Merry Go Roundみたいな君
二月十四日、聖バレンタインデー
元々の宗教上意味や、菓子業界の陰謀はこの際置いといて、国によっては女の子にとって大変意味のある日
当然恋人同士の間では普段よりも数段甘やかな雰囲気を演出できる……………はず
例外もいるけど
「いつまで寝ている、さっさと起きろ!」
バサッ
「おわっ!?」
声と共にシーツを思いっきり引き上げられて、キルアはベットから転がり落ちた。
「…………ったー。って、あれ?クラピカ?」
シーツを持って立っているのは、隣の家の先輩。
「目が覚めたのなら早く支度しろ。遅刻するぞ」
この言葉遣いと仁王立ちさえなければ完璧な美少女なのだけど……。
「いや、それより何でウチにいんの?」
「鍵の場所を教えたのはお前だろう」
「だって今まで一度だって―――――」
「うだうだ言ってないで支度しろ」
「………ハイ」
クラピカが部屋から出て行って、言われたとおり着替えをしながら考える。
今時いるのかな膝丈スカートなくらい優等生なクラピカが、近所だからと教師から遅刻魔なオレを引っ張ってくるよう頼まれてるのは知ってる。
「でも断ってたよな……?」
わざわざ色をつけてもらう必要の無い程の内申点を獲得している彼女は、結果一度もこの家に来ていない。
その自信どおりに先日地区で最高レベルの高校に受かった筈。
それが何で今更……
「…………まさかね」
ふと、カレンダーに目をやったキルアは自分で否定しながらも、淡い期待を胸に部屋を出て行った。
「お待たせ」
「ん、では行くか」
「その前に、選りにもよって今日この日に自分に好意をもってる奴の家に来たことに意味はある?」
クラピカには既に告白済みだ。
しかしはっきりとした答えが貰えないまま今日に到る。
今日……そう、バレンタインの日に。
言われたクラピカは一瞬呆けたような顔をして(けっこう珍しい)、すぐに合点がいったようだった。
「ああ、持ってきている」
「え、マジ!?」
照れた様子も一切見せないのはちょっと気になるけど、貰えるのなら文句はない。
クラピカはカバンを開けて手作りらしき巾着袋(変なトコ古風だな)を取り出した。
その中からチョコらしき小さな包みをひとつ、手渡してくれた…………のはいいんだけど、
「どうした?」
ラッピングがお手製なのもいいんだけど、
「いや……ありがと」
それと同じ包みが巾着一杯に入ってるのはどういうわけだ?
……クラスの男子にでも配るんだろうか。
つまりは『その他大勢』と同レベルだと言われたようなものだ。間違いなく義理。
もしかして婉曲に断られたのかな………?
朝の一件で少しブルーになっていたキルアだったが、その程度でめげてちゃ明日は無い!
バレンタインなんだからもう少し良いことがあってもいいはず!
と、普段絶対払いのけられる事確実な『手を握る』を、懲りずに実行してみたり。
「……………………………」
しかし特別な日である今日、クラピカはそうはしなかった。
脈アリ……かな?
校門付近まで来た時に、待ってたらしい女子数人のグループが駆け寄ってきた。
はっきり言ってキルアはもてる。
顔良し、性格良し、スポーツ万能。
一年にしてそのファンは学年を問わず多い。
そんな訳でその集団はこの機会にチョコを渡そうとしていたのだろう。
しかし、
「あの、キルアく…………!」
クラピカと手を繋いでいるのが見えた途端、何も言えなくなってしまった。
クラピカは、その近寄りがたい言動により面と向かっての交際申し込みなどはない。
しかし、学年トップの成績と、もしミスコンがあったなら間違いなく一位であろう容姿。
水面下ではキルアに優るとも劣らずな数のファンが(性別を問わず)ついている有名人だ。
この二人のツーショットは非常に絵になる(身長差には目を瞑りましょう)。
手なんか握って登校された日には、決意も鈍るというもの。
途端、今になってクラピカが慌てた様子で手を離した。
「クラピカ?」
訝しげな声になったのは払われたことにではなく、その所作がわざとらしく思えたから。
「………学校では先輩と呼べと言っているだろう」
確かに言われている。言われてはいるが今ここで『学校では』なんて限定した言い方をすればどうなるか。
「………………………」
遠巻きにしていた女子たちが離れていく。
ほら、『学校外では付き合っています』って言ってるのと同義じゃないか。
ホント、何考えてんのか判んない。
学校という狭い世界では噂が広まるのが早い早い。
それが校内でも1,2を争う人気者たちなら尚の事。
結局、この日キルアに近寄ってきた女子はゼロだった。
それでも少女達はなけなしの勇気で下校時を狙ったが、
「あ、奇遇だな。今帰りか?」
偶然を装ったのバレバレでもう1人の噂の張本人に待っていられてはどうしようもない。
「うん……………」
「意外と、演技派だね」
「何の事かな」
さすがにもう手を繋いだりはしないものの、家の方向が同じなためタイミングさえ合えば一緒に帰ることになる。
「でもって演出家。おかげで今年はオレ、チョコ一個だよ」
「へえ、それで?」
訊き返す様子はどこか楽しげだ。
「アンタなりの、他の女子に対する牽制と見ていーんだよな?」
「…………だったら?」
クス、と挑発を含めた微笑。
「一月後、また手握ってても文句ないなってこと」
「……必要ないと思うがな」
よぉし、とりあえずはOKと受け取ってよさそうだ。
「なーに言ってんだか。あんだけチョコ配っといて」
お返しに来る奴片っ端から追っ払ってやる!
本当に必要ないと思うよ、と言いながらクラピカは家に入って行った。
自覚ないなぁ、と思いながらキルアも自宅のドアをくぐり………
そして固まった。
「…………ったく、どこまで不意打ちが上手いんだか」
靴箱の上には朝見た巾着袋、無論中には一杯に詰まった手作りチョコレート。
考えてみれば、あの模範生が学校に違反物を持ちこむ筈がなかったか。
まったくオレもまだまだ修行が足りないね。
二月十四日、聖バレンタインデー
恋の進展する日
どうやらこの二人も例外ではなかったようだ
………この際クラピカが、男子に配りはしなかったものの女子から結構な量のチョコを受け取っていた事など伏せておこう。(再度言うが彼女のファンは性別問わず)
頑張れ、オトコノコ!!
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撫子さんのリクエスト『学園物でキルクラでバレンタインな話(ピカ女)』でした。
割と一般的なリク内容と思われますが、ひっじょーに苦労しました。これでも。ええこれでも。
女クラピカを書く事自体初めてで、しかも学園物!とくればスカートか!?とか、バレンタインと言う事は多少なりとも甘く可愛く?まあなんて馴染みの無いお言葉。とか。
朝、隣の家の美少女が起こしに来るのは男のロマンよね、とか妙なこだわり発揮したりして楽しんではいましたが。←オヤジか私は
タイトルはZABADAKより
撫子さん、遅ればせながらお受け取りくださいませ。