猫の森には帰れない―――Sideクラピカ
5年振りの我が故郷
5年も前の誓いの言葉
すべてを終わらせ帰って来ます
だからこそもう2度と 私はこの地を踏まぬだろう
心の片隅でそんなことを思いながら
それでも私は帰ってきた
5年振りの我が村は
小さな私のたてた墓 そのいくつかは倒れ伏し
名も無い草に埋もれてた。
それは生者の居ぬ証
だからこそ変わりなく 染み込む血色が見えるだろう
そうして私は帰ってきた
5年振りの我が家は
崩れた瓦礫も風化して 眺めよく内部をさらけ出す
死者の場として相応しく
だからこそ未だ猶 母の骨すら見えるだろう?
ゆえに私は帰ってきたよ
ただいま 私の帰る場所
よろしく 私が還る地よ
我ながら、失礼な奴だと思う。
上司にも、同僚にも。
そして散々巻き込んだ、大事な大事な『仲間』達。
誰にも、何にも言わないで、こんな所にひとりいる。
それでも、すまない私はここの者で。
帰るべき場所はここなのだ。
(死ぬ気は、ないよね?)
耳に蘇る、おそらくはすべて見通している彼の声。
(あるなら元より離れはしない)
1度この地を離れた私はすでに異質な存在で。
それでも、ここは私の還る地で。
けれども、異質な私にはまだその時ではないから。
なにも変わらぬこの地にはまだ受け入れてもらえない。
なにも、変わらない。変わっていない。
私の好きな赤い茸も、懐かしい朝のそよ風も。
家も、墓も、血の跡も。
すべてがあの日の記憶通り。
眠るみんなもあの日のままに。
村はずれ。
クラピカは1本の木の前で立ち止まる。
いつも水汲みに通った道。
記憶通りの枝々。何も変わらない。なのに
――――――――――――?
何かが記憶を掠った。
ああそうか、これは―――――――
「えっと、さ。クラ…ピカ?」
下山中の、事だった。
「?なんだキルア。」
名を呼ばれるのはまだ2度目。
さすがに覚えていない訳でもなかろうし、途切れがちなのは不慣れなせいだろう。
距離を測りかねるのも当然だ。
ほとんど話したこともない、それでも迎えに来た『友達』、な私。
今の彼には己を認める者は1人でも多いほうが良いのであろうし、無理にでも名くらい呼んでおきたいところなのだろう(実際レオリオの呼び名も変化している……間違っていたが)。
だから私も名で返す。
1度でも多く呼んでおこうと思うから。……友として。
「あの、木。見て。」
示された方向には確かに1本の木。
「どうかしたのか?」
普通の木だ。特に変わった所は見られない。
かすかに見覚えがある気もしたが。
「あの木にさ、猫がいたんだ。
あんたに……クラピカによく似た。」
「猫……………そう、か……」
意図は掴めないが、おそらくは先日の意趣返しだと思う。
そう言えば、あの時の木に似ているかもしれない。
「そうそう。」
「へぇ……」
それは多分、私達2人にしかわからない事で。
だから私は、少しだけ笑った。
それを見て、キルアも同じように笑った。
笑いあった。至極、自然に。
普通の、子供みたいに。
仲の良い、友達みたいに。
それは、悪くない刻だった。
心地の良い、刻だった。
似ている、と思う。
キルアの示した木にも。
キルアが登っていた木にも。
そして、
やはりキルアはあの猫に似ていると思う。
短い時期ではあったが、毎日見掛けたあの猫に。
見上げると、いつもいた。
声を聞いたことはない。ふと気付くと消えていた。
閉じた世界、繰り返す日常のなか、それは異質な存在で。
青い瞳、銀色の毛並み。
小動物、それもまだ仔猫だというのに何だろう、この風格は。
思わず視線が釘付けになる。
猫は逃げない。確固とした意思があるのを私は感じた。
閉じた世界、繰り返す日常。
自我はいらない。己を殺して生きること。
それが、『正しく生きる』こと。
…………本当に?
本当にそれが正しいか?
私は、その猫に憧れた。
己の生き方を貫く様な、自信を漂わせた様相に。
それからしばらく、その猫との見合いが始まった。
クラピカは、目を瞑る。
あの姿を正確に思い出そうと。
それでも、再現しようとすればするほど、その影は薄れてゆく。
だから、きっと。
目を開ける。
斜め上。
いつも猫がいた場所、あのときキルアがいた場所。
そこにはあの日のままの猫。
あの日のまま、何も変わらぬ…………
「………違う………」
確かにそこには、青い目の、銀の毛並みの仔猫。
みゃあ。
「…………うん……」
本当は。
「わかってるよ。………わかってる。」
ずっと、知っていた事だから。
「本当に?」
声は、後ろから響いた。
振り向いた視界に映るのは、
見慣れた銀の髪、青い瞳。
どうしてここに、とか何の用だ、とかいうところなのかもしれないけれど、
「……変わらないものなど、無い。
私も、あの猫も、………この地も。変わっていない筈が、無い。」
キルアは、笑った。安心したように。安心させるように。
「うん。よかった、ほんとにわかってるみたいだ。」
キルアは、変わった。こんな笑い方昔はしなかった。
笑いながら、少しずつ近寄ってくる。
「知っていたよ。
血溜りなど、どこにも残っていはしないし、骨はすべて土の下。
掘り起こした土も、草に覆われて見えもしない。」
あれはもう、5年も前のこと。
「もう『私の目にも』見えないことを知っていた。」
「還りたいと、思う?」
目の前に来たキルアがクラピカの顔に手を伸ばす。
いつの間にこんなに背が伸びたのだろう。
その変化に、初めて気付く。追い越されるのも時間の問題だ。
「還れない。還る場所は、ここではない。
あの日から、この地を離れた時からここはもう見知らぬ土地だ。」
ペロリ、と頬を舐められ涙に気付く。
キルアは、体を離して、手を差し伸べた。
「わかったんなら、帰ろう?」
「…………どこへ?」
「還る場所なんか、今探さなくていーからさ。
1緒に、『帰ろ』?
いつまでも1人でいたら、知らずに『還っちゃう』かもしんねーぜ。
ここじゃ、ないんだろ?」
どーせろくに食事も摂ってねーだろ、と笑う。
「確かに、な。それで迎えに?」
「そゆこと。
3度目だぜ。帰ろう?クラピカ。」
チラリ、と木の上を見上げるが、そこにはやはり、なにもいない。
「……そう、だな。」
海の底か、雲の合間か。
もうどこだかわからない地を探すよりも。
クラピカは、ゆっくり手を伸ばす。
今、帰る場所がある。
その事の方が大事なこと。
「帰ろう、キルア。」
変わらないものなどありえない。
いつか繋いだこの手とも離れる日が来るだろう。
還る時はみな1人であることを、誰よりも知っている我々だから。
それでも、今はこのぬくもりだけを想っていよう。
いつか、その日が訪れるまで………。
そんな訳でのリベンジ編。しかし歌詞を使えば良いというものではない。曲に合ってないのは変わらない。あの曲は明るい曲でっせ?
それにしても最初の詩もどきは何だろう?
最初、何も考えずに語呂の良さそうな文をつらつらと綴っていたらエセ古文しかも狂ってる系になって慌てて消したことなど誰にも言えはしない←言ってるし。