おもちゃ箱の秘密

 

 

 別に忘れていた訳ではなかった。

ただ特別なものという認識は既になく、期待など無論、していない。

だからこそ、なかなかの不意打ちだった。

 

 

 

「で?これをどうしろと?」

 クラピカはそれを見て早々言った。

 呼ばれた玄関にはひとつの箱。

 プレゼント用にラッピングもされている。ただし……

「宛先がお前なんだし持ってけよ。ここにあっても邪魔くせえだろ。」

「いちいち和歌調に文句を言うな鬱陶しい」

 俳人でもある同僚の言うとおり、邪魔な事この上ない。

 何故って大きさが並みじゃない。1,5メートル四方というプレゼントとしてはいささか常識外れな代物だ。

 この馬鹿でかい家でなければ扉をくぐれなかったかもしれない。

「そうよクラピカ。差出人見たでしょう?危うく検査のために開封されるところだったのよ」

 差出人はゴン、キルア、レオリオ連名。数少ない心許せる仲間たち。

 それに気付いて止めておいてくれたと言うセンリツ。まあ不審物この上ないしな。

「貴方、個人で狙われるような心当たりないでしょう?」

 どう見ても旅団等の手口じゃないし、闇の要人の護衛といってもほとんど顔も漏れてない筈、交友関係を調べられる事はないだろうと思いうなずく。

「そうだな。せいぜい豚に刃物を突きつけたり殴ったりした程度だ」

「…………やっぱり検査した方がいいかしら」

 少々顔を引きつらせながらセンリツは言った。

 

「誕生日だったのね」

 箱に添えられたカードをひらひらさせながらセンリツ。

「まあ、な。しかしあいつら、人騒がせな物を……」

「クラピカ………喜んでるのか困ってるのか恥ずかしいのか、ハッキリした心音にしてくれない?聞いてる方が混乱するわ」

「というか聞いてないでくれそんなもの。プライバシーの侵害だ」

「だって聞こえるんですもの。ちなみに喜・困・恥で6:2:2くらいかしら」

「誰が分析しろと言ったぁ!!」

 ゴン達に会ってクラピカの良き理解者となっているセンリツは………もしかしたら少しばかり暇なのかもしれない。

 

 

「とりあえず部屋に運んだら?」

「そうだな」

 手を掛けると、見た目に反して箱は異様に軽かった。

「……さすがに本人が入っているほど馬鹿じゃないか」

 まあ、そんな使い古されたギャグのような真似をすればセンリツが気付かぬ筈がないしな、とちらりと彼女の方に目をやると、妙に複雑そうな顔をされた。

「ホッとするのか少し残念なのかはっきりしてくれない?」

「放っておいてくれ」

 また比率を出される前にさっさと退散した。

 

 

 ひとまず個人に与えられている部屋に置いたが、このままという訳にはいかない。

 鋏と箱を交互に見やり、しばし後クラピカは自分でも意外なほど丁寧に包みを解き始めた。

 紐をほどいて、包装紙をひろげて………

 そして蓋を開けた瞬間固まった。

 

 現れたのは等身大ぬいぐるみ三体。

 すなわちあの三人の。

 

「…………………こんな物送って、どうしろというのだ」

 馬鹿だ。バカだばかだ大馬鹿だ。

 手作りか?いや、オーダーメイドだろうか、よく出来てる。

 よく、似ている。

 じっと見ていると妙な気分になってくる。

 

 ふと、人形達がカードを持っている事に気付く。

『ゴン』が持っているものには

オレ達だと思って大事にしてね  ゴン

『レオリオ』は

根詰め過ぎんなよ  医者の卵からの忠告

そして『キルア』は

 

 何も、持っていなかった。

 …………ある意味、彼らしいと言えば彼らしい。

 

「『オレ達だと思って』………か」

 人形。ニンギョウ、ヒトガタ。

 ヒトを模して作るもの。人の分身。

 魂を、想いを込めるもの。

 

「…………嫌だな」

本当によく似ている。

 あの三人が一緒にいるような気がしてくる。

 そうなると、なんだか。

 馬鹿みたいだけど。

 でも、『三人』だから

 箱の中身は三人で…………私は

私が、

私が 『ここ』にいないのは   嫌だ

 

 思考はそこに終結し、我ながらその子供じみた感傷に嫌気がさす。

 

 私も。

 私も作ってくれればよかったのに。

 肝心なところで気が利かないのだから、と八つ当たりな事を思いながら『彼ら』を箱から引きずり出す。

 『ゴン』と『レオリオ』を部屋の隅に並べ、『キルア』を抱き上げたところでカサリとした感触に気付く。

 首の後ろ部分に紙片が挟んである。

 そこには一言

『それ』が、今の俺達の気持ち

 

「……………………馬鹿」

 何だ、確信犯じゃないか。

 

 負けたとは思いたくないから。

 付け上がらせたりしないように。その為に、だ。

 来年は

来年は 休暇を取ろうと そう決めた。

 

 並べた人形達が笑った気がした。

                                                                                        

『誕生日おめでとう』

 

 

 

 

fin

 

 

 

クラピカお誕生日小説でした。

今書き途中の話が堅い口調な反動か、なにやらクラピーが頭悪そう。ま、たまにはね。

ところで思音嬢からのメールより、4月4日の誕生花・花言葉は「アネモネ(赤)・君を愛す」「かすみ草・清らかな心、静心」との事。今回のクラピカは愛されてはいても心静かじゃないなぁ(笑)珍しくキルア優勢。出てないけど(大笑)

タイトルはクレヨン社。特に意味はなし。いつものごとく浮かばなかったもので。

 

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