ガレキの楽園・後編

 

 

 

 

『最終戦において、降参はありえない。死を確認することによってのみ勝者と認める』

「「なっ!?」」

 闘技場に着いて、告げられた言葉に2人は顔を見合わせた。

 

 それきり開始の合図さえ無しにスピーカーが沈黙しているのは、やはりドラマ性を演出したいのだろう。

 すなはち、2人で何か話せと。

 これまでの試合、当たった相手ほとんど(不慮の事故1名除く)殺していないのが解ってこうなったのだろう。そう言うからにはきっと誰かが死亡確認するか、見るからに死体になるまで大物はお出ましにならない。

さて、どうするか。

 

 先に動いたのはクラピカだった。

 両手でキルアの手を取り、告げる。

「1度………戦ってみたかったのかもしれない。

 …………だから、本気でやっていい。殺しても、いいよ」

 あっちには聞こえるか聞こえないかの声。……本気なのかもしれない。

 雰囲気に呑まれたのか、キルアもそんな気分だった。

 

 大観衆の真ん中で、少し永めのキスをして、離れる。

 同時に…………スタート!

 

 

 

 身を翻して手近な瓦礫にすべり込む―――――前に頭部付近の塊が弾け飛んだ。

 クラピカも遮蔽物の裏から撃ってきている。

 あちらの方が距離的に短くはあったが、構えるまでの時間を考慮して余裕はあると踏んだのに。

 なかなかどうして、使い慣れている。

 なるほど、言うだけあって、強い。

 破片で切ったこめかみから血が流れた。

 面白く、なってきた。

 

口元に笑みがうかんだ。

 それは向こうも同じ。

 ゆっくりと照準をあわせる。

 視線の先にはいとしい人。

 

 

 キルアは瓦礫の土台、脆そうな部分にアタリをつけて、撃った。

 途端に崩れ出した壁は、最早盾にはならない。

 慌てて走り出すのを追って発砲する。二発。

 フルで六発。装填を許す相手じゃないから残りは三。

 

 

身を隠すのに適した瓦礫は意外と少なく、自然、クラピカは彼と程近い地点に滑り込むことになった。

 壁越しに、キルアが慎重に歩み寄るのがわかった。

 彼の足音は全く聞こえなかったけれど、確かにわかる。

 しばし、様子を伺うという沈黙が訪れた。

 準備を、しなければ。

 

 

 

 狙った効果は双方同じだが、僅かに早くクラピカの方が半壊した壁に蹴り込んだ。

 よってキルアに倒れこむ壁に乗り上げ、避けた所を狙い撃ちする。三発。

 しかし当然の如く読まれていた弾丸は、掲げられた壁の一部の漆喰をはぜさせたに過ぎなかった。

 無論のこと、彼からの攻撃が来る。

 そう思い蹴り上げた足元の石は、見事一発目の銃口をそらすのに役立った。

 

 お互い、残りは二発

 

 キルアはすぐさま構え直し、撃ち込むと同時に走りこんだ。

弾丸が、クラピカの首筋を掠めた。

白い肌に、一昨日キルア自身が付けた赤い痕。

 その上に紅い血が伝うのを、高められた集中力によってはっきり捉えた。

 ゾクリとした。

 ヤバい、こんな時なのに。

 もっと、見たいと思った。

 

 回避行動にでた頭部に向けて、最後の一発。

 金糸が数本焼き切れた。

 至近距離で音速の物体が通過したことで、鈍器で殴られたような衝撃を受ける。

 戦闘慣れしていない者ならば意識を失うだろう。

事実、これまでの試合でよく使った手である。

 

 クラピカの体が傾いだ隙に、横手に回りこんでいたキルアはバレルでもってその後頭部を強打した。

 

 

 

 

決着はついた。

 うつぶせに倒れたクラピカはピクリとも動かない。

 殺せと騒ぐ観客達。

 しかしその声も今はよく聞こえない。

 ドクドクと自分の心臓が煩かった。

 その音が、このままでは収まらないことを告げていた。

 この血を静める方法を、命令する。

 

 キルアは暗示にでもかかったかのように表情がなかった。

 ただ手だけが動いてゆく。

 一発だけ、弾を取り出し装填する。

 

 暗殺では頭部は狙わない。

 頭部とは、血の詰まった容器と表現されることがある。

 

 だからこそ

 

会場に 金の花芯の 美しい真紅の花が咲いた。

 

 それは、ひどく甘い芳香の花だった。

 

 

 

「あ……………………………」

 我に返ったかのように銃を落とし、呆然と立ち尽くす少年に向けて、勝利者へのファンファーレがなり響いた。

 

 

 

 

 

 空ろな目をした少年のもとに、男達が降りてきた。

「見事だった。勝利者である君を市の代表として心より――――――――」

 屈強な男たちに周りを囲まれた男が話し出すのを、少年は聞いていなかった。

ぼんやりとその方向に顔を向けた少年は、

「念能力者4人。こりゃ本物じゃん?」

 笑みを浮かべてしっかりとした口調でそう言った。

 

 

「なっ!キサマ――――――!」

 そして一瞬うろたえる奴らを尻目に、

「間違い無い。手間が省けた」

 答えたのは『見るからに死体』だった。

 

 

 男達が反応するよりも早く、クラピカは手にしたままの銃を発砲した。

 瓦礫の中、前もって置いておいた爆弾の、安全弁が弾き飛ばされた。

 

聴覚を奪う爆音と、視界一杯の土煙。

 

 男達は気配を探ろうとし、そして途端に膨れ上がる見えない敵の強大なオーラを感じ取り愕然とした。

 それでも向かってきた者達をキルアが撃退している頃には、

「動くな。まだ一発残っている」

 絶を使っていたクラピカは市長の喉もとに銃をつきつけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「残念だったね」

 一通り暴れまくって、一段落ついたところでキルアが言った。

「緋の目か?まあそんなところだと思っていたから」

 頭を洗ってきたクラピカはさして感慨もなしに答えた。

 

「しっかしいつもながら用意のいい事で」

「血糊など、常套手段だろう」

 キスをカムフラージュに渡されたペイント弾。

「まあ、ね。しっかしなんだってイチゴの香り?」

「試しに買った市販品だから。和むだろう?」

 和んでどうすんだよ。

 

「ま、確かにね。あの時はかなりヤバかったかも」

 その子供っぽい香りはなんだか緊張感の抜ける代物で。

 嗅覚ででも和んでおかないと、きっと視覚からくるものに負けていた。

 まだ、思い出すとゾクゾクする。

 血塗れの想い人は、とても綺麗に見えた。

「多分、あれが実弾でも撃ってた」

「………………」

「なんか言えよ」

 危ない奴だ、とかでもいいから何か、と思ったのに、

「愛されてるなぁ、とか?」

「は?」

 思わずマヌケな声を出してしまった。

 

「何でそういう結論になるの…………?」

「私が、そうだからかな」

 キルアの頭を抱き寄せ、こめかみの傷に口付ける。

「お前が傷ついてると思うと興奮する」

 そう告げた笑みはひどく艶めいていた。

「アンタもやばいね」

「当然だ。何故お前を呼んだかを考えればね」

どういう意味、と訊こうとした矢先。後頭部に、固い感触。

「ちなみに実弾だ」

 ハンマーをおろす音。

「………………平和ボケしたかな」

 いくら纏を使ったところで、ゼロ距離間では助かるまい。

「困った事に先程から引き金を引きたいという衝動が収まらなくてな」

「じゃあ、撃てば?」

「冗談を。こんなところで人生散らす気はないよ」

 ハンマーを戻したのがわかった。

「別に、反撃しないよ?」

「それでも。君を撃てば私も壊れる」

 さらりと告げて背を向ける。

 

 いくら背が追いついても

 たとえこの先、年齢差が気にならないくらいの歳になったとしても

 きっと、かなわないんだろうなぁと思う瞬間。

 

 

「キルア」

「はい?」

「まだ、休暇が残っているんだ。良ければ付き合わないか?」

「ハイハイ、どこへなりとも。…………今度はどこ?」

「信用しろ、本当にただの休暇だ。どこに行きたい?」

 どこをとって信じろというのか謎だけど、

「のんびりしたい、かな。二人っきりで」

「そうだな。無人島でも探そうか?」

 そんな冗談言って笑えるうちが華だから。

 

 たとえこの世の果てだって、ついて行くって決めたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

MITURUさんのリクエスト

「小道具に銃のでてくる話」でした。

割と自由度の高いリクだったので好き勝手やってみましたが、勝手すぎたかな?アクション系書いたのは初めてです。

銃について全然くわしくない者が書いた物なので、誤魔化しまくってはいるもののいろいろとおかしな所もございますでしょうが、広い心で読み流しください。

MITURUさん、こんなんでよければお受け取りくださいませ。

 

 

タイトルは新居昭乃でした。

 

 

新種展示館に戻る

案内板に戻る