「鬼ごっこ大会?」

 そんな話、寝耳に水なハリーは思わず聞き返していた。

 

「そう!タッチする毎に鬼が増えて、最後の一人が優勝。上位3人には賞品もつくんだってさ!頑張ろうな!」

「いや、何でこの歳になってまでそんな子供っぽいこと・・・・・・」

 やる気満々といった風情のロンに水を差すようで悪いが、それが本音だ。

「あらハリー、全学年対象よ?」

 それに、普段学んでいる魔法を試す絶好の機会なのだと熱弁するハーマイオニーもやる気だ。

「うーん、それにしたってなぁ」

 この辺り、マグル育ちの差だろうか。子供のやる事というイメージで、いまや最上級生に位置する身としてはあまり気乗りしない。

 いや、ハーマイオニーもマグルだけど。

 

「そんな事言って、いっつもハリーは最終的にいい所まで食い込むくせに」

「いやそれ僕の意図した所じゃないし」

 いつも巻き込まれに巻き込まれて、解決しなけりゃ命が危ないような目に遭うからだって、知ってるくせに。

「いーや、今回もきっとそうなるに決まってる!だけどハリー、優勝は渡さないからな!!」

「だからロン・・・・・・・・・」

 聞いていない親友に、ハリーはがっくり項垂れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういやさっきの話だけどさ、いつ開催だって?」

 その時はそれ以上聞く気にならず、数分たった今になってその事を知らないと気付いた。

 調度ロンの姿も見えないことだし、ともう一人の親友に問いかけた。

 ロンに訊くとやる気になったのかと勘違いされそうで嫌だったのだ。

「今更ねハリー、今日の昼からよ」

 フォークを操る手を止めないまま、ハーマイオニーが答えてくれる。そう、フォークを止めぬまま・・・・・・・・・

「今!?」

「食べ終わってからでしょう?早く食べて教室に戻りましょうよ」

「ちょっと待った。・・・・・・・・・ロンは?凄い急いで食べてたけど・・・・・・・・」

「偵察ですって」

「やっぱり?」

 ホント、やる気なんだなぁと呆れつつ、ハリーは最後の一口を詰め込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、ロンはまだ?」

「確かに遅いわね。もう始まっていてもいい頃なのに」

「まさか、早速捕まって鬼になってたりして」

「・・・・・・あり得るわね」

 なにせ要領のあまり良いとは言えないロンだから。

 はは・・・・・・、顔を見合わせて乾いた笑いを浮かべていると、バタバタと近付いてくる足音がした。

 ロンか、それとも鬼か?はたまたその複合か。

 

 バタンッ!!

 

 まぁ、どっちかではあるであろうと踏んでいたのだが、扉を開け放つ派手な音と共に部屋に雪崩れ込んできたのは予想に反して死霊軍団。

 詳しく言うならスケルトンとグールの大群。

 

「何で!?」

 

 その場に居た殆どの生徒が悲鳴を上げて逃げ惑う中、腰掛けたままのハーマイオニーがポツリと言った。

「そういえばロン、告知があってから血眼で幻術の資料読み漁ってたわね」

「げ・・・・・・幻術?」

 そう言われてみるならば、奴ら微妙に輪郭がブレていたり、透けていたり。

 しかし、いくら害はないと知ったところで気分の良いものではない。

「どうする?」

「そうねー・・・・・・・・・」

 ハーマイオニーは気の無い返事をした後、自身の杖をくるくると回した。

 直後、机上のペンが浮き上がり、ある方向へ勢い良く飛んで行った。

 

 ドガッ!!

 

 ペンはグールの内の一体、その左目に突き刺さった。

「げっ!」

 無論、見ていて気持ちのいい光景ではない。

「そこね」

「ちょっ、ソコってまさかロン!?」

 その言葉を裏付けるように、

 

 パキィン

 

 似合わぬ澄んだ音を立てて、幻影達が砕け散り、霧散した。

 後に残るのはペンが刺さったグール、いや幻影の解けた今、ロンのみで・・・・・・

 

「ってやり過ぎだよハーマイオニー!!

「大丈夫よ、ほら」

 言われて見れば、瞳に突き刺さったように見えたペンは、彼のフクロウであるピッグウィジョンが嘴でしかとキャッチしていた。

「いつの間にそんな調教を・・・・・・・・・いやそれにしたってやり過ぎだって」

「文句言うならハリーがやりなさいよ」

「ヤだよ」

 

 

 さて、そんな事言い合っている間に、術を破られたロンもショック(どちらかというとペンが怖かったのだろう)から溶ける頃で、

「ふっ、さすがだねハリー」

僕じゃないよ。何で誰も彼も僕を中心に置きたがるんだよ!?」

「問答無用!癪に障るから君達にも優勝を諦めてもらう!!」

 などと、とっても小者的発言をしたロンは、

 

 

 途中経過を省いて結果だけ言うと、今現在クラス全員から吊るし上げをくっていた。

 

 

 比喩ではなく、本当に縄でグルグル巻きにされてぶら下げられ、しかもそれが逆さ吊りだったりする。

 ちなみにこの刑を行ったのは主にハーマイオニーであり、身内に対しても容赦が無いと周囲から一歩引かれているが、本人は気にしていないようだ。

 ところでこの間にも他の鬼が入ってきては争いになっているのだが、吊るされているのはロンだけだ。無駄に騒がせた罪だろうか。

 

「やれやれ、どうロン?そろそろ少しは頭冷えたかい?」

 また一人鬼を撃退したハリーが近付くと、逆さまのロンが小声で何かを呟いた。

「え?何、聞こえな・・・・・・・・・」

 

 ゴン!

 

「いっ、痛ー!!」

 聞き取ろうと近寄ったハリーに、勢い良く頭突きがかまされた。

「何す・・・・・」

「タッチしたぞ!」

 誇らしげにロンが叫んだ。

 

 なるほど、頭突きも接触ではあるのだからタッチになるわけか。

 ハリーが暢気に感心している間、ハリー(とロン)の周囲からクレーター状に人が退いた。怯えた気配が伝わってくる。

 ふむ、ハリーは考える。

 鬼になった事は別にどうでも良いが、どうにも自分は威圧感を与える対象であるらしく、このまま周りの皆がイベントを楽しめないのも可哀想だ。

 

「ハーマイオニー」

 名指しをすると、彼女が居る一角がモーセの十戒の如く人が割れる。

「何かしら、ハリー?」

「そんなわけだから、僕を縛ってくれて構わないよ。逆さ吊りは勘弁して欲しいけどね」

 冗談めかして(多少本音だが)杖をしまうと、ハーマイオニーがにこりと笑って近寄ってくる。

 近寄って・・・・・・・・・あれ?

「近過ぎない?ハーマイオニー。これじゃあタッチできちゃうよ?」

「問題ないわ」

 手を伸ばせば触れられるような距離まで来た彼女がニヤリと不敵に微笑み、告げた。

「だって私、さっきロンに触っちゃったもの

 

 間違いなく、爆弾発言だ。

「え」

 

 えええーーーー!!

 

 ハリーが聞き返す前に、クラス中で奇声が上がった。

「ちょっと待ってよ!貴方あの後私達の傍にいたじゃない!」

「ええ、そうよラベンダー。それから貴方の肩を叩いたりしたわね」

 ニッコリと笑ったハーマイオニーを含むハリー達3人から、クレーターが更に広がる。

 

「な、情けないなポッター!こんな早々に退場とは・・・・・・・・・」

「ああ、マルフォイ」

 宿命のライバルの姿を見て取ったハリーが、ローブから仕舞ったばかりの杖を取り出した。

 

 生まれて間もなくの時点から既に伝説で、かつ学校に入ってからも数々の英雄的事柄を成し遂げているハリー。

 毎年満点の答案を、その2倍の点数で獲得してきた稀代の秀才ハーマイオニー。

 この二人が背中合わせで杖を構えて。

 

 喧嘩を売れるものなど居ようはずもなし。

 クレーターは最大の広がりを見せた。

 

 

 その後、パニックを起こしたクラス中の殆どが鬼と化すのにそう時間はかからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・おかしいな。

 そんな中、ハリーは首を傾げていた。

 何か引っ掛かる。

 先ほど、ハーマイオニーの言葉を聞いてから。いや、立場を知ってから?

 何か、おかしい。見落としている何かがある。

 

 

 ハリーが考え込んでいる間に、3人を除いた全員が円陣を組んで残る者のいぶり出し作戦を練っていた。

 やがて解散し、部屋の隅々まで探し回っていた内の一人が声を上げた。

「隠れてる奴がいたぞ!!」

 机に潜って縮こまっていたネビルが晒し者になった。

「ち、違うよぅ、僕は最初の方で踏まれたから、きっともう鬼だよぉ」

「だったら紛らわしいことすんな!」

 

 

 ハリー達の方へ投げ出されたネビルを、ハーマイオニーが助け起こしてやっている。

 

 

 ・・・・・・・・・今のもヒントだ。

 わかった気がした。

 

 

「ハーマイオニー。ひとつ聞きたいことがあるんだけど」

 声を掛けられたハーマイオニーは一つ瞬くと、再び不敵な笑みを浮かべた。

「ひとつでいいのかしら?」

「いいよ、充分だ」

「なぁに?」

 疑問はいくつかあったけど、解決したと思われる今、確認だけでいい。

 

「どうして、ロンを降ろしてやらないの?」

 

 ネビルが、そういえばそうだと言うように不思議そうな顔をした。

 そう、最初の鬼だから吊るしたのだったら、彼女が鬼になった時点で拘束は不要だ。

 

「つまり、そういうこと?」

「ええ、よくわかったわね。こういうことよ

 ポン、とハーマイオニーはハリーの肩を叩いた。

 次の瞬間

 

 

『諸君!』

 我が学園長の声が鳴り響いた。

 

 

 

 

『たった今、最後の一人が決定した!これより上位三名の名を呼び上げる。まずは三位・・・・・・』

 イベントの終了を告げる声に、皆誰が残ったのか興味深く耳を傾ける。

 

 

『ハーマイオニー・グレンジャー!』

 

 え?とクラスの殆どが意味が分からないといった顔をした。

 3人を除いて。

 

『二位、ハリー・ポッター!!』

 やっぱりね、という表情でハリーが頷く。

 

 このゲームでは、鬼が鬼とわかるタグをつけているわけではない。

 ハーマイオニーは、ロンに触れたと自分で言うまで鬼と思われていなかった。

 ネビルは、踏まれたと言うまで鬼だと思われていた。

 ダンブルドアならば本当の所もわかっていようが、自分達には見分ける術など、その場を見ていなければ分かりっこない。

 つまり、

 

『そして最後まで逃げ切った優勝者の名は』

 つまりは、自己申告制なのだ。

 

 

『ロナルド・ウィーズリー!!』

 ロンが、すっかり血が上り自身の髪よりも赤くなった顔で、ニヤリと笑った。

 その表情は先ほどのハーマイオニーのそれと重なる。

 そうだった、彼はあの悪戯双子の弟であることを忘れていた。

 

 最初に、自分が鬼であるような顔をして捕まれば、それも逆さ吊りにまでされていれば、誰も寄っては来まい。

 全員、まんまとしてやられたわけだ。

 

 

「ハーマイオニーもグルだろ?ひどいよ何で僕だけ仲間はずれ?」

 そう、彼女の見せた容赦の無さは、ロンを、ひいては彼女自身を守るため。

 

「だってハリー、興味なさそうだったじゃない」

「そうそう、だから言ったろ?ハリーはいつも最終的にいい所まで食い込むって」

 でもって優勝は渡さない、とも。

 結局、全てロンの言った通りになったわけだ。

 

 

「ハリー。楽しいイベントだったろ?」

「・・・・・・・・・そうだね」

 まだ少し憤りは残っているけれど、マルフォイのぽかんとした間抜け面でも眺めて水に流す事にしようと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

皐紗夜ちゃんに、バナー御礼として捧げます。ありがとねーv

こ、これでいいのかな?ハリポタは初めて書いたから勝手がわかんなくて。

最初、親世代のネタ考えてたんだけど、暗いんだよね。そんな時にこんな夢(ほぼそのまんま)をみたのでこっちにしてみました。

出番自体は少ないけど、貴方の好きなロンにスポットを当てたつもりなのですが、いかがでしょう?

 

タイトルがちっとも決まらなかったのでそのまんまモノになってしまったのが恥ずかしい。

 

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