懐かしい未来

 

 

息が白い。

寒い季節がやってきた。

あまり外には出たくなかったけど、そうも言ってられない。

廻りまわって、あまりないペアで買い物をすることになった。

 

店から出て、マフラーを巻きながらふと、隣を見る。

連れは手袋もしていない。こーゆーとこボケた人。

頭いいのに抜けている。神経質の割りに大雑把。

そんなアンバランスさが同居している。

大した意味など無かったのだけど、

ふとしたはずみに触れた手が、すごく冷たいものだったから

まるで

    死人のように

 

 

 

「つけろよ」

「え?」

 唐突に差し出された手袋。

「冷えきってんじゃん、貸してやるつってんの」

「必要ない。それにお前はどうする」

「子供は風の子ってね?いーからさ」

 子供扱いされれば怒るくせに。

でも

寒かったのは事実。

気付かなかったけれど、言われた途端に冷えている事を知った。

「……………ありがとう」

 その時は 大した意味など無かった。

 

 返し忘れた事に思い至った時には出発していたから。

 郵送しようかとも考えたが、次に会った時でいいかと思い直す。

 そう

   次に会った時で……………………

 

 

 

それきり、しばらくそんな事は忘れていた。

次に思い出したのは仕事中。

強い相手と対峙している時だった。

 

命の危機を感じた時、いつも脳裏に浮かぶのは同胞の事、蜘蛛の事。

只管にそれだけ。それこそが私であるという証。

それなのにその時はもうひとつ。

まだ、あの手袋を返していないと。

戦闘中でありながらのその長閑さに、我ながら戸惑った。

 

 そしてそれは、一度ではなかった。

 

 懐かしい情景が胸をよぎる。

 でも、だめだよ。

 まだ、だめなんだ。

 

 まだ それでも  いつか

 

 

 

 

 

 次に顔を合わせたのは、蕾も開く時節。

 防寒具など、不要な時に

 

「以前借りた手袋……………もうしばらく借りていても良いだろうか?」

「え?」

 はっきり言って、こっちとしてはそんな物の存在とうに忘れてた。

「ああ、うん。何ならやるけど?」

 思い当たって、持ってくるの忘れたのかなって、そう言ったんだけど

「いや、貸していてくれ。きっと、返すから」

 きっぱりと言い切る彼は、何か吹っ切れたような面差しで、

 何となく、

やっと……………その一端を掴むことを許されたんだって、

そんな気がして頷いた。

 

『きっと、返すから』

 言葉だけではない

確かな約束

          ――――また、会おう――――

 

 

 

 再び廻る季節

 また、手先が冷気にかじかむその時期に

 

「まだ、返せないから」

 換わりにと、手渡されたのは暖かそうなミトン

 実のところ、ミトンは苦手だ。

 指付きのだって感覚が鈍るからなるべくならしたくない。

 なのに指もないんじゃ、いざという時どうするのか、不安でしょうがない。

 

 でも

「サンキュ」

 本当は、脅えるような出来事なんて、今の生活じゃあほとんど起こらない。

 だから

 オレが、この不自由に慣れる頃には

「大事にする」

 きっと、目の前の人も返しに来れるようになる。

 根拠なんて一切ない。

 でもね、間違い無いよ。確信できる。

 

 

いつか

あたたかな手をとって

目的もなく二人で歩く

 

そんな情景

確かな予感

 

 

 

 

 

 

 

 

片津さんのリクエスト「手袋」でした。

短くまとまって嬉しい。なんか勝った!って気がします。

書きたいものは削らず、短く書くのは難しい。ちょっとやりすぎてあらすじっぽくなったかもだけど。(ある程度はわざとだが)

私としてはこういう話好きなのですが、一般的にはどうでしょう?

今回はHPならではの文字色変え、そして名前は一度も出さず。本来こういうのの方が得意な私です。

タイトルが決まらなかった(コレに時間がかかった)ので迷った末いつもの通り新居昭乃さんのアルバムから

 

遅くなりましたが片津さんに捧げさせていただきます。

 

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