アニメ、異種格闘技戦を見て思いついた小ネタ。台詞は超うろ覚え。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんた、潰すよ」

 そう言う自称スパイ君は確かにかなりの腕なのだろうけど……

 

 その後彼の引き起こした騒動を考えると滑稽にしか思えない。

 

 

「全員グラウンド20周!」

 今日も手塚の声が響き渡る。

 まあ……そうだろうね。僕はテニスボールが散乱し、たった今まで大騒ぎだったコートをみやる。

 ……これを狙ってやったとしたら大したものだけど、とたったテニスボール1球でこの事態を作り上げた本人は逃げるところ。

 

「うわっ!?」

 走り出したところで足を引っ掛けられ、転びまではしないまでもスパイ――切原君がつんのめる。

「なにすんっ―――」

「まあまあ、せっかく来たことだし、どうせなら一緒に走らない?こうなったのも君のおかげなわけだし?」

 にっこりと、口調も柔らかく言ったはずなのだけれど、スパイ君は引きつるし、僕らの周囲10m程から人が引いたとこからしてちょっと不機嫌さが外に出たのかもしれない。

「え、遠慮しますっ」

 脱兎

 あ、逃げられた。

 うーん、なかなかの瞬発力。うちの新入生思い出すね。

 あれ、そういえばその当人、掃除とはいえ遅くない?

「不二、早く走れ」

 はいはい。

 

 

 

 走り終わってもまだ来ない。

「越前くん達、遅いね」

「桃も帰ってこないしな?」

 途中から姿の見えない桃は多分、越前を探しに行ったのだと思う。

 何やってるんだろ?

 そう思って何となく校舎の方に意識を向けると、何かざわついている気配がした。

 何だろ?と耳を澄ます。

 

「バスケ部の奴と謎の1年がフリースロー対決してるんだってよ」

「面白そうじゃん、見に行こうぜ」

 

「…………………」

 思わず英二と顔を見合す。

 謎の、1年。

 

 断定はできないけど、この日本においてそうそう上級生にたてつく奴もいまい。

 かなりのトラブルメイカーだし。

 

「…………………」

 面白そう、かも。

 

「ねえ、手づ―――」

「駄目だ」

「………まだ何も言ってないんだけど」

「そうだな、見物に抜け出す許可を求めて以外の用件だったならば訂正しよう」

「………………」

 鬼部長。

 

「ちょっと見てくるだけ」

「駄目だ」

「そろそろ5分休憩くらい………」

「決着がつかなくとも5分で戻ってくると誓えるならとってもいいが?」

「う…………」

 

 不二って変なトコ正直だよね、とは以前英二に言われた事。

 変なトコって何?って感じだけど多分こういう事なんだろう。

 面白いことが好きだし、途中でも絶対帰ってくるからとは誓えない。

 手塚に、嘘は、申せません。

 せいぜい今出来るのは、僕の方を向いている手塚の背後をでこっそり英二が抜け出すのを、気付かれないようにしてやるだけ。

 英二………ズルイ。

 

 

 

 

 

「手塚、お願い!」

「しつこいぞ」

 周りの目が『まだやってる』と言っていても気にしない。

 っていうかこうなると手塚もかなりしつこいって事だよね?

 こんなやりとりしてる位なら休憩入れた方が早かったと思うんだけど………。

 

 それでもようやく功を成したか、手塚が折れた。……普通に休憩入れる時間だったってのもあるかもだけど。

 

「今から10分間の休憩とする!」

 

やった。

えっと、どこでやってるのかな?

早速コートから出ようとそっちを見た僕の眼が固まる。

 噂の張本人を前にして。

 

 

 

「掃除やってて遅れました」

 それだけじゃないだろ〜という周りの声も気にしない、相変わらずのマイペース。

 ああ、終わっちゃったんだ………。

 面白そうだと思ったのに。

 残念。

 

 くやしいからといって手塚を睨んでも効果ないし、抜け出していたくせにちゃっかり輪の中に戻ってる英二の元にしのびよる。

「英二」

「ひゃ!?不二?」

 背後からスルリと首に腕をまわすと驚いた感覚が伝わってきた。

 割合僕らにはよくある程度のスキンシップだけれど、僕からはやや珍しいからか、目の前にいた越前が訝しげな目を向けている。

「よくも僕を囮にしたね?ズルイよ僕も見たかったのに」

 近くにいる越前以外には、いつものじゃれ合いと映っているらしく気に留めている者はいない。

 そう、体勢的にはいつものじゃれ合い。ただしそれにしてはちょっと力が篭っている。

「ズルイよ、エージ」

「いやオレも殆ど見れなかったし……って、ちょっ不二!絞まってるマジで絞まってるって――――!」

 後半、声になってない。

「ってことは少しは見れたんだ。ふーん、そっか」

「――――――っ!!」

 声が出なくて(ってことは息もできてないんだろうなぁ)暴れて抗議する英二だけど、残念、背後にいる僕を、引き剥がすのはもちろん殴るのも難しいだろうね。

 

「………不二先輩、それ以上やると本当にオチますよ」

 英二にとっての救いの声はちょっと意外な人物からだった。

 いや、まあ止めれる位置にいたのは彼くらいだったけどさ。

 

 するっと腕を解いて、彼の前に立った。

 後ろで聞こえるゲホゴホ噎せてる音をBGMにして、ニッコリ笑顔で問いかける。

「越前くん、勝ったんだよね?」

「当然っスよ」

 言葉と共に、ニヤッといつもの生意気そうな笑みを見て何となく満足した。

「そっか」

 僕も今度は自然に笑みが零れる。

 直接は見れなかったけど、まあいっかって気分になれた。

 

 

 

「オイ」

 ポンと肩に乗せられた手は未だケホケホと咳が収まりきれてない英二のもの。

「何?うるさいよ英二」

「誰の………せいだっ……て」

 喉をひゅーひゅー言わせながら(そんなに強く締めたっけ?)涙目で睨む英二の背中を笑って叩きながら、

「じゃあお互い収まりきらなかった分は6月ランキング戦でつける、ってことにしない?」

 これは久々の僕からの挑戦。

「八つ当たりのくせに」

 ジト目に、クスリと小さく笑って返した。

「嫌?」

「いんや、んでもオレらが当たるかはわかんないじゃん」

「まあ、そうなんだけどね………」

 

 

「手塚次第、だよね」

 

 にっこりと手塚に聞こえるように言って笑みも向ける。

 反応はないけれどしばらくその体勢を保つ。

 

 

 にこにこ

 

 

 と

 

 

「休憩は終わりだ!各自持ち場につけ!」

 

 

 

「………10分たってないじゃん」

「だよねぇ。じゃ英二、ランキング戦楽しみにしてるから」

 ぱっと向けた僕の笑みに、きっと本当に当たる事になるんだろうなぁと何やら複雑そうに英二はため息をついた。

 

 

「まだまだだね」

 小さく聞こえた呟きには、どういう意味か、まあ今回は追求しないでおいてあげよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以前「回収しない」とか言ってた気がするのですけどね。でも割と好評でしたので再録。

私の基本にも近いですし。

カップリングを考えないのならば私の不二は『手塚をからかう(プレッシャーをかける)のに生きがいを感じる越前のファン』ですから。菊丸は悪友、もしくは共犯者。よくも悪くも共犯者。