革命前夜

 

 

緑溢れる小高い丘に

ひっそり佇む白亜の城

決して大きくは無いが上品な建物には

我らが若き領主が住んでいる

 

 

 

 優雅な金髪、上質の琥珀の瞳。

 はー。

 歳若いのに見事に領地を纏め上げる、才色兼備で有名な領主様は………

 ふー。

 領主様は………溜息をつかれていた。

「クラピカ、溜息付いてると幸せが逃げるよ?」

「逃げるほどのものがあるとは思えんが?」

「我侭だな。周りが羨むような生活にいてこれ以上何を望むというのだか」

「お前が消えればいいんだお前が!」

 ビシィ!!と指差す先にいるのは宰相・クロロ。

「人を指差すのは行儀が悪いな」

「知ったことか」

 ここ数年、毎日これが繰り返されている。

 

 クロロは、5年前両親を事故で亡くしたクラピカの補佐をしてきた人物だ。

 統治するには未だ幼すぎたクラピカに代わり、2年前まで政治を取り仕切っていた。

 ………というのが公式見解。

「実のところ未だにお前が牛耳ってるではないか」

「国なんてえてしてNo2の方が動かしてるものだよ」

「それにしてもここまで君主たる私の力が弱いのはおかしいが」

 なにせ城内においてもクラピカと接触できるのは12人。いづれもクロロの腹心の部下たちのみ。

「えー?君、強いでしょ。この前ウヴォーと決闘して勝ったって聞いたよ?」

 そのうちの1人、シャルナークが口を挟む。

「その力じゃない!それとお前らあいつを何とかしろ。事あるごとに再戦を挑んでくる」

「性格上、奇襲はないだけましと思いなよ。ね、団長?」

 彼らはクロロを団長と呼ぶ。

 何の団かと聞くと、旅団だよと答えは返ってくるが、それ以上の説明はない。意味ありげな微笑が不気味でそれ以上聞けない。

 旅団というからには陸軍に関係あるのだろうか?我が領であるのに軍事関係のことも良く知らないのが歯痒い。

 ついでに言うと、「旅団の活動をしてくる」と時たま消えるクロロ(達)が、何故その際にはオールバックにするのかも少し気になるがこれはまあいい。

「そうそう。それにしてもウヴォーをいなす程強くなってるとはね」

「そうでなければこんな危なっかしい城に居られるか」

 クス、とクロロは口元に笑みを浮かべ

「ご両親が存命ならば良かったのに?」

 ピク、と微かに震えるのが見てとれる。

「……お前が殺したのでは?」

「あはは」

 少しでも、とクラピカは思う。

 何度も繰り返したやりとり。この時に少しでも否定してくれれば。

 後の事は騙されてやっても良かったのに。

 こうなればいつまでも傀儡ではいられない。

 

 

「今晩、ゾルディック家から女が来てるから」

「ゾルディック家………?何故だ?」

「何故って、今度娘が嫁ぐからって、初夜権」

 領民の物は領主の物。領内の娘の初夜権すらも領主の物。

 そんな事が当たり前だった時代。

「そうではなく、ゾルディック家といえば名家ではないか」

「この領一だね」

「何故バターではないのだ?」

 娘の処女を捧げたくない場合、娘の尻と同じだけの量のバターを換わりに献上すれば免れる、という妙な決まりがあります。

「さあ?君の外戚でも狙ってるんじゃないの?気に入られさえすれば行き先が決まってようがここ以上の嫁ぎ先はないし」

「…………なんにしろ必要ない。帰せ」

「必要ないって、君さあ………。毎回断ってるけど、世継ぎを造るのも統治者としての勤めだよ?」

「幼少の頃から手懐ければ意のままに操れるものな?この目を持つ者さえ生まれれば私は用済み、消されると解っていてどうして種付けに精を出せるものか」

「いまいち品の無い物言いだなぁ。ある意味事務的というか。まあいいけど、その歳でそんなんだから、実は女だの不能だの俺とデキてるだのって噂が出るんだよ?」

最後の噂流した奴捕まえて来い

「捕まえてどうする?」

「見せしめ処刑」

 目がマジです領主サマ。赤いです。(実は)領主の証の目の色発揮です。

「うーん、なかなか派手で面白そうな催しではあるんだけど、国民を半分にするのはちょっと賛成できないな」

「そんなにいるのか!?」

 しかもその手の噂の好きなのは若い世代だろうから、処刑するとこの国の未来無いな。

 いっそつぶしてやろうかそんな国。

 なにやら不穏な思考回路。

「まあまあ、上司の噂話が出来る程に余裕のある暮らしをしてるいい国ってことだって」

「それは実際に政権を握ってるお前の自慢か?」

「そうかもね。ついでに政治上ってことで言わせてもらうなら、名家の娘を突き返すのは返って失礼だよ」

「そんな、嫁入り前にわざわざ傷物にすることはないだろう………」

「…………なんでこの環境で育ってそういった考え方が出てくるのかがすごい不思議」

「あいにくと、父様は民の事をよく思いやる領主であったからな」

「ふむ、若くして亡くなられるには惜しい人だったな。善人と美人は薄命なものだから、クラピカも気を付けなよ」

 意訳すると、あんまり逆らうなら君も殺す。といったところか。

 馬鹿でいるくらいならば死んだ方がましだ、あるいは簡単に殺されてやるものか。

 果たしてどちらを言うべきか、悩むところだ。

「ならば民衆に『パンが無ければ菓子を食え』とでも言ってやろうか?」

「最近暇だから、革命もいいかもしれないなあ。起こせるものなら起こしてみな」

 その台詞を言うにはこの国は豊かだよ、とクスリと笑う。

「もう来てるからには帰せないよ。君が部屋に入れないなら俺の部屋においで願うかな」

「………解った、部屋で待たせておけ」

 こいつに引き渡すのだけは避けたい。その娘のためにも。

 

 

 

 へぇ………。

 これが、クラピカのその娘を見た第一印象。

 正直、押し売りをしてきたくらいだから、どんな女かと思っていたのだけど。

 寝台に腰掛けているのは、控えめな銀の髪から覗く白い肌、透き通った青い双眸。

 悪くない、というよりもかなりの上物。

「お前がゾルディックの?」

「キルアっていいまーす」

 ニッコリと、幼いほどの無邪気な笑顔が眩しい。

 っていうか口調からして本当に幼くないか?いや見た目このくらいなら普通かもしれないが。

「………最初に言っておくが、お前も政略上無理に連れて来られたのだろうし、私は抱く気は無い。今夜は何も無いと思って眠れ」

 とりあえず一気にまくし立てる。

 当人の幼さに、おそらく家の方は本気で外戚を狙ってきたなと思ったから。

 しかし

「政略じゃないよ。オ……わたしが無理に押し切ったんだから」

「君が?」

「どうしてもアンタに会いたくってさ」

 良家の娘の割に口が悪い。

「どういう意味だ」

「簡単に言って、惚れた。アンタが好きです」

 本当に簡単なお答え。

「それは光栄」

「あ、信じてないな」

 クラピカの目がスッと細められる。

 こうしてみると冷酷な印象さえ受ける。

「どこを?」

 間近で見ると慣れぬ者は引きそうな視線に、しかしキルアは逆に嬉しそうだ。

「見た目も性格も。国に対する姿勢も全部」

 その言葉を向けられ浮かべた侮蔑の表情の中に、1瞬だけ垣間見せた寂しさを見逃さない。

「最初の以外は見当外れだな。表面上私の国でも、私は飾りにすぎない。お前は仮面しか見えていないよ」

「知ってるよ、そんなの」

「…………何?」

「宰相とは、ウチの母親と同郷だとかで付き合いあるもん。アンタの話も聞いてる」

「は…………?あいつゾルディック家の縁者だったのか?」

「いや、オフクロは家違うから」

「話って、何の」

「基本的に仕事の。ほらウチってこの国目玉の暗殺一家じゃん」

「は?」

「え?」

「暗……殺………?」

「あ、知らなかった?この国は宰相自ら筆頭の暗殺国家で有名だって」

 そうか、旅団って………

「どうりで貧弱な土地の割に豊かだと思えば………成程、自国の目玉産業すら知らずに何が領主か………」

「クロロがそれだけ隠してるってことだろ?クラピカ、かなりあの人に気に入られてるね。クロロの話聞いててアンタの事好きになった」

 何を話されているのだろう。

「クロロに任せておけば楽なのに、独学で勉強して国のために尽くそうとしてるところが好き。周り敵ばっかなのに屈服しないで逆らい続けてるところが好き。そういう努力を民には見せようとしない姿勢が好き。まだ言おうか?」

「いや………いい」

 会った事がなくとも、見ていてくれる者がいたのか………。

「好き。大好き。会いたくって、どうしようもなくなったから、1晩だけでもと思って来た」

「うわっ」

 ぐい、と手を取られて引き倒された。

 仰向けの視線の上にキルアがいる。

 一瞬流されそうになったが、

「せっ、積極的すぎるぞお前!それに私は今間違っても子供を造る事は出来ない………って、え?」

 喚きながら押し返した感触に違和感があった。

「大丈夫。間違ってもできないから」

 ニッコリ笑って頭に手をやる。

 長い髪が落ち、同色の短い髪が現れた。

「おまっ………男?」

「そゆこと」

「しかも年頃の女に化けられるということは子供………」

「今年で12歳。まあまあでしょ?」

 何が。

 何と言うか展開についていけないクラピカが呆然としているうちに、男の気遣い、キルアの腕が寝台の燭台に伸びた。

 なし崩し的に暗転。

 

 

 

 

「う……………」

「あ、気が付いた?」

 目が覚めたらしいクラピカに向かって、キルアは声を掛けた。

「し………」

「し?」

 し……死刑?

 その位の事した自覚はあるし、もとより覚悟の上。

 自分どころか一族郎党斬首されてもこの人に会いたかった。

「信じられん………」

「なんだ、それか」

 痛むのか眉を顰めながら身を起こすクラピカは、寝起きのためか生彩が欠けている。

「………………………」

 もそもそと背を向けて衣服を見につけている間中無言。

「あのー、クラピカ?」

 声を掛けると、着終わった彼が振り向く。

「命知らず」

「それだけ情熱的ってこと」

「死んでも良いのか?」

「そりゃできれば死にたくないけど、望みは叶ったしね。アンタもその様子だと宰相とデキてるって噂、嘘みたいだし、満足してるよ」

「…………………」

「どしたの?」

「1人消すのと国民半分にするのはどちらが簡単か考えて、即座に半分の方だろうと結論を出した自分の思考回路に嫌気が差しているところだ」

「?」

 やれやれ。

「私に惚れたって?」

「へ?………う、うん」

 何を今更。

「実際に会ってみても?」

「勿論。ってかもっと好きになった」

「ふぅん………………」

 しばし考えている。

 なんなんだろう?極刑を考えているよう……には見えない。

「今度嫁ぐというのは無論嘘だな」

「そりゃね」

「付き合いがあるというのならあいつは知っていたろうに………何を企んでいるのやら」

 あいつ、とはクロロのことだろうか。

「死刑と投獄どちらを望む?」

「投獄、かな。生きてりゃ万が一にもアンタに会える機会あるかもだし」

「なら決定だな。お前、今日から側室だ」

「は?」

 はい〜!!??

「なにをどうしてそういうことに!?」

「暗殺一家出の者ならそうそう死なないだろうし、お前は革命を起こしそうだから」

「革……命?」

「起こして見せろ。それなら傍に置いてやる」

 そう言って笑う領主様は、脳内革命起こしそうなくらいにキレイだったとか。

 

 

 

 

 

 

 数日後

「クラピカ!」

 領主にずかずか近づく重そうなシルエットひとつ。

「どうしたキルア、騒々しい」

「どうしたじゃねえよ!だから何で俺の服女物なんだよ!?」

 しかも身長的にヒラヒラではなくズルズルになっているため重苦しい。

「似合ってるぞ」

「嬉しくねぇよ。大体こんなのアンタの方が似合うって」

「私はそんな服着る必要はない」

「俺だってないだろ」

「側室だから。男とばれたらまずいだろうが」

「会う奴は皆バレまくってんじゃん。勘弁してよ」

「何があるか判らないからな。用心のためにも必要だ」

 

「団長」

 その様を少し離れたところで見る物2人。

「なんだシャル」

「結局なんだったワケ?」

「面白くなったろう?」

「ライバル増やしてどうすんのさ」

「手に入れてしまえばそこまでだからな。5年で飽きるには惜しい逸材だったから」

「ややこしい性格」

「知らなかったか」

「知ってたけど。にしても今のクラピカ見てると本当に団長に愛されてるんだなーって実感するね」

「どこらへんがだ?」

「愛し方ソックリ」

「そうか?女装させる趣味はないぞ」

「クラピカにもないでしょ。そうじゃなくて、気に入った相手とことんからかいまくるトコ」

「うーん、感染ったか」

「まだまだ国乗っ取ってまでおちょくる人には及んでないけど」

 ふぅ、やれやれ。

「キルアに同情するね」

 気に入られてはいる、けれども未だクロロに対する牽制というか、あてつけの意味合いが強い。

 それは多分キルア当人も察しているところ。

 本人に顔を向けると、言い合いに負けたのかキルアが引き下がるところ。

 と、突然方向転換して近づいてくる。

 ピッ!

 とクロロを真っ直ぐ指差し、

「宣戦布告!」

 とだけ言って立ち去った。

 クク、とクロロが喉の奥で笑う。

「同情するか?」

「前言撤回。面白くなりそうだね」

「だろう?」

 

 

 

緑溢れる小高い丘の

ひっそり佇む白亜の城

 一見平和な日常は

 期待溢れた革命前夜

 

 

 

 

 

 

ええと、まりさんからのリクエスト

『領主、「クラピカ」
 町娘(?)「キルア」

 今度結婚するという、町娘のキルア嬢。
 キルア嬢の住む町の領主は、金髪美人のクラピカ氏。
 強引に初夜権を押し売るキルアに、しぶしぶ王城の褥にキルアさんを招く領主のクラ氏。
 でも、いざコトを始めてみると、なぜか美味しくいただかれたのは、クラピカさんの方でした。ちゃんちゃん。
 ちなみにキルア(男)×クラピカ(男)です。』

というものでした。で………できてますでしょうか?ハズれてます?

 

まりさん、遅れまくって申し訳ありませんでした〜。こんなんで良ければお納めくださいませ。

 

 

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