久しぶりに街に出た
清浄で、新鮮な空気で充ちた森と比べると
その街は明らかに埃っぽく、乾ききっていた
砂煙りの街
修行熱心で大変優秀な御弟子さんの手を煩わせないよう、買い出しなどは俺の仕事だ。
・・・・・あのガキ俺の言う事なんざ聞きゃしねぇ。
ともあれ、折角下山するからには久々の都会の空気を存分に味わっておこうじゃないか。
こんな時にしか羽を伸ばす機会はないんだしな。
・・・これが伝授する側の言う事か?
食料と消耗品を買い足して、最後に自販機でタバコを1箱
これを見て、またあの馬鹿弟子は顔を顰めることだろう。
(別に、仮にも己の師が副流煙のことすら知らぬ愚か者だとは思っていないし、
例え環境汚染に貢献していようと、教えを請う立場の私が何か言えるものでもないしな)
それだけ言えりゃあ充分だ
少なくともクモを見る度に森林破壊している奴に環境がどうこう言われる筋合いはねぇ!
師の身体を心配して、なんて言葉が一切ないのはもう当然過ぎることだろう。
そんな優秀な弟子を持って、精神安定に1箱だけでもってる俺の忍耐強さを認めてくれ。
ねぐらにしてる掘っ立て小屋まであと少しというところで、水音を聞いた。
ところであの馬鹿弟子は、どうゆう訳だか川辺で修行を行う。
でもってオーラを使い切るほど集中して、倒れる。
荷物を放り出して音の方へ向かうと、予想と違わず流れてくる弟子の姿。
何度目だと思ってんだテメェ・・・
小屋に放り込むと、俺は荷物をとりに戻った。
何だってアイツが水辺に拘るのか俺は知らない。
ただ、最初の頃1度だけ思いつきで言った事がある。
(誤魔化したりしねぇで、たまには泣いたらどうだ)
思いつきとはいえあの頃の俺を馬鹿にしたい。
そんなタマじゃないことぐらい悟れ。
(理由がないな)
事実、見下げ果てたといった声と表情で。
俺は2度と言うもんかと誓ったものだ。
小屋に戻ると、気が付いていた馬鹿弟子が、荷物の1番上にのっている煙草を見て案の定眉を寄せた。
俺はうんざりしながら、おそらく最後であろう皮肉を聞き流した。
そう、最後、だ。
この煙草が無くなる頃には、生意気だが確かに優秀なこの弟子の鎖は完成する。
もうじき、だ。
「やめとけ、復讐なんざ。」
きく訳ないと判りきっているのにもかかわらず、言ってしまうのは何故だろうな。
出発の準備をすませたアイツは、目を合わせようともしなかった。
「その位にしておけ。」
沈黙を破ったのはアイツの方で、何の事を言われたのか判らなかった。
「身体に悪い。」
そう言って伸ばされた手は、着火したての煙草を奪っていった。
確かに今日は吸いおさめとばかりに吸っているが、そんなこと言われるとは思ってもみなかった。
「今更だろ。」
それに、ストレスの種が消えればあまり吸うことも無くなる。
「そうか。」
呟くと同時に奴が未だ火の消えていないそれを銜えたことに驚いた。
「おい、未成年。」
「今更、だろう?」
今更、か。ああこりゃ止められねぇな、と思った。
だが、オマエはまだだ、と思ったのも事実。
「最後くらいは、理由をくれてもいいだろう?」
「何の・・・・・・」
聞こうとして、止めた。
何の表情も浮かべないままで、それでも瞳を揺らす水に気付いたから。
「こんな物、よく吸ってられる。」
水滴が溢れても、その声音にも一切乱れは無く
「ひどい味だし、目にしみる。」
泣いてなどいないのだと告げていた。
何か、言うべき事がある気がしたが。
そんな言葉は音になる前に死んでいった。
そうして俺の馬鹿弟子は、最後までやはり馬鹿のままに去って行った。
久しぶりに街に出た。
清浄で、新鮮な空気で充ちた森と比べると。
その街は明らかに埃っぽく、乾ききっていた。
砂煙の街では、煙草を探さずとも理由なんぞ溢れている。
誤魔化すなとは、もう言わん。
ただ、そうして守っていたものは絶対に失くすな。
もしもそんなことになりやがったら、あの時の言葉の死骸でぶん殴ってやりにいこう。
1度くらいは師匠の言う事も聞きやがれ。
いいな馬鹿弟子―――クラピカ
Wind Climbing11と同時に書いた初師クラ小説。11をUPさせるついでに私の師クラ感でも判っていただくかと。
麦飯亭さんに寄稿していたのを、閉鎖されたのでリサイクルでお目見え。
煙草ネタのタイトルにザバダックを使ったなんて、ザバFANで極度の煙草嫌いの相方の目に触れたらシメられる!と隠していたのですが、見つかって案の定シメられましたのでもういいやと。
そういった理由でこのサイトでは煙草ネタはほとんど出てきません。
キルクラのネタもあるにはあるんですけどね。小ネタでこんなのとか。きっと陽の目を見る事はないでしょう。