まるで猫。
足元で伸びきっている同級生にそんな評価を下す。 よくもまぁ、こんな硬いうえに日差しで熱くなってるようなコンクリートで熟睡できるものだ。
「眩しくないのかな・・・・・・?」 返らない呟きをもらした後、屈み込んで手を翳した。 彼の目の位置に影が来るように。 ただの気紛れなのだけど。 それを言うならここ、屋上に来たことからして。
「んー・・・・・・?」 寝易くなるかと思ったのだけど、どうやら逆に起こしてしまったらしい。 別にどっちでもいいけど。 「ん、不二」 「邪魔したね」 状況がわかっているのかいないのか、へらっと笑って名を呼ぶ彼から手を引っ込める。 「んーん。オレ不二の手好きだし」 「・・・・・・・・・はい?」 唐突な。 寝ぼけてる・・・・・・のでも無さそうだ。 成る程、自他共に認める気分屋の称号は伊達じゃないということか。 たいして親しくもない同級生を人生ゲームに拾う時点で知っていた事ではあるのだけど。
「いっつもスゴイなーって見てた」 何が。・・・・・・ああ続きか。 「あの絶妙なボールコントロールができるその手が好き」 「そ、そう・・・・・・?」 手塚のように圧倒的な強さがあるわけではない。 褒められる事は少なくないけど、こう明け透けに好きと言われると少し・・・・・・照れる 「不二顔赤いー」 「菊丸!」 「エージって呼んでってば」 てば、というほど言われてない。春休みに言われたきりだ。 というかその後ロクに話してないし。以前通り。 「き・く・ま・る・く・ん」 「うわ、感じワル。くんまで付けたし」 一字一字区切って言ってやると、眉根を寄せた。 彼にしては珍しい表情だ。 手塚みたい。と、ちょっとどちらにも失礼な感想。
「悪かったね感じ悪くて」 「あー、オレが悪かった、好きに呼んで」 「言われなくとも」
ちょうど話題が途切れたところを狙ったかのようにチャイムが聞こえた。
「あ、予鈴?戻ろ不二」 「・・・・・・・・・あー、やけに堂々としてるとは思ってたけど、それでか」 「へ?」 「急がなくていいよ。後5分・・・・・・じゃないから」 「え゛」 ピシリと固まった彼に、やっぱりそう思ってたか、と思いながら続ける。 「10分あるから教室戻るには充分でしょ?」 「・・・・・・・・・ってーと、今は昼休みじゃなくて・・・・・・?」 「5限終了のチャイムだね」 僕ら以外誰もいない点で気付きなよ。 「うっわ、ヤバ!次ぎやったら親呼び出しって言われてんのにこんな新学期早々ー!!」 「前科持ちは大変だね」 「不二だってサボってんじゃん、今」 さらりと言ってやると、恨めしそうな眼差しで返してくる。 「何?この前の部活サボりから開き直った?」 「それを蒸し返さないで欲しいな」 春休みのあの件は思い出したくない汚点だ。 無断欠席として延々嫌味言われたし。
「そんだけ気にしてんのに何やってんのさ?」 「僕は今気分悪いから」 「そーは見えないし。つーかだったら何でこんなとこいんだよ」 「気分悪くて保健室向かったけど、途中吐き気がしてトイレに篭ってる最中なんだ。今」 「?」 訝しげな顔。どうしよっかなーと迷うけど。 「だから、そんな僕が誰かと会ったとしたら、その誰かも同じ状況にいなければいけないと思わない?」 「えーっと、つまり?」 概ね察したようだけど、確認のように聞いてくる。 「端的に言うなら『口添えしてやるからチクるな』ってことかな。OK?」 「乗った!」 「そうこなきゃ」 どこかでやったようなやり取りを交わして、頷く。
「じゃ、6限目始まる前に戻ろうか、エージ?」 「あ、今名前で呼んだ?」 「さぁね」 「不ー二ー」 「ほらほら行くよエージ」 「んー」 仰向けのままの猫を促すと手を伸ばしてきたから、起こして欲しいのかと掴んだ・・・・・・が、 「次の時間なんだっけ?」 「日本史・・・・・・って起きてよ」 「じゃ、いーや得意だし。もう少し『トイレ』にいる方向で」 ニカっと笑う様子は愛嬌あるけど、絆されるほどでもない。 「一人でいなよ。だったら離して」 「やーだ」 「うわっ」 掴んだままの腕を引っ張られて倒れこむ。 「あのねぇ・・・・・・」 「まーまー」 ぽんぽん、と寝転んだまま肩を叩いてくる。 懐かしいようなその行為に、何かじわりと沁みるような感覚がして、慌てて頭を振った。 「不二の具合悪いの、少なくとも教室出るまでホントだろ?それもここんとこずーっと」 「・・・・・・たいしたことないよ」 見抜かれていた事に多少驚きつつ、表情には出すものか。 「具合っつーより気分だな、悪いのは。だから教室いたって保健室行ったって治んないよ」 「ここに居れば治るとでも?」 「多分。実際人の居ないキレイな空気吸いたかったんだろ?ホラ騙されたと思って横になって」 納得なんてしないけど、まぁここまで言い切られたからには騙されてやろうじゃないか、と諦めて隣に横たわる。
「風強いなー」 「そうだね」 「雲、何の形に見える?」 「さぁね」 「むー、夢がなーい」 でもって素っ気無いー、と抗議の声。 「悪かったね」 「まーた言ってる。自虐的ー。無いのは夢じゃなくて余裕だなこりゃ」 「わかったようなこと言ってくれるね」 呆れたような口調に少しムッとくる。 「その台詞、言い返せない時の常套句」 「・・・・・・・・・っ!」 「わかんないけどさ。風強いのは・・・・・・風当たり強いのは手塚ばっかじゃないんだよね」 「・・・・・・なんの話」 「耐えるんでもぶつかるんでもなくて、受け流す事にしたみたいだけどー、流しきれる程タフじゃないし、神様・・・・・・っていうかメシア?求めるほど弱くもないし」 「だから何の・・・・・・」 「もっと切羽詰ったらわかんないけどな。とにかく今はそんな、ちょっとしたストレスが続いてる。まだ少しスコア落とすくらいで済んでるけど、そろそろ授業にも食い込んできたみたいだし」 「ああ、僕の話?よくもまぁ、そんな勝手な印象を抱けるものだね」 打ち切って欲しくて小馬鹿にするように言えば、訥々と続いていた彼の声が途切れた。
「不二のテニス、好きだよ」
「・・・・・・・・・だから、何なのさ君は・・・・・・」 相変わらず唐突なそれは、だから構える前に響いてしまう。 「オレはそれしか言えないからー。不二はそれだけ覚えといてくれればいーよ」 へらっとした笑顔を見ていたくなくて目を背けた。 「それで、僕にどうしろって・・・・・・?」 「枕くらいにはなれるからさ、不二はちょっと休みな。お日様あったかいし、風も気持ちいーし。 きっと気楽に、力抜いて眠れるから」 頭の下に差し込まれた手は、強引なのに決して不快じゃなかった。 「・・・・・・そうすれば何か変わるかな?」 「起きる頃には元気になってる、オレが保障する!」 クス、作ったのではなく、自然に笑みが零れた。
「なんで構うの?」 「拾ったからには責任持つって言ったじゃん」 「まだ有効だったんだ、あれ」 「不二が返してって言うまで、オレのだもん。返して欲しい?」 「こういう特典があるならもうしばらく預けとく」 おやすみご主人様、と笑いながら言うと、柔らかい気配に意識を任せた。
追記・結局部活まで寝過ごして、二人して盛大に怒られた事を記しておく。 起こしてくれなかった事については、先輩の嫌味が全然気にならなくなっていたから許すけど。
いつもの如く友情主張にしては台詞がヤバイ。ご主人様はどうだろう・・・? 36というと屋上でサボり常習犯、な話が多いですが、中学の授業サボりはそう軽い事ではないと私は思う。 下手すりゃ一回で親呼び出しされるだろうよ。という思いを込めて。←そんなん込めんでいい そしてこのシリーズの不二はやはりイタイ人だなぁ。イジメというほどではないのだけど。 シェスタは必要だと思うんですよね。人間として。 この時点ではシェスタで直ります。まだ神を求めるほど参ってはいない。 どっかで見たような流れになってしまうのが不本意です。 それとも36で半シリアスやろうと思うとこうなるものなのか。いや多分私が未熟なだけだろうなぁ。
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