ?」

 傍から見たら間抜けこの上なかったであろう図を脳裡に浮かべ、思わず吹き出した。

 

 

 ひとしきり笑うと何か気分がすっきりした。

 本当は、もう限界だったのだ。

 待っている限り現れないであろうと判っていて

 それでも待つことをやめられない。

 

 いっそ神仙二界、まとめて無に帰してしまおうか。

 何度思った事だろう。

 

 僕がそんな行動をとるのなら

 それはきっとあの人の意思でもあるのだろうと。

 

 

 けれども会いに来た人。

 もう少し、コマである事を続けてもいいかと思う。

 

 

 

「久しぶりに哮天犬で帰ろうか」

 ああでも、今晩空を飛んでなんかいると別の者と間違われるかも?

 

 トナカイじゃないけど。

 赤い服でもないけれど。

「誰彼構わず贈り物をしてもいいかもね」

 そのくらいには機嫌がいい。

 

 自分にとって奇跡のような贈り物を、確かに受け取ったから。

 

 

 聖夜というのも捨てたものじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

封神、難しいです。

去年のクリスマス用だったのにサイト開くのに手間取ってこんな季節外れに………(泣)

タイトル決まらんー!仮ということで!!

 

 

 

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